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-4- プランダー・ラブ

 ◆ ◆ ◆


「――ぃよっしゃああ!」


 とある王国の騎士団宿舎内で女の奇声が上がった。

 隣室の騎士は何事かと身構えたが、そんな事は知らない声の主は手元の手紙の内容に目を通しながらニヤニヤとだらしない笑みを浮かべる。


「ふへへ……っ。まさに理想的な展開じゃ~ん! 続編のダリルだったら、絶対、ミランダちゃんを大事にしてくれると思ってたんだよね~! 計、画、通、り!」


 男臭い騎士団の宿舎の一室で唯一、内鍵が閉められるようになっている部屋の中で、無防備にも肌着と下着一枚の姿でベッドの上で寝転がる女は、かつてペリンジー・リベ王国で聖女と呼ばれていた。


 その名も――アイリス。

 

「まぁ、無印のプランダーラブと違って、主人公が略奪される側になっちゃうけど、ミランダちゃんなら大丈夫でしょっ。何より、ダリルは超一途なキャラで有名だし、絶対ミランダちゃんを溺愛してくれる! アレクシスのゲス野郎とは違うのよ!」


 そう言ってアイリスは「ふはは!」と大御所悪役のような笑い声を上げた。

 ペリンジー・リベで見せていた華奢で庇護欲を掻き立てられる男爵令嬢はどこにもいない。

 ここにいるのは前世の記憶を活かし、好きな乙女ゲームの推しキャラを幸せに導いた結果にほくそ笑む転生者だけである。

 転生前の名前は既に忘れた。今はフレッチの名すら捨て、ただのアイリスとして隣国の王国騎士団に勤める聖魔法士だ。

 ペリンジー・リベの国庫を揺るがした共犯で国を追われる身となり、隣国で聖魔法の才能を活かして魔法士として暮らしているのだ。

 国庫を揺るがした張本人である第一王子のアレクシスは廃位となり、また別の国に追放されたらしい。

 これこそがアイリスが望んだ現実であった。


「ゲームとしてするならまだしも、現実で略奪愛が真実の愛です~……なんて、普通の神経してたら耐えられないもん。私の不幸はプランダーラブの主人公に転生しちゃったってところよ。無事に追放エンド迎えられたのが不幸中の幸いね~」


 ベッドでうつ伏せになり、足をぱたぱたとさせながら、アイリスは同僚から貰ったイカゲソの乾燥焼きをしゃぶった。じわりと口の中に広がるイカの味が、アイリスの達成感をより強いものにする。


「ふひひっ。悪役令嬢追放エンドを最高の形に捻じ曲げる為に、一年掛けた甲斐があったってもんよね~。ミランダちゃんの目を覚まさせるのが大変だったなぁ。でも、今はこうして手紙のやり取りしてくれるくらい、気を許してくれてるもんね~! ん~、ちゅっ!」


 喜びを表現するためにミランダからの手紙にイカゲソを咥えたままの口でキスをするアイリス。その姿はとてもじゃないが、元男爵令嬢とは思えないほどのだらしなさだ。

 婚約者であるミランダ・バランを裏切り、アイリス・フレッチと言う女にうつつを抜かしていたアレクシス・ペリンジーの失態の数々の情報を横流ししていたのは、他ならぬアイリス本人だ。


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