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【勇者ゲーム】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—【リメイク】  作者: 玄野 黒桜
第一章 知らない空が現実(きょう)になる

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第十四話 どこの世界でも人間にそう違いはない

「イリスッ!大丈夫かッ!」


「セイマさんッ!私は大丈夫ですけど……あの……」


 対峙するレオンと黒騎士の間でおろおろしているイリスに駆け寄ると彼女を背に庇うように身体を滑り込ませる。どうやら恐怖よりも困惑が勝っているらしい。その姿に一安心した俺は視線を前に立つ二人に向ける。


「…………」


「…………」


 一言も発さず睨み合う両者。俺よりも頭一つ分ほど背が低いレオンが下から忌々し気に黒騎士を睨みつけている。対する黒騎士。今日も相変わらず全身鎧に身を包み室内でも兜のバイザーは下ろしたまま静かにレオンを見下ろしている。


(それにしてもこうして改めて見るとすごい威圧感だ……)


 身長は一七四センチの俺と比べてもデカい。おそらく一八〇センチくらいなんだけどそれよりもゴツく見える。表情が見えないこともあってか正面に立たれたときの威圧感は息苦しさすら感じるほどだ。


「おい、誰か職員呼んで来いよ」


「おっ?なんだ?ケンカか?」


 周囲の冒険者たちもどうしていいのか分からないのかヒソヒソと小声で囁きあっている。


「…………離せよ」


「…………」


「テメェには関係ないだろうがッ!聞こえねぇのかッ!出しゃばってくんじゃねェよッ!離せっつってんだろッ!!」


 沈黙に耐えかねたのか小声で掴んでる腕を離せと言うレオンだったが、黒騎士が沈黙を続けると次第に声を荒げ始める。なんとか掴まれた腕を振り解こうと藻掻いているけど黒騎士は微動だにしない。


「いい加減にしておけ。()()()


「ッ!?」


 それは静かな声だった。だから最初誰の声だか分からなかった。くぐもった少し聞き取りにくい低い声。それは俺が初めて黒騎士の声を聞いた瞬間だった。


(ッ!?サトウッ!?)


 いきなりの黒騎士の発言に衝撃を受けたと同時に心のどこかで(やっぱりか……)と納得する自分がいた。黒髪黒目の日本人のような容姿や今までの言動、これまでの疑惑が俺の中で確信に変わっていく。


だけど、黒騎士の発言に衝撃を受けたのは何も俺だけじゃなかった。そう、「サトウ」と呼ばれた当の本人—レオンだ。彼は一瞬呆気に取られたような顔をしていたが、次の瞬間、黒騎士の手を力任せに振り解く。その顔は怒りで真っ赤に染まり、今にも射殺さんばかりの血走った眼で黒騎士を睨みつけた。


「…………」


「…………クッ!俺はッ!レオンだァァッ!」


 再び二人の間で睨み合いになるかと思ったけど、黒騎士の迫力に堪えかねたのかレオンは一瞬唇を噛むような仕草をしたかと思うとそのまま踵を返そうとして俺と目が合った。背後でイリスが俺のシャツをグッと掴んだのが分かる。


「ッ!?クッ!このッ!!」


「…………」


 睨みつけくるレオンを無言で睨み返す。憎悪に染まった瞳が僅かに怯んだように視線を彷徨わせて俺から逸れた。


「ッ!?」


 イリスが一層強く俺のシャツを掴んだことで彼女が息を飲んだことが分かって、俺は彼女を深く自分の背に隠す。


「チッ!」


 奴が何を思ったのかは俺には分からない。ただ、悔し気に舌打ちすると周囲の視線を振り払うようして走り去っていった。俺は騒めく冒険者たちの中心で走り去る奴の背中を見えなくなるまで追い続けた。



■□■□■□■□■□■□


「…………」


「…………」


ようやく落ち着きを取り戻し始めた冒険者ギルドのエントランスで、なぜか俺は黒騎士と無言で対峙していた。


(一体何なんだ?)


 今まで何度も感じていた意味の分からない視線。レオンの正体を知っていたこと。いろいろなことが混ざり合って複雑な心境で頭を渦巻いて視線を外せない。


「助けていただいてありがとうございます()()()さん」


 そんな俺たちの空気を知ってか知らずか、俺の後ろから出てきたイリスが黒騎士に礼を言ってぺこりっと頭を下げる。その身体が微かに震えているのが分かった。黒騎士の視線が俺から外れてイリスに移ったところで俺は小さく息を吐いたんだけど—彼女が呼んだ黒騎士の名前が引っかかった。


(レイジ?まさかコイツも……?)


「礼はいい。次からは気をつけるんだな」


「はい……」


 黒騎士—もといレイジとイリスのやり取りを見つめる。奴は言いたいことだけ言い終えるとイリスの脇を抜けてこちら向かってきた。


(ッ!?)


