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22 魔獣ハンターの合流

「は? これを? 食べる?」


 二人はあんぐりと口を開けて驚いた。


「いやいや、こんな得体の知れない生物を食べたら、どんな悪影響があるか……最悪死にますぞ?」

「そうだぜ? いくら空腹でもさすがにこいつらを食う気にはなれねえな」

「適切な処理をすれば多分大丈夫ですよ。せっかくなんで、ちょっと試してみましょうよ」

「ゆ、ユウト殿は早死にするタイプでござるな……」


 俺は二人に協力してもらいながら、グレート・ボアを解体してもらう。

 こまめに詳細解析インフォスキャンをしながら毒素袋を取り除き、解体したブロック肉も『食用:可』になるまで何度も処理を繰り返した。


「え、え、何をしてるの?」


 トマトを持ったミナがこちらに気付いて声をかけてきた。


「こいつをね、食べてみようと思ってさ」

「うそでしょ? 本気?」

「俺の見立てでは食用にできるって出てるんだよね」


 少し意地悪そうな笑顔でミナを見ると、彼女は小躍りして喜んだ。


「やったぁ! ユウちゃんが言うなら大丈夫だね! 久しぶりにお肉が食べれるぅ!」

「な、なんと、ミナ殿は怖くはないでござるか?」

「へ? うん、ユウちゃんが言うなら間違いないもの」

「すげえ信頼度だな、おい!」


 ダリオにバシッと背中を叩かれた。

 解体作業は完了し、凄い量のブロック肉が山になっている。

 全て『食用:可』を確認したものだ。


「さぁ、焼くぞ?」


 俺は油を引いたフライパンに厚さ2cmほどに切った肉を投入した。

 どこか忘れていた、じゅわあぁぁぁぁっと肉の焼ける音と香ばしい香りが辺りに漂った。

 よく見ると近くにいた全員がだらしなく口を半開きにしている。


「さ、焼きあがったものから順に食べていきましょう」


 次々に皿に盛られるステーキ肉。

 念のため今回は良く火を通してウェルダンの状態にした。

 まず最初に恐る恐る口に入れたのはダリオだった。

 ゆっくりと咀嚼し、ごくんと喉を鳴らすと豪快に笑いだした。


「ガハハハ、マジか! こいつはうめえ!」


 それをきっかけに、みんな次々と肉を口に放り込む。


「ほんと、お肉の味をすっかり忘れていたわ」

「にく、うまい……」


 塩と醤油だけで味付けした簡素なステーキだったが、みんなには好評だった。

 グレート・ボアは見た目だけでなく、ほぼ猪と言ってもいいかもしれない。

 多少、独特の風味があるが、『肉を食べる』という感動の前では何ら気にならない。


「このトマト……切腹レベルの味でござる」


 ゼッドが涙を流して天を仰いでいる。

 肉の脂をさっぱり胃の奥に流し込むのに、トマトの酸味は見事な食べ合わせだった。


「このうどんもすげえな、どうやって作ったんだよ。こんなのいくらでも入るぜ」


 大盛にしたかけうどんがずるずるとダリオの口の中に消えていく。

 全員が大満足の朝食だった。


「いやぁ、満足だ。こんな美味い飯を食ったのは久しぶりだ。こりゃ恩を返していかないとな」

「うむ、拙者たちにできることがあれば、なんでも仰られるが良い」

「とりあえずあの壁、なんとかしてくれる?」

「ガハハハ、お安い御用だ」


 ミナの突っ込みに大笑いするダリオ。

 食休みしながら二人の境遇を聞いてみることにした。


「俺たちは魔獣を倒しながら日本各地を回っているんだよ。仙台から出発してもう1年か」

「え、仙台からここまで歩いてきたんですか!?」

「まぁいろんなところで休み休み来たからな、大したことじゃない」

「でも……どうして日本中を旅してきてるんですか?」


 ショウコの問いかけにダリオは横にいたゼッドを見た。

 ゼッドは目をつむったままじっとしている。

 ダリオは軽くため息をついて口を開いた。


「コイツとは家族ぐるみで長い付き合いなんだが……この騒動の折に嫁さんが魔獣の犠牲になってしまってな。自暴自棄になったコイツを止めてたらいつの間にか一緒に旅してたってわけだ」

「なにそれ、いみわかんない」

「まぁ大人にはそういうこともあるもんだ、お嬢ちゃん」


 セラの頬がぷくっと膨れる。

 その時、それまでじっとしていたゼッドが目を開いた。


「拙者は身内に手を掛けた魔獣とやらを絶対に許せぬ。一匹残らず駆除してやると決めたのだ」

「……と、そういうわけだ。コイツ一人じゃ無茶だからな、俺も付き合ってやってるんだよ」


 ガハハとダリオは笑った。

 なんて壮大な目標を立ててるんだ。

 その果てしなく硬派な生き様に惚れそうになる。


「道中、いくつか生存者のグループを見つけたぞ? まぁどこもスーパーや倉庫の食料に頼って生き延びてきたって感じだったがな」

「え、他に生きてる人っていたんですか!?」

「ああ、せいぜい20~30人ってとこだがな。だがここほど生活が地についているところはなかったな」

「うむ、残った食料を奪い合う醜いなれの果てだった」


 ゼッドがしみじみと言った。


「しかしここはすげえな、畑もそうだが飲み水もあるしトイレも使えるじゃねえか」

「へっへー、ラジオも聴けるんだよ。まぁ番組を作ってる本人はここにいるんだけど」


 ミナのウインクにハルカはサムズアップで返す。

 二人を気に入った俺は、意を決して誘ってみることにした。


「もし良かったら、しばらくここに滞在しませんか?」

「お、いいのか? こんな美味い飯が食えるならいつまででも居ていいんだが、なぁゼッド」

「うむ、我が目的は幾星霜を超えし果てに為すべき望み」

「ぷっ、カッコつけちゃって……本当はどうなの?」

「美味い飯には抗えぬ」


 わははとみんなの笑い声が響いた。

 こんなに愉快に笑ったのはいつぶりだろうか。

 文明が失われたこの世界で、ほんの少しだけ人間らしさを取り戻した気がした。

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