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【勇者ゲーム】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—【リメイク】  作者: 玄野 黒桜
第一章 知らない空が現実(きょう)になる

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第五話 不謹慎かもしれないけれど、それでもワクワクすることは止められない

 ハワードたちの間でどういう話になったのかは分からないが、彼らがウィーレストに戻ると言うので俺も同行させてもらうことになった。


 俺たちは森を少し離れた街道を進んでいる。俺の隣にはなぜかイリスが歩いてるのだが、どうしてかその隣にはレオンと名乗った少年が一緒になって歩いていた。


彼は頻りに「そこで駆け付けた僕がクリーチャーを真っ二つにして~」とか「あそこの通りにできた新しいお店が美味しいみたいだから今度一緒に行こうよ!」とかイリスに話し掛けるのがなんとなく聞こえてくるのだが、そのたびにイリスは「へ、へぇ~」だとか「つ、都合が合うことがあれば……」だとかチラチラとこちらを見ながら困り顔で返事をしていた。


(これは一応助け舟を出したほうがいいのか?)


 鈍い俺でもレオンがイリスの気を引こうとしていることは分かる。イリスは整った顔立ちをしているし、二人の年齢もたぶん同じくらいだろう。年頃の少年としては気になる気持ちは大いに理解できるのだが、如何せん肝心のイリスがあまり乗り気じゃなさそうなのがなぁ。


(ここで俺が何か言って変に拗れても困るしなぁ。昔の人も人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるって言ってたし……)


 そんなことを思いながら現実逃避気味に二人から視線を外す。イリスたちと反対側にはさっきまで俺たちがいた森がどこまでも続いているのが見えた。


(大河の森……か)


 森の入り口で探索中の冒険者たちが戻ってくるのを待っている間にそれとなくイリスから聞いた話を思い出す。


 なんでもあの森は“大河の森”と呼ばれているそうだ。というのも、あの森の奥をずっと進んだ先には北にある“ヴェルグラッド山脈”という山から湧き出た水でできた大河があるらしい。それもただの大河じゃない。この大陸(クトルアスネ大陸というらしい)の中央を東西に分断するほどの大河だというのだから驚きだ。


 今、俺たちがいるのは大陸の西側らしいのだが、東側に行くにはここからもっと北の山脈麓の樹海と大河の森の切れ目にある橋を渡るしかないそうだ。そんなに不便なら森を切り開いて大河に橋を架ければいいんじゃないかと思って新しく橋は作らないのかとイリスに聞いてみた。


「それは難しいですね。そもそも森が切り開けませんから……」


 イリスは俺の質問に困ったような顔をしてそう答えた。


 なんでも大河は大量に“魔素”というものを含んでいるらしい。魔素というのはこの世界の動植物なら誰もが持っている魔力の元になる物質のことだ。この魔素の濃度が濃いところに長時間居続けると許容量を超えた魔素によって動物がクリーチャーになったり、植物が異常に繁殖したりするそうだ。その結果、魔素濃度が濃い大河の近くにあるあの森は切っても切っても木が生えてくるので事実上、切り開くことが不可能ということらしい。


 船で大河を渡ったりはできないのかと思ったのだが、それについても「大河には大型の水棲クリーチャーがいっぱいいるらしいですよ」と言われてしまった。


 俺が難しい顔をしているとイリスが慌てたように「でも悪いことばかりじゃないんですよ!」と言い出した。彼女が言うには森から豊富な資源が採れるのだそうだ。しかも繁殖速度が異常に早いため、資源が枯れることもないのだという。


「そうやって森からの豊富な資源を採集するために冒険者が集まってできたのが私たちが住む“冒険者の街”ウィーレストです!」


 イリスはそう言うとどこか誇らしげに胸を張って話を締めくくった。


「(冒険者の街か……)——って何だあれっ!?」


 成り行きで行くことになった街のことを考えていると目の前に突然巨大な壁が現れたので、俺は思わず大きな声を出してしまった。


「えっ?ああ、あれですか?あれはウィーレストの外壁ですよ」


 相変わらずレオンに話し掛けられていたイリスが驚いて出してしまった俺の大きな声に反応して教えてくれた。彼女の説明を聞いた俺は「ほえ~」という我ながらバカっぽい声を漏らしながら改めて外壁を見上げた。


