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【勇者ゲーム】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—【リメイク】  作者: 玄野 黒桜
第一章 知らない空が現実(きょう)になる

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第六話 想像してたのとなんか違う……

ちょっと予定と変更して第六話の更新です。

 遂にやってきた冒険者ギルド。俺も人並みに色んな作品で登場する冒険者ギルドを見てきたので、受付にいる綺麗で優しい受付嬢や併設された酒場や食堂で昼間から飲んだくれて登録に来た新人に絡む先輩冒険者とかを妄想してドキドキしていたのだが……


「えっと……ここ、本当に冒険者ギルド……?」


 イリスが冒険者ギルドだという建物にワクワクしながら足を踏み入れたはずだ。そこには猥雑な空間が広がっているはずなのだが、目の前にあるのはとても整理の行き届いた空間だった。頭の整理がつかないまま俺がつぶやくとイリスは「えっ?そうですよ?」と不思議そうに首を傾げる。


(いやいやいやいや!これは役所か銀行だろう!)


 入り口を入るとまず目に入ったのはカウンター。うん、これはイメージどおり!イメージどおりなんだけど……そのカウンターには天井からそれぞれの窓口名が書かれた看板がぶら下がっている。しかも、カウンターの内側にいるのは綺麗な受付嬢ではなく、事務員みたいなおじさんやおばさんばかりときた。


 そんなカウンターの前にはいくつものベンチが綺麗に並んでいて、その後ろにはおそらく書類記入用なのだろうペンとインク壺が置かれたテーブルが等間隔に並んでいた。


(あれ?俺がイメージしてた冒険者ギルドってこんなのだっけ?)


「セイマさん、あそこが冒険者登録の窓口です。私はリーダーたちのところで依頼の完了手続きをしないといけないので、手続きが終わったあとで一緒に森山猫(フォレストリンクス)の素材の清算に行きましょう」


 イリスはそう言ってイメージとのギャップに混乱中の俺を置いていってしまった。一人になってしまった俺はとりあえずイリスが教えてくれた冒険者登録の窓口へ向かった。


「新規の登録をご希望ですか?」


 登録窓口へ行くと受付のおばさんが用件を確認してきた。俺が登録希望で間違いないと答えると羊皮紙を差し出される。


「では、後ろのテーブルでこちらの登録用紙に必要事項を記入してください。分からないところは空欄のままで構いません。記入が終わりましたらステータスカードと、お持ちでしたら滞在申請書と一緒にもう一度窓口にお越しください。なお、登録料として銅貨五枚をいただいておりますのであらかじめご了承ください」


 差し出された羊皮紙を受け取るとそんな説明をされて後ろの記入用テーブルへ行くように言われた。俺は「分かりました」と答えて、言われたとおり記入用テーブルへと移動した。


 渡された登録用紙には氏名、年齢、ジョブ、滞在申請日、滞在申請期間や滞在場所などを記入する欄が並んでいる。俺は役所の何かの申請書類のような登録用紙に激しくギャップを感じて溜息を吐きながら羽ペンを手に取った。


 滞在場所以外の必要事項を埋めた俺は言われた必要書類一式と登録用紙を持って再びさっきのおばさんの窓口を訪れた。書類一式を手渡すとおばさんは手際よく記入内容をチェックしていく。


未記入の滞在場所はどうするか聞かれたのでまだ決まっていないことを伝え、不安になったので記入がないと冒険者登録ができないのかとおそるおそる聞いてみたが、どうやら冒険者登録とは直接関係はない項目なので登録には問題ないらしい。


「ただし、滞在先不明の場合、当冒険者ギルドへの所属登録が行えません。所属登録を行わない場合は滞在期間が満了した際に別途街の入り口で滞在申請を行っていただく必要がありますので、ご了承ください。また、所属登録を行わない場合は入街税の返金は行われませんので、こちらもご了承をお願いいたします」


 冒険者登録には支障がないと言われて安心したのだがなにやら面倒くさい話を始められた。入街申請のときに兵士に説明された滞在申請の件らしい。所在を冒険者ギルドに報告しないと所属登録がされないので、滞在期間が過ぎたら都度申請に行け、ということみたいだ。しかも都度入街税の支払いが必要で返金もされないという。


