25 異世界との繋がり
な、なんだこれは……。
聞いたことのない単語が次々と表示された。
まるでSF映画に出てくるような言葉に面食らう俺。
「おうおう、どうした、ユウト殿」
「あ、いえ、ちょっとこの影が……」
俺は改めて詳細解析を試してみる。
ヴォイドゲート『次元の違う世界「ノクティルーカ」のクラディア断層地帯に繋がる重力歪曲点。つまり異世界に繋がるゲートです』
「異世界に繋がるゲート……」
「なに? 異世界!?」
絶句する俺の言葉を拾ったダリオが興奮する。
「この穴、異世界に繋がってんのか!」
「なんと珍妙な……」
ダリオとゼッドも黒い穴のようなものに手を伸ばしてみるが、空を切るばかりで何も起きない。
「まぁでもこれではっきりしたんじゃないか? 魔獣はこの穴を通って異世界からやってきたんだ」
「ふむ、この空間の裂け目にできたダンジョンは、異世界とこちらの世界を繋げるトンネルということでござるか」
なるほど、そう考えると合点がいく。
見たことのない生物が突然現れ、この世界を滅ぼしたことも、異世界が原因だった。
「まぁそれがわかったところで、やることは変わらんがな、ガハハ」
「その通り、全ての魔獣を亡き者にすること、それが我の切なる願い」
俺たちは他の魔獣がいないことを確認すると、ダンジョンを出た。
確かに事実が判明したとしても、それを変える力がなければ何も変わらない。
今後もなるべく美味しいものを食べ、なるべく快適に生活していけるよう工夫していくだけだ。
「よし、拠点に帰りましょう」
「さっきのキングバードも、もしかしたら食えたかもなぁ」
「む、拙者は焼き鳥が好物でござった」
くすっと笑って俺は振り返った。
「持ってきてますよ、一応。後で解体をお願いします」
「おお、ユウト殿、ナイス判断でござる」
キングバードも部位によって毒素があるようだが、解体次第で食用になると出ていた。
それに気になったのは肉よりもその羽根だった。
弾丸のような硬さを持つ羽根は、もうそれだけで武器になり得る。
「うおお、今日の夕飯も楽しみだな、おい!」
傾き始めた夕日に照らされたダリオが走りながらよだれを拭いた。
◆◆◆◆◆◆
「ショウコさん、こっちのキャベツはもう収穫できそうよ」
慣れた手つきで雑草を抜くサクラが、畑に水をやるショウコに声を掛けた。
この二人は本当によく働き、一時問題視していたミナの頑張り過ぎ問題も解消していた。
「あら、本当! それじゃいくつか収穫して頂けます?」
「お安い御用よ」
畑の面積も広がり、今ではトマト、キャベツ、かぼちゃ、にんじんなどがたわわに実っている。
拠点で生活する人間も増えたが、それを補って余りある収穫量に、みんなの心に余裕が生まれていた。
このままゆとりのある生活が続くと皆が思っていた。
最初にその違和感に気付いたのはサクラだった。
「あら、ショウコさん、ちょっと来てくれる?」
棒に巻き付いたトマトの蔓を見てサクラが言った。
「ねえこれ、なんか採り方がおかしくない?」
「あれ、ほんとだ。いつも収穫ははさみで丁寧に採るのに、なんか引きちぎられたみたい」
その蔓だけ他と違い、無理やりトマトがもぎ取られている。
よく見ると根元の土も乱暴に踏み抜かれたのか、畝が潰れていた。
このことはすぐに拠点メンバー全員に報告された。
「俺たちの中にこんな乱暴なことをする人間はいないよ」
「そうね、収穫量も最近は計算して無駄なく管理してるし……」
「セラも、やってない」
「ダリオ、あんたつまみ食いしてないだろうね?」
サクラの言葉に視線がダリオに集中する。
「おいおい、するわけないだろう? そんなことしてここを追い出されたら、美味いご飯が食えなくなるじゃないか」
「うむ、ダリオは既に飼い慣らされた猫のようでござる」
ゼッドの言葉にくすくすと笑いが漏れた。
「ってことは、外部の人間の仕業ってことよね」
「そうだな、もし他の生存者がいて我慢できずに採っていったんだとしたら、そこは目をつぶろうと思う。一言は欲しかったけどな」
俺はみんなの顔を見回した。
「でももうひとつ懸念があるんだよなぁ。ちょっと対策したほうがいいか」
「あそこの連中のことね」
ミナもため息をつく。
俺は畑への防犯対策について、考えていることをみんなに伝えた。
◆◆◆◆◆◆
「お頭、偵察部隊が帰ってきやした」
次の日、『クロイワ連合』は朝から騒がしかった。
「お頭の言っていた通り、多摩川沿いにあるショッピングモールに集落がありました!」
男が木造校舎の一室に入るや否や興奮してそう言った。
「しかもその集落、以前ここを追い出したアリサとミナがいましたぜ」
「なぁにぃ?」
お頭は眉を吊り上げた。
「ふん、野たれ死んだかと思ってたが……しぶとい奴らだ」
「でも見てくださいこれ」
そう言って男は真っ赤に輝くトマトをお頭に手渡す。
それを見たお頭の瞳孔が見る見るうちに開いていった。
「あいつら畑を耕してましたよ。トマト以外にもキャベツとかぼちゃを見ました。もしかしたら食事に困ってないのかもしれないですぜ」
「ぐぐ、小癪な奴らめ」
そう言ってトマトにかぶりついたお頭は、そのジューシーな甘みと酸味に天を仰いだ。
「美味いでしょ、私も帰り際に一つ食べましたがたまらない美味しさでした」
男が舌なめずりをする。
お頭は残りのトマトを口に放り込むと、溺れそうになりながら咀嚼した。
「ぜってえに許さねえ。ワシらが食うのに困ってるってのに、奴らだけこんな美味いものを独り占めしやがって」
お頭は机をバンッと叩いた。
その場にいた全員の背筋が伸びる。
「奪え」
「……は?」
「畑にあるもの全部奪ってこい。抵抗するなら殺しても構わん」
「わ、わかりました。奪取班を組んで遠征に行かせます。おい、お前ら、ちょっと集まれ」
円陣を組んで男どもが話し合う中、お頭は側近の男に言った。
「ふん、お手柄だったな。お前がラジオに気付いたのがきっかけだったからな。褒めてやる」
「き、恐縮です。まさかあいつら、ラジオまで流して自分らの拠点の宣伝をしてるなんて……馬鹿な連中ですね」
「まぁそれが最悪の結果に繋がるんだけどな、ダハハハ」
食料のあてができたお頭は上機嫌に笑った。