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【第一章完結】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—  作者: 玄野 黒桜
第一章 知らない空が現実(きょう)になる

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最終話 知らない異世界(セカイ)の知らない世界へ

第一章最終話です!

「…………」


 残っている生活用品を淡々とアイテムボックスに放り込む。


『断っておくがお前と慣れあうつもりはない』


 ふと思い出すのはレイジの言葉。ちょうどエリーゼが「お茶を入れ直す」と言って席を離れたときだった。


「お前を連れていくのはエリーゼが『どうしても』と言うからだ。俺としては護衛が増えた、程度の認識でしかない」


 いきなりのことに面食らう。チラリッとエリーゼに目を向けるけど彼女に俺たちの会話は聞こえてないみたいだ。


「……同じ世界から来た仲間、とは思ってくれないのか?」


 もう俺もこの世界と無関係—とまで言うつもりはない。救えるものなら救いたいと思う。だけど、それと異世界人(おれたち)が“勇者の欠片”を奪い合うことは別の話じゃないか?そう思うんだけど……


「俺は俺の願いを叶えるためにこの世界に来た。それ以下でもそれ以上でもない。そして、その為にお前を含めた勇者候補が邪魔だと言うのであれば—」


 それは明確な『敵』という線引き。言外に「巻き込まれただけのお前とは覚悟が違う」と言われた気がした。レイジの視線が一瞬、俺を通り越した。


「何のお話ですか?」


「えっ?あっ、いやぁ……」


「フッ、精々エリーゼの役に立ってくれ」


 戻ってきたエリーゼに話し掛けられて言い淀む俺とは対照的にレイジはそう言い放つ。そんなレイジに「もう!レイジさんはまたそんな言い方をして!」とエリーゼが頬を膨らませた。


「願い、か……」


 動かしていた手が止まる。気がつくと部屋から俺の物はなくなっていた。


「…………」


 初めてこの部屋を借りたのはいつだったかな……もう随分と昔の気がした。


「お世話に……なりました!」


 扉を開けた俺は振り返る。もう一度何も無くなった部屋を見回して一礼すると静かに扉を閉めた。


「おっ?もう行くのかい?」


 宿のフロントに行くと奥から親父さんが顔を出した。元冒険者らしい恰幅の良い親父だ。いつも出掛けるときに繰り返した行動。だけど、今日はその意味が違う。


「はい……お世話になりました」


 部屋の鍵を返しながら親父さんに頭を下げる。親父さんは「おうよ」と言いながら鍵を受け取る。


「まあ……その……なんだな」


「???」


 この親父がこんなに言い淀むなんて珍しい。俺が首を傾げていると、親父は「ああ!もう!」と言いながらグシャグシャと頭を掻いた。


「ったく、毎回この瞬間は慣れねぇんだよ!とにかくまた来いよ!」


「ッ!?」


 不意打ち。言葉が詰まる。


(「また来いよ」……か)


「はいッ!」


 俺は努めて明るく返す。親父さんは一瞬目を丸くしたけど、また照れ臭そうに頭を掻くと「さっさと行け」と猫でも追い払うようにシッシと手を振った。失礼な!


 薄暗い通り。気候が安定してるウィーレストだけどこの時間は空気が少し冷たい。この空気が嫌いじゃなかった。


 まだ人通りがまばらな通りを北門に向って黙々と歩く。少しずつ息遣いが聞こえ始めた街。所々煙を吐き出す煙突。「あそこの定食は安くてボリュームあったな」なんてことが思い浮かぶ。


 薬屋の前を通り過ぎる。


—もうしばらくあそこに薬草も売りに行くことはない。


 ギルドの前を通り過ぎる。


 —結局何回通ったかな?


 治療院の前を通り過ぎる。


 —もうミレリアさんの顔を見えないのはちょっと残念だな。


「ハァハァハァハァハァ」


 北門が見えてきたとき、後ろから息遣いが聞こえた。


(まだ遠い)


 それが自分を追い掛けてきたのだとどうしてかなんとなく分かった。


「ハァハァハァハァ」


(もうちょっと)


 相手の速度が上がったが分かる。


「—イマさんッ!セイマさんッ!」


(やっぱり……)


 自分を呼ぶ声に足を止める。


「ハァハァハァハァハァ」


 少し離れたところで足音が止まる。荒い息遣いが聞こえる。


 ゆっくりと振り返る。そこには両手を膝に添えて荒い息を吐く少女の姿があった。


「イリス……」


 どうやら俺の感覚は間違ってなかったらしい。息を整える彼女を見ながら、そこまで呟いたところで—でも、何を言っていいのか分からなくなった。


 どうしていいか分からない。立ち尽くす俺と顔を上げたイリスの目が合う。


「あっ……」


 その胸元で紅い石が跳ねた。


「また……また……会えますよね?」


 絞り出すような声。胸元と同じ色の瞳から涙が零れ落ちる。


(また……また……か……)


 目を閉じてゆっくりと顔を上げる。今日まで何人の人に同じ言葉を言われただろう?


(ああ、今日は天気が良さそうだ)


 目を開けると白み始めた空には雲一つない。俺はもう一度目を閉じると正面を向く。再び目を開けると、そこにはポロポロと涙を零す少女の姿。


「うん。必ず」


「ッ!?」


 強く言ったつもりはない。だけど、思ったよりもはっきりと響いた。イリスは手で口を押えている。見開かれた紅い瞳からはさっきよりも涙が溢れていた。


「じゃあ……いってらっしゃい!」


(あっ……)


 そこにあったのは笑顔。さっきまでとは違う色をした涙を零しながら—それはどこまでも真っ直ぐな笑顔だった。


「いってきます」


 それ以上は何も言わなかった。俺はこの街(イリス)に背を向けると門に向って一歩踏み出した。

これにて第一章は終了となります。

ウィーレストを旅立った誠真たち。姿を消したサトウは、そして、まだ見ぬ勇者候補たちの思惑とは……第二章開始までしばらくお待ちください。

また、第二章開始までに評価や感想、レビューをいただけると嬉しいです。


以降の更新についてお知らせいたします。

2026年3月20日(金)21時頃インタールード第一話更新

2026年3月21日(土)21時頃インタールード第二話更新

2026年3月22日(日)21時頃インタールード第三話更新

2026年3月28日(土)21時頃インタールード第四話更新

2026年3月29日(日)21時頃インタールード第五話更新

第二章第一話は2026年4月11日(土)21時頃からの投稿を予定しています。

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