「滞在場所が決まったら所属登録ができるのか、ですか?はい、所属登録申請を行っていただければ可能です」


 いつまでこの街にいるか分からないけど、さすが頻繁に滞在申請を行ったり入街税を取られたりするのも面倒なので、滞在場所が決まったらどうすればいいのか聞いてみたら改めて申請しろと説明された。何をするにも書類の提出って本当に役所みたいだ。


 今日のところ所属登録は行えないので滞在申請書が返却される。受け取ると登録料の支払いを求められた。俺は小袋の中から大銅貨一枚をおばさんに渡した。彼女は登録料を受け取ると「少々お待ちください」と告げて登録用紙とステータスカード、登録料金を持ってカウンターの奥に行ってしまった。


 おばさんはカウンター奥のデスクに座っていた男性に俺の登録申請とステータスカード、登録料金を渡す。受け取った男性は登録申請とステータスカードに目を通しているようだったが、やがて申請用紙に判を押すとステータスカードと一緒におばさんに渡した。


 男性から登録申請とステータスカードを受け取ったおばさんは、今度はそれらを近くにある水晶のような玉が置かれた箱に入れると上の玉を手に持ってこちらに戻ってきた。彼女は手に持った玉を俺に差し出すと「この水晶の上に手を置いて魔力を流してください」と言う。


(魔力を流す?魔力ってどうやって流すんだ?)


 元の世界には当然魔力なんてないしこっちの世界に来てからも自分の中の魔力なんて意識したことがない。そもそも自分が魔力を持っているのかも考えてなかった。とはいえ、いつまでも迷っていては不審に思われる。俺はおそるおそる水晶の上に手を置いた。当たり前だがとくに変化はない。おばさんはじっと水晶を見つめている。ヤバイ!ヤバイ!


(魔力……魔力……何か参考になるようなものは……あっ!)


 とにかくどうにかしないと、と思ってあれこれ考えていたところで、ふと治療院でミレリアに治癒魔法を掛けてもらったときのことを思い出した。あのときミレリアが詠唱した瞬間、彼女が俺に翳した手のひらから出た青い霧のようなもの。あれが魔力なんじゃないか。


 俺はあのときのことを思い出しながら自分の手のひらから水晶に向かって魔力が流れるところをイメージした。するとへその下辺りがじんわりと温かくなったかと思うと、“それ”がどんどんと体の中を通って手のひらから外に出ていくのが分かった。俺が手のひらから魔力らしきものが放出されたことを感じたと同時に——


(おわっ!?水晶が光った!?)


 水晶が古い映画に出てくる裸電球のようにぼんやりとした光を放つ。これで魔力が流れているんだろうか?


 ちゃんと魔力を流せているのかよく分からないと思っていると、おばさんが「もう手を離していいですよ」と言ってきた。言われたとおりに手を離すと彼女は水晶を持って再び水晶が置かれていた箱に移動した。


 おばさんは水晶を箱の上に置くとガサゴソと箱をいじってからさっき中に入れた登録申請とステータスカード、それと俺の位置からは見えないがもう一つ何かを取り出したようだった。彼女は申請用紙を水晶の隣に置かれたトレーに入れるとこちらに戻ってくる。


 こちらに戻ってきたおばさんからステータスカードとお釣りを渡されて間違いないか確認するように言われる。ステータスカードもお釣りも間違いないことを確認すると、カウンターに灰色の小さな板が置かれた。板の端には穴が開けてあって長い紐が通してある。


「こちらがオリドさんの“ギルドプレート”になります。ギルドプレートと冒険者ランクについての説明は必要ですか?」


 この板はギルドプレートというものらしい。なんとなくどういったものかは分かるのだけど、念のため説明をお願いした。おばさんの説明によるとギルドプレートは冒険者の身分証明書のようなものらしい。プレートに登録されている所持者の魔力を流すと所属支部番号と登録者番号が表示されるよう特殊加工されているそうだ。試してみるように言われたので、置かれているギルドプレートを手に取って魔力を流してみると所属支部番号と登録者番号という表示が出てきた。支部番号は空欄になっているが、登録者番号には長々と数字が羅列されている。


「冒険者ランクは(ストーン)からはじまって、依頼の達成率に応じて(アイアン)真珠(パール)翠玉石(エメラルド)蒼玉石(サファイヤ)紅玉石(ルビー)金剛石(ダイヤモンド)にランクアップします」


