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8 浄水装置とシャワー

 俺は近くで聞こえたガサガサと何かを物色するような音で目が覚めた。

 月明かりもほとんどないため室内は真っ暗で何も見えない。

 しかし何かをまさぐるような音だけははっきりと聞こえる。


 まさか、魔獣が入り込んだのか?

 俺はベッドから起き出し、異空間ポケットからライターを取り出した。


「あ、ユウトさん、起こしちゃいました?」


 アリサの声だ。

 彼女も物音に気付いて起きたのかもしれない。


「ちょっと待ってね、今ライターを……」

「あ、ユウトさん、ちょっとタンマ──」


 俺はライター付けた。

 薄明かりの中で隣のベッドの上にいたアリサが朧げに見えた。


「あ、ちょ、ちょっと、やだ」


 アリサは上半身裸で胸をタオルで隠していた。

 下もGパンを脱ぎ捨て、白い下着が見えてしまっている。


「あ、ご、ごめん!」


 俺は慌ててライターの火を消した。

 アリサの綺麗な肢体が目に焼き付いてしまった。


「えっと、ちょっと気持ち悪かったので、身体を拭きたくて……」

「あ、そ、そうだよね、気付かなくてごめん」

「いえ、謝ることじゃ……」


 俺は暗闇で見えないのに何故か反対方向に体を向け、必死に弁明した。

 恐らく俺の顔は真っ赤になってただろう。

 まぁアリサも真っ赤になってただろうが。

 俺たちはそれ以上言葉を発することなく、日が出るまでベッドの上でじっとしていた。


◆◆◆◆◆◆


「あれ、なんか二人ともぎこちなくない?」


 早朝、起き抜けのミナの一言に深夜の出来事を思い出してしまう。

 アリサも何も言わずに俯いている。


「あれ、二人とも顔が赤い?」

「そそ、そんなことないわよ、ねえユウトさん!」

「ああ、気のせいじゃないのか?」

「くふふ、ユウトくん、お姉ちゃんの身体、綺麗だったでしょ」


 その言葉に思わず飲んでいた水を噴き出してしまった。

 全部見てたのか?


