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11 家庭菜園と電気

「それじゃトマトにしようよ」


 家庭菜園コーナーで俺たちは種が並んだ棚の前にいた。

 とりあえず食べたいものを基準に選んだ感じだ。


「よし、じゃあ早速植えてみよー!」


 種の袋を持って走り出そうとするミナをアリサが止める。


「ちょっと待ってミナ、あなた栽培方法わかってる?」

「え? 土に植えて水をやれば生えてくるんじゃないの?」


 当然でしょ? と言わんばかりの返答だ。

 アリサは困ってこちらを見た。

 この表情だとアリサもやり方がわからないのだろう。

 もちろん俺も家庭菜園の知見はない。


「うねを作って40cmかんかくでまくといいよ」


 そう言ったのはセラだ。


「セラ、トマトの栽培方法を知ってるのか?」

「本にのってた。ほんとはポットで苗をつくるほうがいいんだけど、ここの変な土ならそのままでよさそう」

「ね、アタシの言ったとおりでしょ?」


 ミナは鼻高々だ。


「芽が出てきたら支柱にしばるから、長い棒もよういしておいたほうがいい」

「すごいなセラ、教えてくれてありがとうな」


 俺はセラの頭を撫でた。

 むふーとセラの鼻息が荒くなる。


「アリサ、セラとミナと一緒にトマトのほうをお願いしていいか?」

「うん、ユウトさんは行かないの?」

「ちょっとやりたいことがあってね、自転車売り場のあたりにいるよ」


 3人を見送った後、俺は自転車売り場へ移動した。

 昨日、自転車に乗った際に思いついたことを形にしようと思ったのだ。


 売り場にあったステンレス製の自転車を一つ確保すると、その前輪の前に座る。

 異空間ポケットから小型のブックエンドと結束バンドを複数取り出す。

 さっき本屋で見つけて『復元レストア』しておいたものだ。


「さて、工作するか。うまく取り付けられるかな」


 俺は自転車の前輪を少し浮かすと、小型ブックエンドをゴムタイヤに立てるような形で結束バンドで固定する。

 スポークの数だけ等間隔にブックエンドを8個ほど取り付けた。


「まるで耕運機みたいだな。泥の中でも走れそうだ」


 俺は泥除けカバーを外して前輪が回転することを確認すると、それを持って裏手の土手を登った。



「お、あそこが良さそうだな」


 一部川の流れが速い部分を見つけ、そこに行き前輪の下部分を川に沈める形で岩で固定する。


「よしよし!回ったぞ!」


 先ほど取り付けたブックエンドが羽の役割をし、前輪が勢いよく回り始めた。

 勘のいい人ならもうお分かりだろう。

 自転車には車輪の回転を受けて光るダイナモライトが付いている。

 しかしこの自転車についているのはUSBダイナモチャージャーだ。

 つまり……。


 俺は自転車のダイナモチャージャーにUSBケーブルを刺し、延長コードを繋げながら館内へ戻った。

 そして寝具売り場までコードを延ばすと、家電コーナーから拝借したLEDライトへ接続する。

 少し薄暗くなり始めた売り場に煌々とした明かりが灯った。


「あー!電気がついてる!」


 帰ってきた3人が手元のLEDライトを見て興奮している。


「え、なにそれ!どうやって付けたの!?」

「ちょっとした水力発電装置を作ってみたんだ」


 俺は自転車を使った一連の流れを説明した。


「すごい、そんなことができるんだ……」

「ライトの明かりってこんなに眩しかったのね、忘れてたかも」


 セラとアリサもうっとりと光を眺めている。


「こうやってLEDライトが付けられたけど、まだこれで終わりじゃないぜ。じゃーん!」


 俺は異空間ポケットからモバイルバッテリーを取り出した。

 これもさっき家電コーナーから拝借してきたやつだ。


「これを繋げばバッテリーに充電ができる。ということは……」

「と、いうことは……?」


 俺は最後にタブレットPCを取り出した。


「これも使えるようになるね」

「おおー、文明の利器だ!」


 ミナが大げさに驚く。


「まぁインターネットは使えないけどね。でもGPSは使えるし、マップも入ってるやつだから物資調達に役立つよ」

「すごい……」

「あ! 電気が使えるってことは、洗濯機も使えるの?」


 アリサが期待に満ちた目で俺を見た。


「あー、残念だけど家電はちょっと無理かな。でもいずれは動くようにしたいね」

「そっか、でも電気が使えるようになっただけでもすごいよ」


 そう言ってニッコリと笑った。


「明日はこれを使って少し周辺を探索してくるよ。何か見つかるかもしれないしね」


 俺には考えていることがあった。

 タブレットPCは物資調達にも役立つが、マップを更新していくことでこの世界の新しい地図を作っておきたかった。


 もしかしたらクロイワ連合以外に生存者の集落があるかもしれないし、ダンジョンの位置を把握することで、この世界に何が起きたのか解明する一助になるかもしれない。

 いつの時代も情報の蓄積は重要だ。


「ライトがあるなら夜更かしし放題じゃん、どんどん暮らしが快適になっていくね」

「ミナはちょっと働きすぎよ。暗くなったら寝るくらいでちょうどいいのよ」

「えー、だって毎日楽しいんだもん」

「わたしは、暗くなっても本が読みたい……」


 LEDライトは思いのほか需要がありそうだ。

 この日、俺たちはライトの下でおしゃべりをしながら、久しぶりの夜更かしを楽しんだ。


◆◆◆◆◆◆


 その日の夜、クロイワ連合にはちょっとしたトラブルが起こっていた。


「おい、そっちに行ったぞ!」

「くそ、ふざけやがって!絶対に逃がすんじゃねえぞ!」


 過酷な環境、理不尽な強制労働に嫌気が差した住人が、暗闇に乗じて集落を脱出したのだ。

 しかも食糧庫から持てるだけの物資を奪って。


「ダメですお頭、暗くて探せません」

「探せないじゃねえ、見つけてくるんだよ! テメエも俺に逆らう気かぁ?」

「い、いえ……」


 クロイワ連合は少しずつ崩壊への道を歩み始めていた。


◆◆◆◆◆◆


「えええ、すごい生えてる!ちょっと、みんな来て!」


 早朝、外から叫ぶミナの声で起こされた。

 昨日はいつもより夜更かししたっていうのに、ホント元気なやつだ。


「はやくはやく!」


 ミナは寝ぼけてふらふらのセラを引っ張って建物を出ていく。

 俺とアリサも大きく伸びをすると、その後を追った。


「なんじゃこりゃ!」

「ね、ね、凄いでしょ?」


 昨日植えたばかりのトマトの畝にはもっさりと蔓が土を覆い隠していた。

 それぞれの蔓は20cm以上あるだろうか。


「支柱が必要なんだよね、長い棒探さないと! あ、あと水あげなきゃ!」

「ミナ、ちょっと落ち着いて。棒は私が探してくるから、水やりはお願い。セラちゃん、支柱の作り方を後で教えてくれるかな?」

「うん、よゆう」


 テキパキと指示を出すアリサ。

 こういうリーダーシップは頼もしい。


「確か家庭菜園コーナーに支柱用の細いポールがあったな、俺も一緒に行くよ」


 やはり土に何か成長を促進する要素があるのは確かだ。

 これはダンジョンを調べる価値がますます上がったな。

 俺はそう思いながらアリサの背中を追った。

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