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【勇者ゲーム】Fragments:13 —13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う—【リメイク】  作者: 玄野 黒桜
第一章 知らない空が現実(きょう)になる

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第十話 どこにいたってそこが自分にとっての日常になる

「おーいっ!そろそろ飯にするぞーっ!」


「はーいっ!」


 畦道からおじさんが休憩を告げる。畑の中で作業をしていた俺は返事をしながら立ち上がると腰を伸ばした。


「痛ててて」


 ずっと前傾で作業をしてたから腰の痛みに顔を顰める。なぜ俺が畑仕事なんかしてると言えば、もちろん、これが今回の依頼だからだ。


 魔法銃を手に入れてからすでに五日が過ぎていた。あのあと、イリスから自宅に滞在することを勧められるのを断った俺は冒険者ギルドの近くに宿を取った。これで正式に滞在場所が決まったので、早速ギルドに所属申請をして俺は正式にウィーレスト支部の所属になった。


 住む場所も決まってギルドの所属登録もしたけど、これで安心っていうわけじゃない。金貨五枚の臨時収入や入街税の日割り分が戻ってきたとはいえ、何の収入もなかったらあっという間に一文無しになってしまう。


 ここで物語の主人公なら冒険者らしく、いきなり大物討伐なんかしちゃって一気に冒険者ランクが上がるんだろうけど、さすがに装備も揃ってなければ知識もない状態でそんなことをするほど無謀じゃない。冒険したい気持ちをグッと堪えて、来週からの初心者講習に参加申請した。


 だけど、結局は来週まで予定も収入もないわけで、地道に街の中でできる依頼を受注することにした。登録したてのストーンランクが受けられる依頼なんていうのは、大体が清掃や畑仕事なんかの軽作業だ。そういう依頼を受けた結果が今の畑仕事ってわけ。


「ほれ、これが完了証明書だ。また頼むな!」


 おじさんたちに混じって食事をした後、昼過ぎまで作業をした俺は依頼の範囲を終わらせると笑顔のおじさんから依頼の完了証明を受け取った。礼を言って畑を後にする。さて、このあとは道場に行かないと!


 この五日間で俺もいろいろと考えた。元の世界に帰るためにはとにかく【勇者の欠片】を集めるしかない。かといって、自称神が言っていたように自分以外の勇者候補を殺して奪うなんてことはするつもりはないけど、自分が殺されて奪われるのもごめんだ!だけど、俺には武術や格闘技の心得はないし、森山猫(フォレストリンクス)と戦って分かったとおり、例えジョブが戦闘職でも戦い方を知らないと思ったように身体が動いてくれない。


 あれこれと考えた俺は冒険者ギルドに誰か戦い方を教えてくれる人を紹介してくれないか相談してみた。ダメ元だったけど、なんとリタイアした元冒険者で戦い方を教えてる人は結構いるらしく、あっさりといくつかの道場を紹介してもらえた。実際にいくつか見学をしに行った結果、実践的な剣術や体術を教えている元冒険者の『ケルグ・オルレン』という人に弟子入りすることを決めた。


 ケルグさんに弟子入りして以降、昼過ぎまで依頼をこなしてそこからは道場に通うっていう生活を始めた。


通い始めてみると改めてジョブのありがたみが分かった。道場なのでケルグさんには俺以外にも何人かお弟子さんがいるんだけど、みんながみんな剣術も体術も使いこなせるジョブを持っているわけじゃない。剣士系ジョブの人もいれば格闘家系のジョブの人もいるし、まだどっちのジョブも持ってない人もいるんだけど、ジョブを持ってない人に比べて明らかに動きの理解が早かった。ただし、剣や格闘専門ジョブの人に比べるとどうしても理解が浅いっていう万能戦士(マルチファイター)の器用貧乏っぷりも分からされたけど……


「コラッ!余計なことを考えるなッ!」


「痛ッ!」


 あれこれ考えながら素振りをしていたら、師匠に頭を木剣で叩かれた。元の世界なら体罰でたちまち炎上するような指導だけど、この世界にコンプラなんてあるはずもなく「素振り三〇〇回追加ッ!」という無情な宣告にも「はいッ!申し訳ありませんッ!」と言うしかない。それを見てクスクス笑っていた隣の兄弟子も同じ刑に処されたのでここは溜飲を下げておこう。


 こうして小さいけどようやく冒険者としてこの世界で一歩を踏み出したはいいけど悩みがないわけじゃない。


「…………」


 例えば今の状況。今日も何か街の中でできる依頼を受けようと朝からギルドに来たんだけど、ごった返す冒険者たちの中でたまたまレオンに出くわしてしまった。彼も俺に気づいたみたいだけど、声を掛けてくるでもなくただ無言で睨みつけてくる。


(そんなに睨まれても……)


