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【第一章完結】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—  作者: 玄野 黒桜
第一章 知らない空が現実(きょう)になる

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第十九話 人の縁とはありがたいもの

 サトウとダンの襲撃事件から一週間—


「ハッ!」


 正面に立つ相手に向って上段から木剣を振り下ろす。一寸の狂いもなく頭上に迫る剣に対して相手—ケルグ師匠は目を閉じて未だに両手をだらりと下げたまま構える素振りも見せない。


「フンッ!」


「へっ?痛ッ!?」


 スローモーションのようにゆっくりと剣が頭上に吸い込まれ、「取った!」と思った瞬間、ケルグ師匠の両目がカッと見開かれたと思ったらふわりと体が浮いて気が付くと床に転がされていた。


「痛ててて……絶対一本取ったと思ったのに!」


 板張りの床からゆっくりと体を起こす。あっ!頭に瘤ができてる!ちょっとは手加減してくれよ……頭を擦りながらゆっくり立ち上がっていると「遅い!すぐ次を打ち込んで来いッ!」と怒られてしまった。クッソー!絶対一本取ってやる!俺は改めて木剣を構え直すと間髪入れずに師匠の懐に飛び込んだ。


「ハァハァハァハァ……」


 何度目かの転がされた床の上で荒い息を吐く。身体の節々が痛い……


「今日はここまでだな」


「ハァハァハァ……は、はい……あり……がとう、ご……ざいます」


 床に転がる俺を息一つ乱れていないまま見下ろして言う師匠に息も絶え絶え辛うじて返事を返す。


「……まだ人に打ち込むのは怖いか?」


「ッ!?そ、そんなことはッ!」


 師匠の言葉に慌てて身体を起こすと反論しようとしたけど「誤魔化すな。剣で分かる」と一蹴されてしまった。


「…………」


「木剣でこれだと先が思いやられるな。いや、それがお主の長所でもあるか」


 脳裏にサトウやレイジの顔が浮かんで何も言い返せない俺に師匠は何かボソボソと呟くと「いつまでそうしている?そろそろ時間なのだろう?」と言うと「次はもっと厳しく行くぞ」と言い残して道場を出ていった。


「はぁ~」


 結局何も言い返せないまま師匠が出ていった出入り口をしばらく眺めてたけど、いつまでもこうしている訳にもいかない。俺は溜息を吐いてから頭を左右に振って憂鬱な気分を無理やり追い出すと次の予定のため、床に転がったままの木剣を片付けて道場を後にした。



■□■□■□■□


「……ってことがあったんだけどどう思う?」


 師匠の道場を出た俺は予定通りギルドにやってきた。そこでちょうどいい奴を見つけたんでさっきのことを愚痴ってたんだけど—


「…………」


「なあって!」


「…………」


 隣にいる相手—壁に背を預けたレイジからは全く反応がない。今日も今日とていつもの黒いフルプレートに室内でもヘルムのバイザーまできっちり下ろしているスタイル。コイツ、他の人とのコミュニケーションどうしてるんだ?


「なあ?聞いてる?」


「…………」


「あの……レイジさん?」


「…………」


「あっ!ちょっと!おいッ!」


 実は寝てるんじゃないか?あまりの反応の無さにそう疑い始めたところで奴は持たれていた壁から離れると俺の声を無視してギルドの出入り口に向かって歩いていってしまった。


「ったく、何なんだよ……」


 歩いていくレイジの後姿を見つめながら思わずそんな言葉が漏れる。あれから一週間、大方の予想どおり街からサトウの姿はきれいさっぱり消えていた。一応奴の泊まっていた宿にはギルドの取り調べが入ったらしいんだけど荷物らしい荷物は残っていなかったそうだ。たぶんいつもアイテムボックスに入れて持ち歩いていたんだろうな。


(これで良かったのか……?)