「あの外壁は第三外壁で、街に入るとあれより少し小さな第二外壁と第一外壁があるんです」


「えっ!?あんな大きな壁が三つもあるんですかっ!?ってことは、もしかして……この辺りは戦争が多いんでしょうか……?」


 よっぽど俺の反応が可笑しかったのかイリスがクスクスと笑いながら詳細を説明してくれたのだが、街の内側にも更に壁があると聞いて驚くと同時に不安になった。俺の知識では高い外壁に囲まれた街は戦争が多い土地のイメージがあったからだ。


「うーん、確かにここから南に行くと『ゼクルーシア帝国』っていう国との国境があるんですけど、あの外壁はどちらかというとクリーチャーの大移動(スタンピード)対策ですね」


 俺の不安そうな様子を気にしたのかイリスは丁寧に説明してくれた。


なんでもこのウィーレストがある国は『ユスタッド王国』というらしい。西を『グロイス・プリジャン都市国家連合』という国と、南を先ほど名前の出たゼクルーシア帝国という国と国境を接しているという。


 西のグロイス・プリジャン都市国家連合というのは名前のとおり、それぞれで自治を行っている都市国家とその衛星都市がいくつも集まった連合らしい。


 南のゼクルーシア帝国というのは軍事大国だそうで、昔は周辺国へ頻繁に侵攻していたそうだが近年ではそういった侵略を行うことはなくなっているのだそうだ。


 そして、ウィーレストが外壁を作る原因になった大移動(スタンピード)。これはクリーチャーの生息エリア内でより強力なクリーチャーが生まれたり、大規模な縄張りの移動が起こってクリーチャーが森から溢れ出す現象のことだそうだ。その大移動(スタンピード)から街を守るために造られたのがあのバカでかい外壁という訳だ。


なぜそんな危険な場所に態々街を作っているのかといえば、森の入り口でイリスが説明してくれたとおり、森からの資源採集とその恩恵を求めて冒険者が集まってきたからということだ。


「街の一番内側にある第一外壁が一番最初にできた外壁なんだそうです。そこから住人が増えるたびに街の拡張と合わせて外壁も増えていったみたいですよ」


 俺たちはいつの間にか街の傍まで進んでいた。街の前には入街を待つ人の列ができている。俺たちもその列に並びながら、俺は「街に入るときっと驚きますよ!」と言うイリスの説明を聞いていた。


合い間合い間にレオンからは「そんなことも知らないの?」というバカにしたような茶々が入ったが、そのたびにイリスが「初めて来るんだからそんな言い方良くないよ」と彼を窘める。どうやらそれが気に入らないらしいレオンは彼女から窘められるたび、俺を睨んでは悔しそうに唇を噛んで俯いた。


イリスの説明によると街の中は外壁ごとに三つのエリアに分かれているそうだ。


 一番内側の第一外壁の中は主に行政府や富裕層が住んでいるエリアで、外壁の門は常に閉じられているのだそうだ。出入りができるのは許可を得た者だけで門には常に門番が立っているという。


 第二外壁の内側は一部に第一外壁内に住めなかった富裕層の住宅はあるものの主に商業エリアになっているそうだ。この第二外壁と今見えている第三外壁の中には誰でも入れるそうだが、第一外壁に近いほど高級店が多くなるそうだ。


 そして、第三外壁の内側にあるのが通常『冒険者街』と呼ばれているエリアだ。ここには冒険者ギルドを始めとした冒険者向けの施設が、森から遠い西側には庶民街があるそうで、イリス自身もこの西側に住んでいるそうだ。


「その他にも第三外壁の中には畑もあるんですよ!」


「えーっ!?畑っ!?」


 さすがにこの話には驚いた。イリスが言うには、昔は外壁の外に畑を作っていたそうだが、ある時起こった大移動(スタンピード)で外の街からの救援が遅れた結果、大惨事が起きたそうだ。その影響で今では外壁の中に畑を作り、第二外壁の中には備蓄用の倉庫まであるのだという。


 俺はキョロキョロと周りを見渡すのだが、どう考えても周りに水場らしい場所が見当たらない。こんな場所で人はもちろん畑の水まで賄えるのか?そう思ってイリスに聞いてみると「井戸がありますから」という答えが返ってきた。


 この大陸は大河の支流なども含めて地下水脈が豊富にあるらしく、街にはいくつも井戸が掘られて魔道具のポンプで水を汲み上げているそうだ。大河の魔素の話を聞いた後だと地下水脈にいるクリーチャーが井戸伝いに上がってきそうだが、そもそもが魔導ポンプ用の細い管を通すだけなので大きな穴は必要ないし、そんな小さな管から上がってくるようなクリーチャーならば簡単に討伐できてしまうのだとか。