 つまり登録したての俺は(ストーン)ランクということになる。さっき確認したギルドプレートも(ストーン)用のもので石と特殊な素材を組み合わせてできているそうだ。ギルドプレートはランクアップのたびにランクに合わせた素材のものと交換されるという。なお、当然ながらアップがあるということはランクダウンも存在するわけで、依頼の達成率が著しく低かったり、あとで説明する特定の依頼の受注拒否や失敗、ギルドが該当ランクにそぐわないと判断した場合などはランクがダウンする可能性があるらしい。


おばさんの説明では冒険者ランクによって受注できる依頼に制限があるそうだ。当然高ランク向けの依頼になればなるほど難易度が高くなり報酬も高くなる。ただし、素材の買取については受注有無に関係なく行ってくれるそうだ。その代わり依頼の達成率には加味されないので注意するように言われた。


 ちなみに冒険者たちの間では真珠(パール)に昇格してようやく一人前だと認められるそうだ。そんな真珠(パール)までは純粋に依頼の達成率のみで昇格できるのだが、そこから上のランクに昇格するためには達成率のほかに決められた依頼の受注や昇格テスト、各支部の幹部職員との面談などが必要になるらしい。


「依頼の受注方法についての説明は聞かれますか?なお、ソロとパーティーによって少し受注条件が異なりますので、ギルドではパーティーの説明と合わせて受注依頼の説明を受けていただくことを推奨しております」


(うへぇ……まだ説明があるのかよ……もしかして冒険者って意外と面倒くさい?)


 俺の中で冒険者は豪快で大雑把なイメージだったのだが、よく言えばしっかり制度が整っている、率直に言えばややこしくて面倒くさい。本当に冒険者たちはこんなに細かいルールを覚えているんだろうか?とはいえ、ここで面倒くさがると後々何か大きなトラブルに繋がらないとも限らない。俺は渋々ながら説明をお願いした。


「畏まりました。まず先にパーティーについて説明させていただきます」


 どうにかうんざりしてるのは気づかれなかったかな?いや、慣れているだけか?なんて思いながらスラスラと説明を始めたおばさんの話に耳を傾ける。どうやらパーティーは三種類に分けられているらしい。


・通常パーティー

一般的にイメージするパーティーはこれで、基本的にパーティー単位で活動をしている。それぞれが固有のパーティー名を持っている。ハワードやイリスが所属している蒼穹の翼もこれにあたる。


・臨時パーティー

暫定的な欠員補充や新規加入希望の試用期間、パーティー単位でしか受けられない依頼受注のためだけの一時的なパーティーなど、加入期間や結成期間が一時的なパーティーがこれにあたる。


・合同パーティー

複数のパーティーやソロ冒険者が一時的に組むパーティー。主に大規模な商隊の護衛や危険なクリーチャーの討伐依頼(所謂レイド)などを受ける場合に組まれることが多い。


 パーティーは例外なく組んだときにはギルドにパーティー登録を行う必要があるそうで、この登録を怠ると依頼を達成しても冒険者各々の実績にならないのだとか。


 パーティーはソロに比べて危険度が下がることやパーティー限定の依頼を受けられるなどのメリットがあるが、報酬は折半なので依頼によっては一人当たりの受け取り報酬がかなり少なくなるケースもあるという。


「続きまして依頼の受注方法をご説明いたします。依頼には誰でも受注可能な一般依頼と依頼主様から指名される指名依頼がございます」


 パーティーの説明が終わると次は依頼の受注方法の説明が始まった。眠たい……


 一般依頼はギルド内の依頼掲示板に貼りだされるそうで、受注したい依頼があったら掲示板から依頼用紙を剥がして受付に持っていけばいいらしい。その際に注意が必要なのが依頼の難易度によって設定されているランクだそうだ。


 ソロの場合は現在の自分の冒険者ランク以下に設定されている依頼ならば受注可能とのことだった。パーティーの場合はメンバーの平均ランク以下であれば受注可能だそうだ。ただし、どちらの場合もあまりに下位のランクを受注することは控える不文律があるのだという。


 指名依頼とはその名のとおり、個人やパーティーを指名して出された依頼なのだが、この指名依頼の受注はギルドからの評価に大きく影響するので注意するようにとしつこく念を押された。


「指名依頼は所属支部を登録されている場合のみ受注可能で、原則冒険者側で拒否することはできません。このためご注意をいただきたいのは、所属登録をしていてギルドに報告なく長期で街を離れられた場合です。受注期間内に連絡が取れない場合は自動的に拒否扱いとなります。指名依頼の拒否や失敗はランクダウンの査定対象となりますので十分ご注意ください」


