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玄関開けたら異世界だった件

作者: 丸太塔

ちょっとコミカルな異世界転移モノを書いてみました。

朝、目覚ましの音で目を覚ました私は、布団の中で伸びをした。

ぼんやりした頭で時計を見る。

いつも通りの時間、いつも通りの朝。


「……今日も学校か」


軽くため息をつきつつ、制服に着替え、洗面所へ向かう。

鏡に映る自分の顔を見て、髪を整える。

リビングへ行くと、母が朝食を準備していた。

私はトーストをかじり、テーブルのお弁当を鞄にしまい、肩に掛けた。


「いってきまーす!」


玄関で靴を履き、ドアノブに手をかける。

何の気なしに扉を開いた、その瞬間——


目の前には見知らぬ街並みが広がっていた!


石畳の道、行き交うローブ姿の人々。

その中心には、巨大な城が鎮座している。

道端には馬車が止まり、馬が鼻を鳴らしながらたてがみを揺らしていた。


「……は?」


私は思わず目をこすった。

しかし、風景は変わらない。

確実に、ここは私の知っている世界ではなかった。


「またか……」


近くにいた中年の男性が、ため息混じりにつぶやく。


「おーい、誰か来たぞ!今度は女子高生か?」

「今年に入って何人目だ?」

「四人目だな」


周囲の人々が、私を見てそんなことを言い始める。

驚いているのは私だけで、彼らにとっては日常茶飯事らしい。


「あの、ここは?」

「異世界だよ」


ローブを着た老人が、まるで天気の話でもするようにさらりと答えた。


「異世界!?え、なんで!? 私、玄関から出ただけなのに!」

「そういうものなんだよ」

「そんなの、説明になってません!」


パニックになりかけた私だったが、周囲の落ち着いた態度に引っ張られ、かえって冷静になってしまった。


「それより、お前も王宮に連れて行かれるぞ」

「王宮?」


そう言った瞬間、鎧を着た兵士たちがやってきた。


「新しく来た者だな?」

「えっ、ちょ、待って——」


私は半ば強引に兵士たちに連行され、王宮へ向かうことになった。


王宮は西洋風の造りで、大理石の床には繊細な紋様が刻まれ、天井からはシャンデリアが輝いていた。

広々とした謁見の間へと案内されると、そこには豪華な刺繍が施された衣装をまとった貴族たちが並び、中央には立派な玉座に座る国王の姿があった。


「ふむ、新たに来た者か」


国王は立派な髭を撫でながら、私をじろりと見た。


「名は?」

「……小林由香、です」

「小林由香か。おそらく、お前も『あちら』の世界から来たのだな」

「あちら、って……日本のことですか?」

「そうだ」

「えっ、日本のこと知ってるんですか!?」


私が驚くと、国王も貴族たちも苦笑する。


「当然だ。なにしろ——」


「我々も、かつて玄関を開けたらこの世界に来てしまったのだから」


「え?」


私の頭が真っ白になる。


「ま、待ってください! じゃあ、ここにいる皆さんは?」

「元は日本人だったのだ」


貴族の一人が淡々と言った。


「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください!」


私は慌てて周囲を見回す。

確かに彼らは異世界の衣装を身に着けているが、顔立ちは日本人に近い気がする。


「嘘……」

「私もな、昔は東京でサラリーマンをしていたんだ」


そう言ったのは、髭を生やした中年の貴族だった。


「私もだ。当時大学生だったが、ある朝、玄関を開けたらこの世界だった」

「私もコンビニのバイト帰りに玄関を開けたら、ここだったよ」


次々と語られる衝撃の事実。


「そんな……! えっ、じゃあ、日本に帰る方法は?」


私の問いに、王宮の人々は一斉に視線を逸らした。


「ない」

「え?」

「帰る方法は、見つかっていない」

「そ、そんな!」


急に膝の力が抜け、私はその場に崩れ落ちた。


「しかし、安心しろ」


国王が私を見つめ、にっこりと笑う。


「この世界には、すでに日本の文化が根付いている」


その言葉を合図に、執事らしき男が部屋に入ってきた。


そして、私の目の前に、()()()()が運ばれてきた。


「えっ!?カップラーメン?」

「そうだ。インスタント食品は長年の研究によって再現された」

「じゃあ、この液体は?」

「炭酸飲料だ」

「それにこの本。 あっ、『週刊少年なろう』!? それにゲーム機まで!」


私は目の前の光景に混乱した。

テーブルには日本の食品、雑誌、ゲーム機まで置かれている。


「な、なんでこんなものが」

「この世界に来た者たちが、記憶を頼りに再現したのだよ」

「寿司、ラーメン、ポテトチップス、アニメ、漫画、ゲーム——ほぼすべてがこの世界で再現されている」


私は唖然とした。


「つまり、ここって、異世界だけど、限りなく日本に近い世界になってるってこと?」

「その通り」


国王がうなずく。


「そして、お前も今日からこの世界の住人だ」

「……」


私はしばらく沈黙した後、ため息をついた。


「……カップラーメンの味、ちゃんと再現されてます?」

「完璧だ」


私はカップラーメンをじっと見つめ、ゆっくりとうなずいた。


「なら、まあ、いいか」


こうして、私は、異世界で暮らすことになった。

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