 イリスの説明を聞いている間に列は進み、前にいる人もかなり少なくなってきた。門の前には兵士らしき人がいて、入街する人間を一人一人チェックしているようだった。


 いよいよ俺たちの順番が来た。合同パーティーの面々が兵士のチェックを受けて次々と門を潜っていく中、俺の番になったところで兵士から止められてしまった。兵士が「君、この街に来るのははじめて?」と聞いてくるので俺が「そうです」と答えると、「じゃあちょっとこっち来てくれる?」と言って門の下にある建物へと連れてこられた。


「とりあえずそこに座って」


 門の中にある兵士の詰め所らしき場所に連れてこられた俺は椅子に座らされると、目の前のテーブルに分厚い紙のようなものが二枚置かれた。これが羊皮紙というものらしい。兵士はその二枚に氏名と入街理由、滞在期間を書くように言う。よく見ればこの二枚は全く同じものだった。


(なぜ二枚?)


 疑問に思いながら言われるがままに氏名と入街理由を記入したのだが、滞在期間のところで手が止まる。滞在期間なんて具体的に考えてなかった!仕方なく正直に兵士にそのことを告げる。


「滞在期間を決めない?どれどれ……ああ、冒険者になりに来たのね!永住希望?違うの?それならとりあえず十日って書いておいて」


 俺は言われたとおりに一旦十日と記入する。するとそれを見た兵士が「じゃあステータスカード見せてくれる?」と聞いてきた。


(ステータスカード?なんだそれ?)


 俺が困惑していると頭の中にステータスカードの知識が思い浮かぶ。どうやら異世界の常識からの知識のようだ。


 ステータスカードとはこの世界で発行されている身分証のようなものらしい。だいたい十歳前後になると役所に行って手続きするもので氏名やジョブ、犯罪歴などが記入されているらしい。


(そんなの持ってないぞ!やばいッ!やばいッ!)


 俺は内心で焦りながら「ステータスカード……ステータスカード……どこやったかなぁ……」と言いながらステータスカードを探すふりをする。俺の様子を見てだんだんと兵士の顔が険しくなっていくのを感じながら、どうにか誤魔化せないかと持っていた袋の中を漁ったのだが当然そんなものは入っていない。


「その……ステータスカードはどうしても必要なんでしょうか……?」


「何?ステータスカードないの?さすがに入街前に再発行はできないよ?一旦故郷に帰って再発行してから出直して」


 なんとかステータスカードが無くても入街できないかと思ったのだが兵士の反応はけんもほろろといった様子で全く取り合ってもらえない。


「そこをなんとか……あの、これで……ってなんだこれ?」


 この際、街に入れるのであれば最悪賄賂でもなんでもと思って、硬貨の入った小袋を開くと中から板が出てきた。


「なんだ。ちゃんと持ってるじゃないか。それこっちに貸して」


 俺が見たことがないカードに首を傾げていると、兵士は俺の手からカードを奪い取ってさっき記入した申請書と見比べ始める。その様子を見て俺ははじめてそれがステータスカードなのだと気づいた。


「うん。名前も間違いないし犯罪歴もなし。問題ないな。しかし、万能戦士(マルチファイター)なんて珍しいジョブだな」


万能戦士(マルチファイター)?なんだそれ!?)


 差し出されたステータスカードを受け取りながら兵士から言われた自分のジョブを聞いて俺は内心で更に首を傾げた。するとここでまたも万能戦士(マルチファイター)についての知識が浮かぶ。


 どうやらこの万能戦士(マルチファイター)というジョブはどんな武器や戦い方でも理解できるジョブらしい。ただし、実際には本職のジョブ持ちに比べると六~七割程度しか理解が及ばないみたいだ。


(ただの器用貧乏じゃねぇか!)