「あーあ、貴重な水を無駄にしちゃだめだよ」

「ごめん……」

「さぁ今日は何をしようか、元気よくいこー!」


 完全にミナのペースだなこりゃ。

 俺は動揺を隠すように勢いよく立ち上がった。


「さてと、ちょっと二人にお使いを頼んでいいかな?」

「お使いね、了解、何を調達してくればいいの?」

「裏手の川から、小石や砂利を拾ってきてほしいんだ」


 俺は周囲解析サラウンド・スキャンで近くに魔獣がいないことを確認し、念の為30分以内に戻るよう伝える。

 二人はそばにあったバケツを持って元気よく出発していった。


「さてと、二人が帰ってくる前にこっちも買い物を済ませるか」


 そう言って俺は2階の奥にあるホームセンターコーナーへ向かった。


◆◆◆◆◆◆


 30分後、バケツ1杯に砂利を持って二人が帰ってきた。

 ミナが肩で息をしている。

 さすがにこの重量を運ぶのはキツかったか。


「大丈夫、これまで同じくらいの水を毎日運んでいたのよ?」


 俺の考えを汲んだのか、アリサがそう言った。

 二人にお礼を伝えると、俺は早速作業に取り掛かった。

 まず調達してきた奇麗なバケツ2つのうち、片方の底に10円玉ほどの穴を開ける。

 そして穴の空いたバケツの底に布を敷き詰め、その上に活性炭フィルターを置く。


「あ、それって」

「アリサさんは気付いたみたいだね、このバケツで飲料水を作ろうと思って」


 そしてフィルターの上に選別した小さな砂利を敷き詰め、その上に小石を置いていく。

 最後にもう一度布を被せたら完成だ。


「よし、これで試してみよう」


 作成した浄水バケツの下に、受け皿になるバケツを設置する。

 そしてさっき一緒に見つけておいたやかんに水を入れ、少しずつバケツに回し入れた。

 注いだ水がじわじわと浸透していき、バケツの底穴からポタポタと水が滴ってきた。


「凄い、綺麗な水が出てきた!」

「これでも飲めるかもしれないけど、念のため煮沸しよう」


 そう言って水をやかんに戻し、火にかける。

 ある程度沸騰したところで火から降ろし、解析を試みる。


水【『ph値:7.1 細菌:検出無し 臭気:無し 味:異常なし』】


 俺は一口飲んでみた。

 特に臭みも味も問題ない、色味も透明で通常のミネラルウォーターと大差ない感じがする。


「うん、問題なさそうだ。飲んでみる?」

「飲む!」


 ミナが元気に差し出してきたコップにやかんのお湯を注ぐ。

 それを受け取ると同時に口に着け、目をつぶりながらごくりと喉を鳴らした。


「うん、美味しい!」


 実際はただの水だが、飲料水の心配がなくなる喜びがひと際美味しさを感じさせているのだろう。

 俺たちは3人でやかんの水を乾杯しながら飲み干した。


「さて、もう一つ水回りでやっておきたいことがあるんだ」

「むふ、次は何かな?」

「そろそろお風呂に入りたくない?」

「!!!!!!!」


 ミナも驚いたが何よりアリサの反応が激しかった。


「リフォームコーナーにガラス張りのユニットバスの展示品があっただろ? あれ使えないかな」


 施設内の給水管は全部修理できている。

 ユニットバスの展示品にしては排水溝も付いていたし、水を出して展示していた可能性が高い。

 俺たちは急いでリフォームコーナーへ移動した。


キュッキュッ

シャワワワ~


「あぁぁ、シャワーから水が出た……」


 アリサが感動に打ち震えている。

 流れ出た水は渦を描いて排水溝へ吸い込まれていく。


「よかった、予想通りだ。まぁ川の水だからお湯は出ないけどね」

「すごいよ!よかったね、お姉ちゃん」

「お風呂……入りたい……」


 服に手を掛けようとするアリサをミナが止めた。


「まだ早いって!ユウトくん、あっち向いてて」

「あ、アリサさん、冷静になって」

「あ……」


 自分がしていることに気付き、顔を赤らめるアリサ。


「ま、まずは必要なものを用意しようか、ガラス張りだから何か隠すものも必要だし……」

「あとタオルとか着替えも欲しいよね」

「そうだな、それじゃホームセンターとGUショップから調達してこよう」


 俺はホームセンターへ、アリサとミナはGUショップへ着替えを探しに行った。

 ものの15分ほどで再び3人がお風呂の前で落ち合う。


「とりあえず防水カーテンでガラスを覆ってと……あ」


 カーテンの丈が短いのか、上部で固定すると床下に50cmほどの隙間ができてしまった。

 まぁ肝心なところは見えないが……ひざから下が丸見えだ。


「私たちしかいないし、全然平気よ? ね、お姉ちゃん」

「そうね、全然大丈夫」


 アリサはすでにガラスケースの中に入っていた。

 早く準備しないと今にも服を脱ぎだしそうだ。


「あー、あとこれ! これも必要だろ?」


 俺はミナに固形せっけんとタオルを渡す。


「え、石鹸なんてあったんだ!」

「ふっふっふ、すでに解析して復元できることを確認済みだ。存分に使っていいぞ」


 ガラスケースから顔だけ出したアリサの表情がパァッと明るくなる。

 もう下着姿になっているようなので、あとはミナに託して俺はその場を離れた。

 奇麗好きなのは分かったが、目のやり場に困るなホント。

 その後二人はお風呂を満喫し、寝具売り場に戻ってきた。


「ふんふん、石鹸の香りっていいよな」

「あー、おっさんくさい!」


 ミナから軽蔑のまなざしを受けてしまう。

 まぁ二人から見れば年上だからな……でもおっさんという年齢ではないぞ。


「すごくさっぱりした、ありがとうユウトさん」

「次は沸かしたお湯をユニットバスに貯めて、湯舟に浸かるのもいいかもな」

「それ、すごくいい!」


 石鹸を使ったとはいえ、今は川で水浴びしてるのと変わらないからな。

 まだまだ改善の余地はある。


「でも凄いよね、トイレは流せるし飲み水は作れたし、シャワーまで浴びれるようなったよ」

「本当ね、もう以前の生活に戻ったみたい」


 二人とも満足げだ。


「まだまだこれからだよ。もっともっと快適な生活を取り戻してやるから」


 俺は決意表明を兼ねてあえて言葉にした。


「ユウトくんに付いてきてよかったね」

「ええ、あなたに会って私たち救われたわ。なにかお礼がしたいんだけど、私たちにできることはないかな?」


 新品のパジャマを着たアリサがこちらを見て言う。


「いや、お風呂上りにそういうこと言うのやめてくれる? ちょっと……困る」


 あえて視線を合わせないようにそう言うと、アリサも意味が分かったのか俯いてしまった。


「まぁこれからもっと戦力になるから、仕事いっぱい振ってよね!」


 ミナはそんな俺たちに気付かないまま笑顔を向けてきた。

 この笑顔にいつも元気づけられてるんだよな。

 俺は言葉にせず笑顔をミナに返した。

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