 彼が睨んでくる理由も分からない訳じゃないけど、別に俺とイリスは彼が思っているような特別な関係じゃない。実際、ここ数日はギルドで見掛けたら挨拶する程度だ。まあ、顔を見るたびに「次はいつご飯を食べに来ますか?」と誘われたりはするんだけど……


「あっ!」


 勇者候補の可能性が高い彼とはできれば協力していきたいし、そのためにも誤解を解いておきたいと思ったんだけど、声を掛けようとしたら背を向けてギルドから出ていってしまった。


「はぁぁぁ……ん?」


 どうにも上手くいかなくて溜息が漏れたところでなんとなく視線を感じた。慌ててキョロキョロと周りを見回す。この時間は受注のピークなので周囲には人だらけだ。みんな掲示板に貼られた依頼書を真剣に吟味したり、受付に並んだりしている。


(ん?あれって確か……)


 そんな中で気になる人物がいた。俺からはかなり離れているけど、全身真っ黒な甲冑で、建物の中でさえ兜のバイザーを下げている姿は人が多くても目立つ。ウィーレストに来るときにイリスたちの合同パーティーにいた性別不詳の人物だ。


黒騎士(真っ黒な甲冑姿なので俺の中ではそう呼んでいる)は周囲で人が行き交う中、ただ立っていた。顔を隠しているので実際の視線は分からないけど、さっきの視線はあの人からのような気がする。


(この前といい、あの人もどういう人かよく分かんないなぁ……)


「おい、掲示板の前で突っ立てるだけなら邪魔だから場所譲れよ」


 いつの間にか考え込んでいたみたいで掲示板を見に来た冒険者から怒られてしまった。俺は慌てて「すみませんッ!」と謝る。考えても分からないことを今悩んでもしょうがない。それよりも今日の仕事だ。俺は掲示板に視線を戻すと再び今日の依頼を吟味し始めた。


「つ、疲れた……」


 依頼を終えて冒険者ギルドに戻ってきた俺は、待合席に沈むように腰を下ろした。こう連日肉体労働だとさすがにしんどい。今日の依頼は工事現場だった。これって冒険者じゃなくて土木作業員じゃない?


 ウィーレストは今も毎日のように冒険者志望がやってきて人口が増え続けている。それに伴って拡張し続けている都市でもある。街の西側では第四外壁の建設に向けて工事が行われていて、今日の依頼はそんな工事現場の作業員だった。


「あっ!セイマさん!」


「おわッ!?」


 依頼の完了手続きが終わるまで待合席でぐったりしているといきなり名前を呼ばれて椅子からずり落ちそうになった。慌てて座り直していると「探してたんですよ!すぐ見つかってよかった!」と言いながら誰かが駆け寄ってくる。


「びっくりした……って、イリス?どうかしたの?」


 駆け寄ってきたのはイリスだった。彼女はよっぽど急いできたのか息を切らしているけど、なぜか顔は嬉しそうだ。彼女は息が整うと俺にずいっと身を寄せて「装備!調整が終わったって!」と告げた。おおっ!マジかッ!


「って、なんでイリスが知っての?」


 普通、こういうのは依頼者の俺のところに連絡が来るもんじゃないのか?そんな風に思っていると、イリスは「はぁぁぁ」と溜息を吐きながら呆れたような目でこちらを見る。俺、なんか変なこと言った?


「だってセイマさんはオグズ親方に連絡先を伝えてないじゃないですか……連絡先が分からないって私のところに連絡が来たんですよ!」


「あっ!」


 そういえばあのときはまだ滞在場所が決まってなかったから、決まったら改めて連絡するって言ったまますっかり忘れてた!イリスの指摘を「あはははは……」と乾いた笑いで誤魔化そうとしたんだけど、ジト目で見られてしまった……


「そ、それじゃあ手続きが終わったらローダン工房に行ってみるよ。知らせてくれてありがとう」


 イリスの視線に耐えられなくなってそう言ったんだけど、どうやらお気に召さなかったらしく彼女は頬を膨らませた。その反応に戸惑っていると「私も一緒に来ますから!」と宣言されてしまった。ですよねー。ここは素直に頷いておこう。


「おっ!来やがったな!」


 ギルドでの完了手続きを終えてイリスと一緒にローダン工房に行くとオグズ親方に出迎えられた。なんだかニヤリと意味ありげな笑みを浮かべている。心当たりがなかったので思わずイリスの顔を見たけど、彼女も詳しいことは聞いていないらしく、首を傾げている。


「えっと……装備の調整が終わったって聞いてきたんですけど……」


 親方が何を企んでいるのか分からなくておそるおそる話を切り出すと、「ん?ああ、そっちの話が先だな」と言われた。『そっちの話』ってなんだ?


「これが頼まれてた装備だ!なかなかなもんだろ?」


「ッ!」


 テーブルに並べられていたのは鎧・小手・脛当てだった。イリスの父親は大柄な人だったのか譲ってもらったものより一回り近く小さくなっているように見える。


 元々シンプルな茶色の革鎧だったけど、ところどころに黒いラインが入っていてかなり渋いデザインに変わっている。


「おおっ!」


 思わず感動の声が漏れる。だけど、そんな俺を見た親方は「驚くのはまだ早ぇぜ!手に取ってみな」と言う。何ッ!まだ何かあるのか!