 万能と言えば聞こえはいいが、その実、どれも中途半端ということなのだ。正直、能力の伸ばし方を間違えるとあっさりと詰む未来しか見えない。


「じゃあ次は入街税の支払いね。十日だから銅貨八枚だね」


 自分のジョブに愕然としている間も手続きは進められ、入街税というものの支払いを求められた。入街税が何か分からずに混乱していると俺の様子に気づいた兵士が不思議そうな顔をした。


「えっ!?入街税を知らない?君、どこから来たの?入街税っていうのは君みたいな一時的に街に滞在する人が支払う税金だよ」


 兵士の説明によると入街税は旅人などの一時滞在者が支払う税金で、滞在期間によって額が決まっているそうだ。行商人などの場合は『一時保証金』と呼ばれ、街を出る際に街での売買に合わせて精算されるらしい。滞在日数が申請日数を超える場合にはもう一度滞在申請と入街税の支払いの手続きを行わないとダメで、もし、これを忘れると街からの強制退去や最悪は奴隷落ちしてしまうこともあるので注意するように言われた。


「この街で冒険者をやる場合は都度延長の手続きが必要なんですか?」


 さすがに毎回延長の申請をするのは面倒くさいと思って聞いてみると、冒険者になった場合は延長不要だと言われた。これは冒険者に登録した時点で登録した街の冒険者ギルド所属として登録されるからだそうだ。


「冒険者は依頼料とか素材買取のときに税金が引かれるからね。一時滞在期間中に冒険者登録するとここで払った入街税も日割りで返金されるから」


 なかなかちゃんとしたシステムのようだ。俺は小袋から銀貨を一枚取り出すと兵士に渡した。受け取った兵士は「お釣りを持ってくる」と言って席を外した。


 ちなみに異世界の常識によると、この世界のお金は一般的に鉄貨十枚=銅貨一枚、銅貨十枚=大銅貨一枚、大銅貨十枚=銀貨一枚、銀貨十枚=金貨一枚、金貨十枚=白金貨一枚となっている。国によって含有量や供給量で多少レートに変化があるらしい。単純比較はできないがパン一つが銅貨一枚+鉄貨二~三枚らしいので、元の世界に換算すると大体鉄貨一枚が十円前後、白金貨は一枚で一〇〇万円くらいの価値があるみたいだ。


 一般的な平均収入は銀貨八枚~金貨一枚程度、日本円に換算すると八万~十万円程度らしい。安く感じるが電気も水道もスマホもない世界なので、家賃と食費、薪代くらいだと平均的な家族四人の家庭でも生活費は月に銀貨六~七枚あれば十分生活できるみたいだ。


 兵士が戻ってくると「ほら、釣りだ」と言って銅貨二枚を渡された。それを小袋に仕舞っていると兵士がさっき記入した二枚の申請書を少しズラして重ねた。何をするのかと思って見ていると重ねた羊皮紙のちょうど真ん中にスタンプのようなものを押した。割印というやつだ。


兵士はスタンプを押した羊皮紙の一方を「じゃあこれが申請書の控えね」と言って俺に差し出す。それを受け取ると手続きは終了らしく促されるまま建物を出た。


「じゃあもし、申請期間中に冒険者登録が間に合わなかったら忘れずに再申請しにくるように」


 兵士は建物を出たところでそう言うと「あっちが街だから」と言ってまた入り口のほうへと戻っていった。俺は兵士に言われたとおり、兵士とは逆方向に歩いていく。


門の中はちょっとしたトンネルのようで、その先に街並みが見える。すると門の出口のところにイリスの姿が見えた。その隣では街までの道中と同じようにレオンが頻りと彼女に何かを話し掛けているのだが、イリスは相変わらず困ったような顔でそれに答えていた。


「あっ!セイマさん!」


 それまで困り顔だったイリスが門の中に俺に気がつくと笑顔で大きく手を振る。途端にそれまでにこやかに彼女に話し掛けていたレオンの表情が険しくなった。なんとなく拙いと思った俺は慌てて彼女たちの元まで駆け寄る。


「待っててくれたんだ。約束どおり街までは案内してもらったから先に行ってもらってもよかったのに」


 これは俺の本心だ。正直、入街の手続きが終わるまで待っているとは思っていなかった。俺の言葉を聞いたイリスと「でも、セイマさんだけじゃどこに何があるか分からないでしょ?」と言って頬を膨らませる。これまでの態度が大人びていたせいかその子供っぽい仕草に内心で驚いた。


「ほら!もう街にも入ったんだしあとはこの人が勝手にやるよ!大人なんだし。それよりイリスちゃんご飯行こうよ!」


 俺が来たことで明らかに不機嫌になっているレオンがイリスを食事に誘い始めた。なんとなく勝手にライバル認定されてる気がする。


「えっと……あっ!そうだ!セイマさん、治療院に行かないとですよね?!」


 レオンの誘いに戸惑った様子をしていたイリスだが、「忘れてた!」と言わんばかりに両手を合わせると俺にそんなことを言い出した。そういえば怪我の応急処置をしてもらったときにそんなことを言っていたような気がする。だが、さすがにそこまでしてもらうも申し訳ないのでやんわりと断ろうとしたのだが、イリスに「場所知ってますか?」と言われて何も言えなくなってしまった。