「あの……もし、所属登録をしてから街を移る場合はどうなるんですか?」


 指名依頼の説明を聞く限り、所属登録をしてしまうと街を移ることができないんじゃないかと思って質問したのだが、ちゃんとそういった場合の手続きも存在しているらしい。「遠征などではなく活動地域を変更される場合は現在の所属支部で所属解除手続きを行ったのちに移動先のギルドで所属登録を行ってください」ということだった。


(住所変更?ますます役所みたいだな……)


 このほかにも入街の際に兵士に聞いた税金については依頼報酬から一割、素材買取の場合は手数料と税金がそれぞれ一割ずつ引かれることや登録特典としてギルド提携の施設で割引などが受けられることを説明されたあと最後に初心者講習会の案内があった。


「新規登録から一月以内であれば銀貨一枚で初心者講習を受講可能です。銀貨一枚と聞くと高く感じるかもしれませんが、元冒険者のギルド職員による基礎知識~実地研修まで幅広く学べる講習となっています。申請用紙をお渡ししておきますのでご希望の際は必要事項を記入して窓口にお持ちください」


 そう言って申請用紙を渡された。確かに銀貨一枚ということは日本円に換算すると一万円とかなり高額に思えたが、イリスやハワード以外に知り合いのいない俺としてはありがたいかもしれない。その前に受講費用を稼がないといけないが……


 すべての説明が終わったところで不明点はないかを聞かれたが、とりあえずのところは大丈夫だろう。最悪分からないことはイリスに聞けばいい。俺はおばさんに礼を言うとカウンターから離れた。


 かなり手続きに時間を取られてしまった。イリスを待たせていたらどうしようかと思っているところにちょうどイリスがやってきた。


「あっ!セイマさん!ちゃんと登録はできましたか?」


 俺はイリスにギルドプレートを掲げて見せた。イリスはぱちぱちと拍手しながら「これでセイマさんも私と同じ冒険者ですね!」と言って嬉しそうに笑う。なんだか照れ臭くなってしまう。


「そ、それより素材の買取は行こう!あっちだよね?」


 恥ずかしくなってきた俺は照れを誤魔化すために早口でそう言うと、上の案内板に『買取』と書かれた受付に向かって歩き始めた。後ろから「あっ!ちょっと待ってくださ~い!」と言いながらイリスがついてくる。


 買取受付はギルドの入り口のすぐそばにあった。追いついてきたイリスが早速カウンターにいたおじさんに買取をお願いしたいと伝えると、おじさんはカウンターに籠を置いて「では、この中に素材を入れてください」と言ってきた。


 おじさんの指示に従ってイリスが爪や牙など森山猫(フォレストリンクス)の素材を入れていく。最後に尻尾を入れたところで「これで全部です」とおじさんに伝えると、彼は「畏まりました。少々お待ちください」と言って籠をカウンターの奥へと持っていった。


森山猫(フォレストリンクス)って尻尾も素材になるだ」


 おじさんが奥に行ったところで俺がそう言うとイリスは「ああ、尻尾は素材じゃなくて討伐証明なんですよ」と言って説明してくれた。


なんでもクリーチャーには『討伐証明部位』というものがあるらしい。これは討伐したクリーチャーを特定する際に提出する部位のことで、討伐依頼を受注した際の証明になるのはもちろん、素材買取の際も提出すると査定時間が短縮されるそうだ。部位はクリーチャーによって異なるそうで、素材とかぶっていることもあれば全く関係ない部位もあるらしい。それが今回の森山猫(フォレストリンクス)だったみたいだ。


「あっ!しまった!採取した薬草も査定をお願いすればよかった!!」


 イリスの説明を聞いて思い出した。せっかく森山猫(フォレストリンクス)に襲われてまで集めた薬草のことをすっかり忘れていた。これじゃ二度手間だ……


 俺が失敗したと思っていると「薬草はギルドで買取をお願いするより直接薬屋に持っていったほうが高く買い取ってもらえますし、持ち込みの薬草なら通常より安くポーションを作ってもらるますよ」とイリスに教えられた。治療院とギルドを挟んだ反対側が薬屋らしいので後で連れていってくれるという。