 何度目になるか分からない自問自答。確かにイリスが安心して出歩けるようになったことは嬉しい。だけど、せっかく見つけた勇者候補は街から消えてしまった。どういうシステムか知らないけど、すでにウィーレストのギルドを通じて世界中の冒険者ギルドにサトウの指名手配が回ってるそうなんだけど、レスタン講師の話では奴もそんなことは分かってるだろうからギルド経由で見つかる可能性はよっぽどのことがない限り低いらしい。


 正直、襲われたときは頭に血が上ってた。でも、冷静になるともっと早くからアイツに積極的に関わっていればこんなことにはならなかったんじゃないか、共闘できたんじゃないかと思わずにいられない。次はそんな後悔はしないために見掛けるたびにレイジに話し掛けてはみてるもののあんな感じで一度も返事が返ってきたことはない。


(偏屈過ぎんだろッ!)


 すでに見えなくなったレイジの後姿を思い出しながら心の中で悪態を吐く。


「あーあ、またフラれたのか?」


「ああん?」


 苛立ちまぎれにガシガシと頭を掻いていたらそんな声が聞こえたのでつい凄んでしまった。振り返るとそこにいたのはダンだった。


「って。はあ~。なんだ、ダンかよ」


 思わずそう呟きながら溜息が漏れた。俺の呟きが聞こえたのか奴は「なんだって失礼だな」と呆れたように言いながら近くのテーブルを拭いていた。


「で、お前は何を……って、そうか。奉仕活動だっけ?」


 一瞬、「何してんだコイツ」と思ったところで思い出した。ダンはあれからギルドの事情聴取を受けた結果、一か月の冒険者資格停止と奉仕活動という処罰を受けることになった。一時は冒険者資格の剥奪かとも思われたけど、被害者であるリネットたちからの嘆願が考慮されたらしい。二人に謝罪に来たときは涙を浮かべて礼を言っていたのを思い出した。


「真面目にやってるじゃないか。感心感心」


 俺の問いかけに「そうだよ」と言いながら黙々とテーブルを拭くダンの姿に腕を組んでフムフムと頷く。我ながらちょっとおっさん臭い。


「もう!セイマさん!ダンくんの邪魔しちゃダメですよ!それよりちょっといいですか?」


「えっ!?いや、別に邪魔してるわけじゃ「いいからこっちに来てください!」えっ?あっ!ちょっと!」


 他愛もないやり取りをしながらダンのことを見ていたら近付いてきた受付のおばちゃんに怒られてグイグイと腕を引っ張られる。いや、本当に邪魔とかしてないのに……


「ダンくん真面目に頑張ってるんですからいじめないでくださいよ?」


 俺を強引に受付まで連れてきたおばちゃんを振り返るとそう言いながら掴んでいた手をようやく離してくれた。いや、だからいじめてないって!


「だから!いや、もういいです……それで何かあったんですか?」


 文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、これ以上この話を続けても不毛だと気づいて止めておいた。この手の話でおばちゃんに反論しちゃダメだ。絶対に口では勝てない。俺の経験がそう言っている!


「ええ。セイマさん宛に指名依頼が入っています」


「はあ、そうなんですか……はあッ?!指名依頼ッ!?」


 危っねぇ!過去のおばちゃんとの激闘を思い出してたら聞き逃すところだった。でも、指名依頼?俺に?なんで?混乱している間にもおばちゃんは「念のため言っておきますが、指名依頼は断ることもできますがギルドとしてはマイナス評価になりますから注意してくださいね」とかなんとか説明を続ける。


「ちょちょちょっと待ってください!俺、この間鉄級(アイアン)になったばっかりですよ?もし、達成できないような依頼ならそれもマイナスじゃないですか!」


 誰だよ!こんなペーペーに指名依頼なんてした奴!なんて心の中で文句を言うがおばちゃんは当然のように「そうですね」とか言いやがる。なんでちょっと得意げなんだよ!


「一応今回の依頼は依頼人から直接お話を聞いてから判断してもいいということですが」


 「どうしますか?」と続けるおばちゃん。どうするって言われても……いや、ここは依頼人がどんな奴か聞いて一発ガツンッと文句を言ってやるか?そんなことを思いながらとりあえず依頼人がどういう人なのかを聞いてみた。


「ええと……ああっ!商会の方ですね……ええ……ああ、トロイヤ商会のロックス・トロイヤさんですね」


「へっ?」


(ロックスさんってあのロックスさん?でも、何で?)


