28 奔放な性癖
「まぁ、ウチにまかしとき」
「いやいやいや、唐突にどうしたの!」
ベルトをはぎ取るとジュエリは着ていたTシャツを脱ぎ捨て、スカートをめくり俺の上に乗ろうとした。
「はい、ストップ! ストーップ!」
きょとんとするジュエリ。
「え、なに? しないん?」
ジュエリの子供のような目がまっすぐこちらを見ている。
本当に不思議に思っている顔だ。
「食いもんもろたら返すんがスジってもんやろ? ウチ、そういうのちゃんとしたい派やねん」
「いや、いい心がけだと思うけど、今は本当に大丈夫だから!」
驚いている俺を見て、ジュエリは俺から降りた。
「まぁ今じゃなくてもええし? したなったらウチに言うてな」
その行動を見て思った。
ジュエリにとって、これがこの世界を生きてきた当り前の行動なんだろう。
生きるために必要なことをする、男が求めればそれに応じる。
男ってやつは……やってることは『クロイワ連合』のクズどもと同じだ。
なんか腹が立ってきた。
「てかさ、アンタなんでこんなトコおんの? まさか迷子なん?」
唐突な言葉に俺は吹き出してしまった。
ジュエリはこんな世界でも前向きに生きる力強さがある。
「いやいや、何か使えるものがないか探しに来たんだ。ここから10kmほど行ったところに拠点があるんだ」
「は~、10キロて! あんたよう歩いたな〜! 見た目ちゃうやん、ガチ根性系やん!」
「ああ、いや、バイクで来たんだ、ほら、あそこに止めてある」
俺は入り口のがれきの隙間から見えるバイクを指さして言った。
「で、君はどうしてここに?」
「ウチ、大阪から来たんやけどさ、生きるんに必死すぎてさ〜、気ぃついたらここおったってカンジ。ほら、ヤギって草食べながら移動するやん? あんなノリ」
そう言ってあははと笑った。
「でもな、ウチにも目的はあるんよ。東京ってスカイツリーあるんやろ? あれ、いつか見てみたいな〜って思ててん」
「え、大阪からここまで? 歩いて?」
「そや、ウチの行動力、凄いやろ?」
胡坐をかいたままジュエリは得意げな顔で歯を見せて笑った。
「でもほんま助かったで! ぶっちゃけここも食料ほぼアウトでさ、ウチも次どっか探そ思てたんよ」
「そうだったのか。よかったらうちの拠点に来るか?」
「え、マジ?」
「おう、マジもマジ。拠点には女の子が多いけどな、食べ物は用意できるぞ」
「女の子多いとか言うて……あんた、ほんま好きもんやな」
「違うって」
ジュエリと一緒にいると、彼女のノリに引っ張られてしまう。
嫌な感じはなく、ほどほどに心地いいやり取りだ。
「そっか〜、ほなウチもお世話になろっかな? メシいっぱい用意してくれるんやろ?」
「ああ、任せておけ。でも他の人同様、君にもちゃんと仕事はしてもらうよ」
「ぜんっぜんええで? ウチもちゃんとやらなヤバいやん? てかさ、今からやっちゃう?」
「いや、そういう仕事じゃないって――」
言い終わる前にジュエリの口が俺の口を塞いだ。
柔らかい唇の感触に、ふわっとくすぐる金髪が顔に触れ、頭が蕩けそうになる。
「おまっ! ちょっ!」
「へっへ〜♪ さっきのゴハンのお礼なっ! ほな、案内よろしゅ〜っ!」
なんか振り回される未来しか見えないが大丈夫か? 俺。
とりあえずコンビニ内の使えそうな物資を異空間ポケットに放り込んだ俺は、ジュエリを後ろに乗せ、電動バイクを走らせた。
隣の木造アパートから感じた人の気配のことはすっかり忘れていた。
◆◆◆◆◆◆
「はぇ〜、大阪からここまで歩いて……」
「そやねん、食べ物を求めて毎日死ぬほど歩いたわ、でもいいダイエットになったで」
ミナに聞かれたジュエリがお腹を擦りながら答えた。
「大阪出る時は72kgあったからな、今は48kgだから、24kgも痩せたんやで、凄いやろ?」
「えええ、凄いよそれ、羨ましい! ダイエット本出したら絶対売れるよ!」
「え、ヤバくない!? 終末ダイエット本とかマジおもろそ〜! 作っちゃう? バズるって絶対!」
二人でケラケラと笑い合う。
心配せずともジュエリは拠点のみんなとあっという間に仲良くなった。
「だれがかうの? ばかみたい」
それを冷めた目で見ているセラ。
「えいようが足りずに歩きすぎるとたいしゃが落ちてやせにくくなる。やせたのは単に食べ物がなかっただけ」
「え、すご、なんでそんな事知ってるん? もしかしてノーベル賞持ってるん?」
「こんなの、じょうしき」
「いやいや、もう先生になったほうがええんちゃう?」
セラは一見面倒くさそうな表情をしているが、満更でもないようだ。
その後、ジュエリが一番仲良くなったのは意外なことにセラだった。
「あ、先生! なぁなぁ、スカイツリーってどこにあるん?」
「スカイツリーはすみだ区にある。浅草のすぐそば」
「そなんや~、え〜気になるんやけど! ここからってどんくらいで着くん?」
「30kmくらいはなれてるから、歩いていくなら半日はかかる」
「はぁ~! 先生は物知りやなぁ……」
いつの間にか、ジュエリはセラのことを先生と呼ぶようになった。