 そうこうしているうちに査定が終わった。買取金額は銀貨一枚と大銅貨八枚。おじさんが言うには素材の状態が非常に良かったそうだ。まあ眉間に矢を一撃して仕留めたので当然と言えば当然だろう。仕留めたのはイリスなんだから銀貨は受け取ってくれと言ったのだが、彼女からは「ダメです」と一言で却下され、結局支払いを全て大銅貨でしてもらってから九枚ずつきっちり半分で分けられてしまった。


「じゃあ薬屋にいきましょうか!」


「その前にそろそろ時間的に宿を確保しないと拙いと思うから、先に宿を探してもいいかな?」


 張り切っているイリスには申し訳ないんだけど、もうそろそろ夕方だし宿を取っておかないと今晩泊るところが無くなってしまう。そう思って先に宿の確保を提案したのだが、「あっ、それは大丈夫ですから」となぜかあっさり却下されてしまった。大丈夫ってどういうことだろう?冒険者の街っていうくらいだから意外と空きも多いのかな?


 イリスの言葉に首を捻っている間に彼女はさっさと入り口に向かって歩き出してしまったので俺も慌てて後を追うとギルドを出てすぐ隣の薬屋にやってきた。まだ外なのにツンとしたハーブのような青臭さが鼻をつく。


そのまま扉を開けてスタスタと中に入っていくイリスに続いて建物の中に入った。中に入ると外なんて目じゃないくらいの臭いが充満していて若干目に染みる。入り口を入るとすぐにカウンターがあるだけのスペース。カウンター奥には所狭しと瓶が並んだ棚と奥の部屋への入り口が見えた。


「すみませーん!」


 俺が薬屋の中を観察しているとイリスが奥に向かって大声で呼びかけた。すると「はいはい、ちょっと待ってくださいね」という男性の声が返ってきたかと思うと、奥の入り口から作務衣のような青緑の服を着た中年男性が現れた。どうやら彼が薬師みたいだ。最初はそういう色の服だと思ったのだが、よく見るとあちこち斑に染まっているみたいで、その証拠に所々に元の色らしい白い生地が見えている。


「はいはい、お待たせしました。今日はどんな御用で?」


 観察している間に中年男性が用件を尋ねてきた。イリスが俺の顔を見る。自分で話せということらしい。俺は持っていた袋の中から薬草の束を五つとも取り出すとカウンターに並べて買取をお願いしたいと伝える。薬師は薬草を確認すると「この薬草は結構在庫があるからちょっと安くなるけどいいですか?」と聞いてきた。


「ちょっと待ってください。セイマさん、一部はポーションにしてもらいませんか?」


 安くなるのは少し残念だが、持っていても嵩張るだけなので全て買い取ってもらおうとしたところでイリスがそう提案してくる。そういえばギルドで素材持ち込みならポーションが少し安くなると言っていたのを思い出した。


(ふむ……そのほうがお得か)


 確かにどうせ今後購入する必要があるのなら少しでも安く買えるときに買っておくのは悪くない。イリスにポーションはどのくらい買うべきなのかを尋ねると「この量なら八本くらいでしょうか。あっ、でも、お金も必要でしたらとりあえずは三本くらいでもいいかもしれません」という答えが返ってきた。


 なんでも冒険者であれば個人で三~五本程度のポーションを常時持ち歩いているそうだ。イリスも腰のポーチの中に常に五本は入れているらしい。イリスのアドバイス含めてしばらく考えたあと、俺は買取とポーション三本の購入をお願いした。注文を聞いた薬師は「用意するんでちょっと待っててください」と言うと薬草の束を抱えて奥に引っ込んだ。


 しばらく待っていると籠を持った薬師が戻ってきた。彼は「これがポーション三本で、これが残りの買取金額です」と言うと籠をカウンターに置いて硬貨を手渡してきた。手渡されたのは銅貨一枚と鉄貨が五枚だった。籠の中にはコルクのようなもので栓がされた陶器の瓶が三本入っている。


(残り一五〇円ッ!?安っ!)


 俺は受け取った金額にがっかりして、若干ポーションを買ったのは失敗したかもと思いつつも籠の中の三本の瓶を自分の袋へと移した。


 俺は薬師に礼を言うとイリスと連れ立った薬屋を出た。辺りは薄暗くなり始めている。さすがにそろそろ宿を取らないと。そう思ってイリスに宿の商会をお願いしたのだが、彼女から返ってきたのは衝撃的な答えだった。


「今日はうちに泊まりませんか?」


 なんでッ!?


次回更新は予定どおり土曜日の予定です。

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