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10 セラの合流

「え、この子が物資? ヤバくない?」

「おい、誰も物資なんて言ってないだろ?」

「あはは、冗談よ」


 少女を拠点に連れ帰ると、ミナは予想通りの反応を見せた。

 物資調達に行って少女を捕まえてくれば誰でもそう突っ込みたくなるだろう。


「この子のこと、頼んでいいかな」


 俺はアリサに言った。

 アリサはすぐに察すると、少女に話しかけた。


「あなたのお名前はなんていうの?」

「……セラ」

「セラちゃんね、ちょっとお姉さんといいとこに行こうか」

「え、いいとこ? 本屋?」

「本屋は後でね。すごく気持ちよくてさっぱりするところよ」


 そう言ってアリサは笑みを浮かべながらセラを連れて行った。


「ミナ、ちょっと手伝ってくれる?」

「ほいきた!なんでも任せて!」


 3人はリフォームコーナーへ消えていった。

 まずはお風呂でさっぱりしてくれるといいんだが。


「さて、その間に俺はご飯でも作ろうかな」


 俺は異空間ポケットからインスタント麺の5個入りパックを取り出した。

 お湯を沸かして麵を全部茹でるのと同時にフリーズドライのキャベツとねぎ、乾燥わかめを戻しておく。

 茹で上がった麺のお湯をしっかり切り、フライパンに乗せ軽く焼き色が付くまで焼いた後にキャベツとねぎを投入。

 そして賞味期限ぎりぎりの中農ソースをたっぷりかけて混ぜ合わせる。


「さらにもう一品……」


 茹でるのに使ったお湯にわかめとコーン缶を開けて入れ、インスタント麺のスープの素を投入。

 卵があれば絶品なんだが、贅沢は言ってられない。


「これで完成、今日は野菜たっぷり焼きそばとわかめとコーンの中華スープだ」

「わ、なんかいい匂い!」


 作り終えたのと同時に3人が戻ってきた。

 セラは薄汚れたセーラー服から緑色の子供用ワンピースに着替えている。

 ボサボサだった髪もきれいに整えられ、育ちのいいお嬢様のような風貌になっていた。

 相変わらず手には百科事典を持っていたが。


「ちょうどいい服が合ってよかった。子供用の服ってあまり種類がないから」


 そう言うミナの服装も昨日と違うことに気付いた。

 よく見ればアリサもだ。


「あれ、みんな着替えた? 昨日と服装が変わってる気がする」

「ちょっと、今更気づいたの? この服、可愛くない?」


 そう言ってミナはくるっとその場で回転をした。

 白いTシャツにジーンズ柄のトップスとショートパンツで元気なイメージを感じさせる。

 アリサは白と青のボータートップスにベージュのワイドパンツで清楚な雰囲気だ。


「服だけでずいぶんイメージが変わるもんだなぁ」

「ユウトくんもあとで服を見に行こうよ、選んであげるから」

「そうだな、その時はお願いするよ。まずはご飯を食べよう」


 俺たちは焼きそばと中華スープを存分に味わった。

 勢いよく食べるミナとは対照的に、ソースが飛ばないようゆっくり食べるアリサ。

 セラもスピードは遅いが一心不乱に食べている。

 5人前作ったはずだが、あっという間に完食だ。


「ねぇ、昨日のおかし、たべたい」


 セラが俺の服の裾を引っ張っていった。


「ああ、カロリービスケットか」

「え、なにそれ、アタシも食べたいんですけど!」

「私も……」


 一斉に視線を注がれた俺は戸惑いながらも笑いをこらえきれなかった。

 異空間ポケットから10枚入りのカロリービスケットを出して3枚ずつ配る。


「カロリービスケットはこれが最後だからな、味わって食べたほうがいいぞ」


 そう言って残りの1枚を口に入れた。

 適度な塩味と甘味がサクサクと口の中で解れる。

 3人も遠慮なく口に入れた。

 アリサは上品に食べ、ミナはほっぺを抑えて満足そうだ。

 セラは少しずつかじりながら口に入れていく……まるでウサギだな。


 食事後、ミナにセラを本屋に案内してもらい、残った俺とアリサで後片付けをしていた。

 そこで現在の状況などをアリサと報告しあう。


「とりあえず飲料水は昨日1日でペットボトル15本分ほど用意できたわ。あと洗濯はミナが率先してやってくれてるから」

「生活の基盤ができ始めたかな、ありがとう、助かるよ」

「ちょっと石鹸が少なくなってきたかも。増やせる?」

「了解、あとで追加しとくよ。こっちは最初に貯めた食料の残りがあと1ヶ月分くらいかな。セラも来たことだし、また物資調達にいかないと」

「大変な役割を押し付けちゃってごめんね」


 お皿を洗いながらアリサは頭を垂れた。


「あとセラと出会った調布駅付近でダンジョンを見つけたよ。近いうちに調べてみるかも」

「え、大丈夫なの?」

「魔獣の数も少なかったし……まぁちゃんと準備ができてから、だけどね」

「気を付けてね。あ、あともう一つ報告したいことが……」


 後片付けが終わった俺たちは駐車場の一角に移動した。

 建物の角を曲がると、そこには洗ったばかりの服が洗濯紐に引っかかって干されていた。

 白いレースのついたものもひらひらと踊っている。


「あ、そっちはあんまり見ないでね。問題はこっち」


 アリサが俺の首をぎゅうっと捻った。

 視線の先は、壁際のむき出しになった土に高さ20cmほどの雑草が広がっている。


「実は昨日、この辺の雑草を全部抜いておいたの。でももう新しい雑草がこんなに……」


 数m先には背丈を超えるほどの草が生えているため、抜いていた範囲がはっきりとわかる。


「1日で雑草ってこんなに生えるものなの?」

「いや、さすがに聞いたことないな。雑草の成長ってどのくらいなんだろう」

「この草はエノコログサ、ふつうはこの大きさになるまで1ヶ月くらいかかる」


 振り返るとそこにはセラとミナがいた。

 手には新しい本が握られてご満悦そうだ。


「セラちゃん、この草のこと知ってるの?」

「エノコログサはねこじゃらしとして有名。でも1日でこんなに成長してるのは見たことない」


 そう言ってわきに抱えていた『こども百科事典』をペラペラとめくり、こちらに差し出した。

 そこに載っている成長度合いの写真と見比べても、目の前のエノコログサは明らかに大きい。

 異常成長と言ってもいいだろう。


「1日でこれってすごくない? 家庭菜園でもやればすぐ芽が出るのかな」


 ミナの一言に全員がハッとした。

 一斉にミナに注目が集まる。


「え、え、なに?」

「これは試す価値がありそうだぞ。ミナちゃん、ナイス!」

「確かホームセンターに家庭菜園コーナーがあったわ。そこに種とか残ってないかしら」

「あ、アタシ見てくる!」


 ピューっとあっという間に走り去るミナ。

 考えてみれば、これまで街中にはアスファルトの形を変えるほどの草木が生えていたが、人類の滅亡から2年でこれはありえないだろう。

 何らかの力が働いているとしか思えない。


 例えば、ダンジョンから何か異質な『魔素』のような物質が漏れ出ていて、それが植物の成長に影響を与えているとか。

 まぁラノベ脳の俺にはそんな想像が限界だが。


「いろいろありそうだよ!手伝ってー!」


 施設の入り口から顔を出したミナがこっちに向かって大声をあげている。

 俺たちは足早にミナのもとへ向かった。

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