「チッ!今日はもういいや。僕、帰る!」


 俺とイリスのやり取りを苦虫を嚙み潰したような顔で見ていたレオンが遂に怒り出すと街の中へと駆け出してしまった。イリスに「いいの?」と聞いてみたのだが、彼女はなんとも言えない表情で「いつもああなんです」と言うと溜息を吐いた。


「それよりもすぐそこなので治療院に行ってしまいましょう!私、一応リーダーに断ってきますね!」


 イリスは一通り溜息を吐き終えたところで止める間もなくハワードのところへと行ってしまった。一人残された俺はなんとなく周囲に視線を向ける。すると例の黒い全身鎧の人物が目に入った。すぐそばに十二~三歳くらいの小柄な少女がいて、頻りと嬉しそうに黒鎧の人物に話し掛けている。


(妹かな?)


「どうかしましたか?」


 なんとなく少女と黒鎧の人物をボーっと見ていたらしい。イリスに声を掛けられたことで彼女が戻ってきたことに気づいた。俺が「何でもない」と答えると彼女は不思議そうな顔をしたが、すぐに「リーダーに了承をもらったので治療院に行きましょう!」と行って俺の手を抱えて歩き始めた。


「えっ!?ちょ、ちょっと待って!行く!行くから!」


 驚いてちょっと待つように言うのだが、彼女はお構いなしにグイグイと俺を引っ張っていく。が、それも僅かな時間だった。


「ここが治療院です」


 そこは門を抜けてすぐの場所だった。わりと背の高い建物が多いらしいウィーレストでは珍しい真っ白なこじんまりとした建物だ。


 俺が戸惑っている間にイリスはスタスタと建物の中に入っていく。途中で俺がついてきていないことに気づいたのか「こっちですよー」と声を掛けられたことで俺は慌てて彼女の後を追った。


 治療院に入ると正面にカウンターが見えた。その後ろにはいくつか白いカーテンで仕切られたスペースがある。俺の印象としては元の世界の接骨院に似ている。


俺がキョロキョロと治療院の中を観察している間にイリスが奥に向かって「ミレリアさーん」と声を掛けていた。すると奥から「はいは~い。治療院の中ではぁ~、大きな声を出してはいけませんよぉ~」というおっとりした声とともに真っ白なローブ姿の女性が出てきた。


「あ~らあらぁ~。イリスちゃんじゃないですかぁ~。森からぁ~、返ってきたんでぇすねぇ~。あらぁ~?そちらの方はぁ~、はじめましてでぇすね~」


 女性はニコニコとイリスに挨拶をする。やや間延びするような独特の話し方をする女性だ。彼女はイリスの後ろにいた俺に気づいたようでコテンッと首を傾げる。


「ええっと……」


 女性の反応に俺が戸惑っているとイリスが女性に俺の紹介と治療を頼み始めた。俺も慌てて「セイマ オリドです!よろしくお願いします!」と言って頭を下げた。


「あらあらぁ~。これはご丁寧に~。私はぁ~この治療院でぇ治癒術師をしているぅミレリア・フェリナールですぅ~。セイマさぁん、よろしくお願いしますねぇ~」


 彼女は自己紹介をするとにっこりと微笑んだ。


治癒術師だというミレリアは緩くウェーブの掛かった金に近いピンクゴールドの髪に垂れた大きな翠色の瞳、背はイリスより高いが元の世界の平均的な女性くらいだろうか。全体的に可愛らしい雰囲気でアニメのお姉さんキャラみたいな女性だった。


「まあまあ~。それではぁ~、こちらにどうぞぉ~」


 イリスに俺の治療だと聞いたミレリアがカーテンの仕切りの一つに入るように促してくる。俺が言われた場所に入ろうとすると、ミレリアが「おやおやぁ~?イリスちゃんもぉ一緒に入るんですかぁ~?」と言い出した。言われて後ろを見ればイリスが俺の後ろからついてこようとしていた。


