Requiem V【まっててね、】
「あーあ……」
シェルファは、そう諦念の宿った声を出した。
「ニオに、みられちゃったなぁ……」
彼の個術——“魅了”。
それは、世界に2人だけしかいないという、特別な個術。
その仄かに魔力を帯びた雪のような白銀の瞳を見たものは、例外なく“魅了”される。
人々に限らず、生きとし生けるものを惹きつけ、夢中にさせ、心を奪う。
その能力は、瞳だけではない。
“神の声”、“神の奏指”——
その声と、指で奏でる音楽によって、人々を“魅了”することができるその能力は、しかしシェルファは自分で制御できない。瞳の“魅了”も、この声・指の“魅了”も。
その音楽の魅了を、制御できるようになるために。
復讐相手に、最大限の“魅了”を出すことができるように。
シェルファは、実姉であり第一王女であるメレディーナに禁止されている楽器を、こっそり自室で使い、“神の声”“神の奏指”の“魅了”を磨き上げていたのだった。
しかし——
「もー、シェルファ様! まだあのこと引きずってるんですか⁉ しつこいですよ! わたしは誰にも言わない、怒らないって言ってるじゃないですかー!」
この少女メイド・ニオが見てしまったのだった。
「シェルファ様―⁉ まーだメレディーナばば……うん。サマの命令を素直に受け取ってんですか⁉ めんどくさいのでやめてくださーい!」
腐っても父王の実子であり、王子である自分にこれほど気安く、親しく話してくれる人はいない。
素直で単純、純粋なので、扱いやすくて助かる。
「シェルファさ、」
「うん、わかったぁ。ごめんねー、ニオ。おちこんでないよー」
「落ち込んでるなんて言ってませんよ! シェルファ様がこんなことで落ち込むような人じゃないってわかってますよ!」
「……あぁ、そう……ひきずってないよー」
「ほんとですかぁー⁉」
「ほんとだってば」
苦笑を思わず漏らしながら、シェルファはふっと目を窓の向こう、真っ青の高い空に向けた。
「——まっててね、レイグをころしてくれやがったクズさん」
残忍で冷酷な、しかし無邪気な、うつくしい笑顔を浮かべて。
読んでくださってありがとうございます。
長めの作品ですので、最後まで応援して下さってくれればうれしいです。
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【神の声】θεόςφωνή:テオスフォニ
【神の奏指】Θεοδάχτυλο:セオダフティロ