「あれ?分厚い?」


 言われたとおり鎧を手に取ってみると、調整をお願いする前に比べて分厚くなったような気がする。だけど、あんまり重さは変わっていないような……?


 俺が不思議に思っていると親方が説明してくれた。俺の予想どおり、各装備は預けたときから小さくなっているそうだ。元々この装備一式は蜥蜴亀(リザードタートル)という亀と蜥蜴の中間みたいなクリーチャーの素材で作られていたらしい。俺の体型や動きに合わせてかなり切ったみたいなんだけど、その端材を急所などに貼り合わせて補強してあるそうだ。


「へぇ、なるほど。でも、それだけにしては分厚くなっているような……これってこんなに硬かったですっけ?」


 確かに端材を貼り合わせてあるなら分厚くなってるのも頷けるんだけど、それにしては以前に比べて硬いような気がする。


「おう!分かるか!」


 どうやら俺の指摘は当たってたみたいで、親方は嬉しそうな反応をすると種明かしをしてくれた。なんでも親方が昔、イリスの親父さんにこの鎧を作った頃と今では若干製法なんかが違ってるんだそうだ。同じ蜥蜴亀(リザードタートル)の革鎧でも、今のほうが立体的で動きを阻害しないらしい。そこで親方は、端材の下に鎧甲蟲(アーマーカナブン)っていうデカくて硬い甲虫クリーチャーの素材を入れてくれたそうだ。


「一応は身に着けて確認してくれや!」


 親方に言われるままに身に着けてみた。


(軽い!)


 装備する前から分かってたけど、それでも想像以上に軽い。試しに鎧甲蟲(アーマーカナブン)の素材が入っている胸の辺りを軽く拳で叩いてみた。拳にはコツコツとした感触が伝わってくるが胸にはほとんど衝撃がない!思わず「親方!これすごいですよ!」と興奮気味に伝える。親方とイリスが顔を見合わせてクスクス笑ってる気がするけど気にしない。


「はしゃいでるとこ悪ぃんだがよぉ、俺が見てほしいのはこっちなんだよ」


 装備に興奮してる俺を見て笑ってた親方がそう言いながら何かを差し出してきた。


「???………これは?」


 出てきたのは大小複数の剣だった。特徴的なのはこっちの世界の剣に比べて、やや剣身の幅が狭く湾曲していることだろうか。そういう意味では剣というより“刀”といったほうが正確かもしれない。


「おめぇさんに言われたように切裂蟹(リーパークラブ)の甲羅の粉末を芯に吹き付けた上から別の鉄ぅ巻きつけて打ってみたんだよ。そしたらそれだけでもそこそこの切れ味でな!こいつらはとりあえずそれにいろいろクリーチャーの素材混ぜた試作品なんだが、しばらく預けとくんでいろいろ試してくれねぇか?」


 どこか興奮気味に話す親方。俺は「いいんですか!?」と驚いたが、「言い出したのはおめぇなんだから当たり前だろ!」と言われたので、定期的に感想を伝えに来ると約束をして剣、もとい刀を預かることになった。


 親方に礼を言ってローダン工房を出た俺たち。じゃあ帰ろうかと歩き出そうとしたところでガシッと腕を掴まれた。何事かと思って振り向くとそこには笑顔のイリス。笑顔なのになんか怖い……


「あの……イリスさん?」


「何帰ろうとしてるんですか?せっかく装備も完成したんだからお祝いしないと!ですよね?」


 有無を言わさぬ迫力。俺はコクコクと頷くしかない。そのまま連行されるようにしてイリスの家に連れていかれた。最初からそういう話だったのか、何の疑問もなくソニアさんに出迎えられ、「じゃあ早速私にも見せて!」とせがまれるままに家の中で装備を身につけさせられた。


「あらぁ!素敵じゃない!惚れ直すわ!」


 装備を身につけた俺を見て腕に抱き着こうとするソニアさん。そこに「お母さん!いい歳して止めてよ!」と割り込むイリス。


「あら、いい歳なんて失礼ね!食堂に来る若い冒険者の人たちだって『おねぇさん』って呼ばれてるのよ。セイマくんだってそう思うわよね?」


 ソニアさんも負けじと応戦する。確かにソニアさんはイリスのお姉さんくらいに見えるけど、俺に振るのは止めてほしい。ほら、イリスが何か訴えかけるようにこっち見てるじゃん!


 そこからああだこうだと二人が言い合い始めた。揶揄うソニアさんとムキになって言い返すイリス。なんだかんだ楽しそうな二人を見ていると家族っていいなと思った。


次回更新は明日21時予定です。

明日で年内は最後の更新予定となります。

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