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27 ジュエリとの出会い

「なんだとてめえら! それでのこのこと帰ってきやがったのかぁ!」


 お頭の怒号が飛ぶ。

 朝の集会で全員が集まる中、奪取班の3人は酷い扱いを受けていた。


「す、すいませんすいません! あいつら魔獣の毒を持ってやがって、こっちを殺そうとしてきたんです!」

「そんなもん! こっちが殺してやりゃあよかったんだ! なにビビッてやり返されてんだオラッ!」


 ボグゥ


「がはぁっ!」

「てめえもだ、役立たず野郎がっ!」


 ドゴッ バキィッ


「ひぃぃ!」

「おぐぅ……」


 奪取班の3人はお頭の暴力によって動けなくなった。

 その光景を冷めた目で見つめる住人たち。


「お頭、その辺で」

「なにぃ? お前まで俺に逆らう気かぁ?」


 お頭は側近の言葉に嚙みつく。


「いえ、そうではなく、もっと知的に奴らを攻めればいいんですよ。私に考えが……」

「ふんっ」


 お頭の怒りが多少は収まったのか、側近とともにその場を後にした。


◆◆◆◆◆◆


「それじゃ行ってくるね、暇だったら今日も聴いて」


 そう言ってハルカは電動バイクにまたがって拠点を後にした。


 フィーン


 静かな音を立てて電動バイクが離れていく。

 先日、ラジオ日本から調達した発電機によって家電の使用が可能になり、真っ先に考えたのが自転車売り場の隅で売られていたこの電動バイクだった。

 簡易水力発電ではバッテリーに充電できなかったが、インバーターが搭載されている発電機なら話は別だ。


「このバイクなら魔獣に会っても逃げ切れるだろうし、ひとりで大丈夫だよ! 本当に文明の利器ってすごいよね」


 そう言ってハルカはラジオを放送するために今ではひとりで通っている。

 電動バイクなら目的地まで20分ほどで着くし、効率も良くなった。


「よし、それじゃ俺も物資調達に出てくるよ。この電動バイク2号でね」

「あれ、ユウトって原付の免許持ってるの?」

「持ってないよ。でも運転の仕方はハルカに習ったから」


 そう言って拠点のことをみんなに任せて俺は外に出た。

 今日の目的は主に調味料だ。

 野菜や肉が手に入るようになった今、それを美味しく食べるための調味料は多く確保しておきたい。

 いずれはそれも栽培して手に入るようにしたいが、それはまだ先の話だ。


「調味料はお店狙いよりも、住宅街のほうが残ってそうだよなぁ」


 俺は多摩川を渡ると、登戸駅を過ぎて武蔵小杉方面へ向かう。

 確か住宅街がいろいろとあったはずだ。


 いくつかの住宅街を物色しながら回っていると、ふと目にしたボロボロの木造アパートで人の気配を強く感じた。

 もう何度目か、いつも人の気配はするが誰もいないということを繰り返しているため、俺は期待もせずに一応覗いてみる。

 しかしこの時だけは様子が違った。


「誰か、居ますかぁ?」


 ガタガタッ


 急に聞こえた物音に俺は思わず動きを止める。

 音がした場所は木造アパートの隣、廃墟と化したコンビニの中だ。

 入り口は魔獣に突っ込まれたのか、割れたガラスと崩れたコンクリートで中に入ることはできない。


 俺は警戒しながらがれきの隙間からコンビニの中を覗いてみた。

 崩れているのは入り口だけで中の空間は広い。

 それどころか物資の奪い合いが起こってないのか、棚にはいくつかの商品が陳列されていた。


「おお、これはお宝発見か?」

「なにがお宝なん?」


 がれきの隙間から突然こちらを見る二つの目が現れ、俺はのけ反った。


「おわぁ!」

「あ、ごめん」


 尻もちをついた俺を覗くように、角度のついた別の隙間からこちらを見ている。

 声の感じからして若い女性のようだ。


「え、えーと、こんにちは」


 俺は間抜けな挨拶をした。


「誰?」

「んー、説明に困るな。俺はユウト、この世界の生き残りの一人だよ」

「ふーん、なぁなぁ、なんか食べもん持ってへん?」

「え、食べ物?」


 どうやらお腹を空かせているようだ。

 コンビニの中に物資があるように見えたが、食べられるものはすでにないのかもしれない。


「食べ物あるよ。なんか作ってあげようか?」

「ほんまに? じゃあ裏側に回って。裏口のカギ開けとくし」


 俺はコンビニの側面を回って行くと、裏手に2台分ほど止められる狭い駐車スペースがあり、そばにあるドアからガチャリと音がした。


「こっちやって、はよ入りぃ」


 そう言って女性が顔を出した。

 美しい金髪を左右で分け、黒いリボンで結んでいる。

 いわゆるツインテールというやつだ。

 小顔で美しい顔立ち、背丈も150cmほどしかなく、小悪魔的という表現がしっくりくる様相だ。


「中、散らかってるけど勘弁な」

「お邪魔します……」


 なんとなくそう言ってコンビニの中に入った。


「なぁ、はよなんか食わせて、ガチでお腹空きすぎて無理や……」

「ああ、ちょっと待ってな」


 俺は異空間ポケットからフライパンとカセットコンロを取り出して火をつける。


「え、何の魔法なん!?」


 その子は目をまん丸くして驚いている。

 しかし俺が肉とキャベツを取り出すと、意識は完全に食材へ向いた。

 よだれが滴り落ち、今にも生肉にかぶりつきそうな勢いだ。


「すぐ出来るからちょっと待ってな」


 手早く肉をみじん切りにして小麦粉をまぶして練りこんでいく。

 球状に成型した肉に塩コショウをし、フライパンに投入。

 フライ返しで肉を押しつぶすように焼くと、ジュワ~と美味しそうな音と匂いが店内に充満する。


「ちょ、まじではよっ!ウチもう限界」

「もう少しだから」


 焼けた肉をキャベツの葉の上に乗せ、小麦粉を練った生地を焦げ目がつくまでフライパンで焼く。

 焼きあがった生地で肉を挟み、最後に日本酒、醤油、砂糖を熱して肉の上に掛ければ完成だ。


「はい、魔獣肉の和風バーガーだ」

「ぐるるるるぅ」


 お腹の音で返事が聞こえた。

 その子は大きな口でかぶりつくと、そのまま呆然と動きを止めた。

 信じられないという表情でハンバーガーを見つめる。


「うっそやん! なにこれウマすぎ……アンタまじ天才ちゃうん?」


 瞬く間にその子の手からハンバーガーが消えた。

 宙を見てうっとりとしている。

 半開きになった口、うるんだ瞳に妙な色気を感じてしまう。


「うん、小麦粉の生地が少し硬いが、いい風味を出してる。今度拠点でも出してみるか」


 俺もペロリと食べると、改めてこの子に向き直った。


「で、君の名前も教えてくれる?」

「ウチはジュエリや。珠に愛の里と書くんや。いい名前やろ?」

「奇麗な名前だね、で、どうしてここに……って何をしてるの?」


 ジュエリは唐突に俺のベルトをカチャカチャと外し始めた。

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