 何故だか「大きな商会じゃないですか!」と言ってはしゃぐおばちゃん。俺は混乱の極みだ。


(と、とにかく話を聞いてみるしかないか)


 意図がよく分からないまま「頑張るのよ!」と鼻息を荒くするおばちゃんに見送られながらとにかくトロイヤ商会に向かうことにした。




■□■□■□■□



 トロイヤ商会の受付で指名依頼の件を伝えるとすぐにロックスさんが出てきた。彼は俺の姿を見るなり「やぁやぁ、よく来てくれました」と相変わらずの紳士的な笑顔で出迎えてくれ、早速奥の商談室へと案内してくれた。


「指名依頼の件ですよね?」


「はい。でも……そもそも俺、最近鉄級(アイアン)にランクアップしたばかりなんですけど、お役に立てるんですか?」


 不安に思いながら恐る恐る聞いてみたんだけど、そんな俺にロックスさんは表情を崩すことなくあっさり「大丈夫だと思います」と言う。え?ホントに?


「依頼内容を聞いてもらえば分かると思いますよ」


 よっぽど顔に出てたのか、彼は苦笑を浮かべるとそう言って依頼の説明を始めた。


「護衛……ですか?」


「ええ、そうです」


 首を傾げる俺にロックスさんがアルカイックスマイルを浮かべながら静かに頷く。なんでも今回の依頼はこの街の北にある別の街への買付の護衛らしい。滅多に危険なことはないそうだけど「泊まりがけになります」ということだった。


「そうは言いますけど……本当に俺で大丈夫なんですか?成りたての鉄級(アイアン)ですよ?」


 我ながらしつこいと思わなくはないけど、それでも念を押すことは大切だ。何かあってからじゃ遅いからね!


「もちろんセイマさん一人でというわけではありませんのでご安心ください」


 えっ?そうなの?なんだよ!心配したじゃん!でも、他はどういう人なんだろう?上手くやれるかな?


「他にはイリスさんも所属している“蒼穹の翼”のみなさんと黒い全身鎧の……レイジさん……でしたかな?今のところはその七名を予定しています」


「えええッ!!」


 メンバーを聞いて驚く俺にロックスさんが珍しく悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる。


「それで、どうでしょう?受けていただけますか?」


 知り合いばかりのメンバーに思考停止する俺にいつの間にかいつもの笑顔に戻ったロックスさんが改めて問いかけてきた。そのメンバーなら心配は無さそうだけど……


「あの……一つ聞いてもいいでしょうか?」


「はい、何でも聞いてください。お答えできることなら何でもお答えしましょう」


「ええと……何故俺なんでしょうか?」


 恐る恐る思っていた疑問を聞いてみる。


「そうですね……私はこれでも商売人なんですよ」


「はあ?」


 窺うように質問した俺のことを気にした様子もなくロックスさんは話し始めたんだけど、ロックスさんが商人なのは当たり前じゃないか?


「これでも人を見る目はあるつもりなんです。その私が思うにあなたは誠実な方なのでしょう。それはもう冒険者としてはやや心配になるくらい」


 何を言われるのか分からずに首を捻る俺にロックスさんはクスクスと笑いながら言う。


「先日の取引の際もきちんと事前に私が言ったことを確認してから商談に来られた。十分に信頼できる取引相手だと思いました。それが理由の一つ目」


「一つ目?」


 まだあるの!?


「ええ。もう一つは商売人らしく将来有望な冒険者に恩を売っておこうかと思いまして」


「恩?ですか?」


 ロックスさんは茶目っ気たっぷりな笑顔を浮かべるけどいまいち意図が分からない。


「今後、冒険者としてランクアップしていくには指名依頼も護衛依頼も経験する必要がありますよね?今回の依頼はそれほど危険もないので初めての護衛依頼としてはぴったりだと思ったんですよ」


 そこまで言うとロックスさんはクツクツと笑い出した。俺ってそんな間抜け面してたかな?


「それでお返事はいかがでしょうか?」


 一通り笑うとまたいつもの笑顔に戻った彼がこちらに問いかけてくる。どうでもいいけどこの人、何種類笑顔を持ってるんだろうか?