「えっ、いや、その~……」


 ミレリアに指摘されたイリスがしどろもどろになりながら視線を泳がせる。僅かに顔が赤い。ミレリアはイリスの様子に「すぐに終わりますからぁ~、イリスちゃんはお外で待っていましょうねぇ~」と言いながらニコニコとした笑顔を向ける。だが、その笑顔は明らかに彼女を揶揄っているようだった。


「は、はい……」


 ミレリアの言葉にイリスが恥ずかしそうにもじもじしながら答えると、ミレリアは「さぁて~、あまりイリスちゃんを心配させるわけにもいきませんのでぇ、治療を終わらせてしまいましょう~」と言ってカーテンを閉じた。


「それじゃ~、力を抜いてくださぁいねぇ~」


 診察スペースの椅子に座らされるとミレリアは軽く俺の傷を確認した。言われたとおりに力を抜くと俺に手を翳して「水清き生命(リクニス・ヒーラ)」と意外にはっきりとした口調で詠唱する。


「ッ!?」


 彼女の詠唱に合わせて翳された手から青い霧のようなものが出てきた。その霧が俺を覆うと一瞬ひんやりとした空気が体を包み込んだ。


「はぁい。終わりましたよぉ~。んんん?あらあらぁ~?もしかすると~治癒魔法ははじめてですかぁ~」


 初めての感触に俺が自分の身体のあちこちを見回していると、治療の終わりを告げたミレリアが俺の反応が珍しかったのか微笑ましそうな顔をしている。俺は気恥ずかしくなって「え、ええ、まあ」と曖昧な返事をした。彼女はそんな俺をどう思ったのか「怪我をしたときはぁ~いつでも来てくださいねぇ~」と言ってニコニコと微笑んでいる。


 ミレリアがカーテンを開けてくれたので外に出ると思いのほか近くにソワソワと落ち着かない様子のイリスが立っていた。彼女はカーテンた開いたことに驚いたのかそのまま固まってしまった。そんなイリスの様子を見たミレリアはクスクスと笑いながら「そぉ~んなに彼がぁ心配でしたかぁ~?」と揶揄うように言った。言われたイリスはハッと気がつくと「ち、違います!」と言ってブンブンと両手を振る。


「冗談ですよぉ~。それじゃ~、お代は銅貨五枚ですぅ~」


 イリスの反応にまたクスクスと笑いながら料金を提示する。俺は言われたとおり小袋から銅貨五枚を取り出して彼女に渡した。ミレリアは俺から受け取った硬貨を確認すると「ちょうどですねぇ~。またぁ~いつでも遊びに来てくださいねぇ~」と言って俺にウィンクした。それを見たイリスがあわあわと慌てる。


「ハハッ。怪我したときはよろしくお願いします」


 俺は明らかにイリスを揶揄っているミレリアに苦笑を浮かべると礼を言ってから、未だにあわあわしているイリスを連れて治療院を出た。


「大丈夫?」


 治療院を出ても落ち着かない様子のイリスに話し掛けると彼女はハッとした様子でキョロキョロと周囲を見回してから「すみません。取り乱しました……」と言って頭を下げてきた。俺は落ち込む彼女に気にする必要はないことを伝えて冒険者ギルドへの案内を頼む。


「分かりました!」


 イリスは俺のお願いにぱぁっと表情を明るくすると元気に答えたあとで「と言っても冒険者ギルドはそこなんですけどね」と言って治療院の隣を指差して苦笑する。


 イリスが指差した先にあったのは剣を二本クロスさせた看板が架かった縦にも横にも大きな建物だった。おそらく四階建てだろう冒険者ギルドはウィーレストに三つある冒険者ギルドのうちの北支部だという。


 ウィーレストには正面に大河の森がある東を除く北と南と西にそれぞれ門があるそうだ。広くて冒険も多いこの街では移動が大変なのでそれぞれの門の近くに冒険者ギルドを設けているらしい。とくに大河の森に行く冒険者がよく利用するこの北支部は冒険者ギルドウィーレスト支部の本部も兼ねているそうだ。


「行きましょうか!」


 説明を聞きながらいつまでもギルドの建物を見上げていた俺にイリスが声を掛けてきた。俺は緊張気味に頷く。それを見たイリスはどう思ったのか微笑ましげな笑みを浮かべると先に立って歩き始めた。


(遂に冒険者ギルドか!)


 不謹慎かもしれないが俺はワクワクする気持ちを抑えきれずにイリスの後を追って冒険者ギルドに足を踏み入れた。

次回更新は12/20(土)の予定です。

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