 背中を冷たい汗が流れる。奴が一歩動くたびに全身鎧がガシャガシャ音を鳴らし、『ドンッ』という腹に響くような足音が鳴る。あと一歩で目の前に—俺は身構える。だが、奴はそのまま俺の横を通り抜けた。


(何も……ない……?)


「……いずれ」


「ッ!?」


 奴が俺の脇を通り過ぎる瞬間、くぐもった声は確かにそう聞こえた。


「セイマさん?」


 慌てて振り向く俺の耳に不思議そうなイリスの声が届くがそれどころじゃない!急いで奴の背を視線で追う。だけど、ギルドから出ていくまで奴がこちらを振り返ることはなかった。


「セイマさん?」


「ッ!?そ、そうだ!イリス、大丈夫か!?」


 もう一度イリスの声が聞こえたところで状況を思い出して慌てて彼女の傍に寄る。イリスは自分の体を掻き抱くようにして気丈にも「大丈夫です」と答えてくれたけど、その体はまだ微かに震えている。


「と、とにかく外に出ようか」


 周囲の視線のこともある。俺は小さく頷くイリスの肩を抱くようにしてそそくさとギルドを出た。


「…………」


 ギルドを出ても会話はない。俺は俯いて歩くイリスの隣を寄り添うようにして歩いた。


(お祝いって雰囲気じゃなくなったな……)


「…………食事はまた今度にして今日のところは帰ろうか?」


ショックだったんだろう。イリスは俺の提案にも言葉を発することなくただ「こくりっ」と頷くだけ。俺もどう言葉を掛けていいか分からず無言のまま隣を歩き続けた。


「えっと……今日は大変だったと思うしゆっくり休んで」


 イリスの家の前。俯いたまま一向に動かない彼女にどう声を掛けたものかと悩んだ結果がこれだ。もっと気の利いたことを言えよと思うんだけどこれが俺の精一杯。


「じゃ、じゃあ俺も今日はこれで帰るよ。また明日—って、えっ?おっと」


 できるだけ明るく言ってから離れようとしたら袖を掴まれて振り返る。すると何かが胸に飛び込んできたので慌てて“それ”を抱きとめた。


「……うっ、うう……こ、怖っ、怖か……った……です……」


 胸の中から聞こえてきた泣き声。俺はどうすることもできずにただただ胸の中で泣き続ける彼女の頭を撫で続けた。



■□■□■□■□


「そ、その……すみませんでした……」


「い、いや!その!べっ、別に大丈夫だから!」


 どのくらい時間が経ったか、泣き止んだ途端にイリスは慌てて俺から離れてまた俯いてしまった。ただ、今のそれはさっきまでのようなものではないようで耳まで真っ赤に染まっている。俺もなんとなく照れ臭くなって自分で何を言っているか分からない。


「「…………あ、あの!」」


 何とも言えない沈黙に堪えかねて何か言わなきゃと思ったら声が重なってしまった!


「今日はご迷惑をおかけしました。お祝い行けなくなってしまってごめんなさい!」


互いに「イ、イリスからどうぞ!」「い、いえ、セイマさんから!」と譲り合った結果、イリスが話し始める。勢いよく頭を下げる彼女に「大丈夫だから」と宥める。ようやく顔を上げた彼女の表情はだいぶ落ち着きを取り戻したみたいだけど、その目尻は赤く腫れ、涙の跡がくっきりと残っている。


「あ、あの……」


 まじまじと見つめてしまっていたようで頬を染めたイリスが恥ずかしそうに身じろぎする。俺は「ご、ごめん!」と言いながら慌てて視線を逸らす。顔が熱い。彼女も「い、いや、その……大丈夫です」とは言うもののまた恥ずかしそうに俯いてしまった。


「…………。そ、その、もう大丈夫です!送ってくれてありがとうございました」


「う、うん。じゃ、じゃあ今日はもう帰るよ」


 よく分からない気恥ずかしい空気に堪えるのも限界が近くなったところで俺は早口にそう言うとイリスが家に入るのを見届けてから踵を返した。



■□■□■□■□


「……サトウにレイジ、か」


 宿に戻ると食事もそこそこにベッドに寝転がる。思い出すのはやはりギルドでの出来事。これまでの二人の態度や視線を思い返す。


「そういう……こと……だよなぁ」


 感じていたはずの違和感。自分が知らず知らずのうちに—いや、本当は分かっていて考えることを避けていたこと。


「……いずれ、か……」


 去り際のレイジが呟いた言葉、その意味が小骨のように突き刺さる。今のこの状況はいつまでも続かないかもしれない……そのことを無理やり突きつけられたことだけは分かった。


次回更新は1月11日21時予定です。

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