(悪い話……じゃないよな)


 言われてもう一度考える。悪い話どころかむしろ願ってもない話だ。こんなに良くしてもらって何を返せばいいんだ?


「もっと大きくなったら返してくれればいいですよ」


「えっ?あ、その、では、よろしくお願いします」


 あれ?また顔に出てた?なんとなく気恥ずかしく思いながら依頼を受けることを伝える。


「良かった。あっ!そうだ。先ほども言いましたが道中の治安はそれほど悪くはありません。ですが、もし、どなたか誘いたい方がいれば声を掛けていただいて構いませんよ」


「いいんですか?」


 なんと太っ腹な話!本当にいいんだろうか?俺がもう一度聞き返すとロックスさんは「まだ予算に余裕がありますから」と言うと何かに気づいたような顔をしてから「あっ!でも、数名にしてくださいね?」と言ってまたクスクスと笑い出した。この人、本当はかなり愉快な人なのでは?


「それでは他に同行する方が決まったらギルドを通じてご連絡ください」


「分かりました。それでは失礼します」


 俺はわざわざ店の前まで見送りに来てくれたロックスさんに軽く頭を下げるとギルドへ戻るためにトロイヤ商会を後にした。大丈夫だって言ってるのにいつまでもロックスさんが引っ込んでくれないからね!


「あーッ!セイマ!!」


「ん?リネット、それにルデリオも。お疲れ~」


 ギルドに戻ってくるとこちらも今戻ってきたらしいリネットとルデリオのコンビに出くわした。


「何?なんかあったの?『お疲れ~』とかニヤニヤして気持ち悪い。捕まるわよ?」


「ちょ、ちょっとリネット!し、失礼だよ~」


 いや、ルデリオ、そこで必死で笑うのを我慢してるお前も十分失礼だからな!それからリネット!気持ち悪いは言い過ぎだろうが!


「気持ち悪いって……へぇ~、そんなこと言ってもいいのかなぁ?」


 リネットに言われてペタペタと自分の顔を触っていたけど、そこでふとあることを思いついて彼女にニヤリと笑い掛けた。何を感じたのかリネットは「な、何よ?」と言いながら顔を引き攣らせて俺から距離を取る。コラッ!その反応は失礼だろうが!俺だって傷つくんだよ!そんなことを思いながらもめげずに「フッフッフ」と意味ありげな笑みを浮かべてやった。


「何よ!何かあるなら早く言いなさいよ!」


「え~、どうしようかなぁ~?」


「ウザいわね。燃やすわよ!」


 おっと、ちょっと調子に乗り過ぎた。うん、ロックスさんの言葉が嬉しくてちょっと浮かれ過ぎてるらしい。俺は緩んでいた顔を少し引き締めると思い付いたことを二人に話した。


「えっ!?行く!行きます!連れてって!」


 俺が思い付いたこととはもちろん一緒にロックスさんの護衛依頼を受けないかということだ。そのことを話すと案の定、リネットはこちらに身を乗り出してきた。現金な奴め。


「リネットはいいとして……ルデリオもそれでいいか?」


「えっ?あっ、はい!お願いします」


 横で「連れてけ~、連れてけ~」と喚きながら迫ってくるリネットの頭を抑えながら、その様子を見ていたルデリオにも確認する。まあ、基本的にリネットの決めたことにルデリオが反対することなんて滅多にないんだろうけど一応ね。


「じゃあ決まりだな。出発は二日後の早朝らしいから遅れるなよ?」


「やったー!任せなさい!これであたしたちも石級(ストーン)から鉄級(アイアン)にランクアップね!待ってなさいよ!すぐに追い付くんだから。ね!ルー!」


「ちょ!リネット!危ないよ!ワッ!」


 よっぽど嬉しかったのかリネットが飛び跳ねながらルデリオに突っ込んでいく。


「おーい!はしゃぐのは後にして先に受付で手続き済ませようぜぇ!」


 ルデリオを追い掛け回すリネットに声を掛けると俺は早速受付へと報告へ向かった。

次回更新は2/14(土)21時の予定です。

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