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第99話

 2ヶ月近く留守にしていたポロの街だが、街に戻ったら何も変わっていなかった。当たり前の話だけど。カオリやユキは知り合いから旅行どうだった?なんて聞かれたらしいけど俺は誰からも聞かれていない。慣れているとは言え少しだけ寂しくもある。


 元々友人と呼べる人たちを持ったことがない俺にとって気を許せるのは一緒に住んでいるお姉さん2人だけだ。それで十分だよと思っている自分がいる。負け惜しみとかじゃないぞ。事実を言っているだけだ。


 2日程休養をした俺たちはポロでの冒険者活動を再開した。今まで通り、師匠の洞窟から森の奥の狩り場でゴールドランクの魔獣を倒して魔石を手に入れて街に戻って換金してお金を稼ぐ生活をする。冒険者と呼ばれる職業の人たちが毎日やていることだよ。


 狩りの初日は久しぶりというか長いブランクがあったのでちょっとだけ緊張したけど、森に入って最初の魔獣を倒したら落ち着いたよ。魔獣を倒して気持ちが落ち着くなんて自分も成長したもんだ。


 1週間程経つと以前のポロでの活動のペースが戻ってきた。もちろん俺たちは移動に転移魔法は使わないし、自宅の庭で浮いたり精霊を召喚したりしない。ポロにいる間、これらの魔法は師匠の洞窟の奥にある第二拠点の洞窟の中で鍛錬を続けている。


 この日も師匠の洞窟経由で第二拠点にやってきた。途中でゴールドランクの魔獣を倒して魔石を取り出しながら夕刻に拠点に着くとそこで野営をする。


「ここは本当に良い場所ね」

 

「そうそう。ユイチが見つけてくれたんだよね」


「偶然だったけどね。でもいい場所だよ」


 夕食を摂りながらそんな話をしている俺たち。この洞窟、第二拠点を見つけた時、こちらの方が見つかり難いので師匠の亡骸や木箱など全てをこっちに移動して洞窟の奥にお墓を作ろうかという話が出たんだけど、結局あのままにしている。亡骸もそのままだ。


 俺達の様にこれから先、再び日本から異世界に飛ばされてくる人がいるかもしれない。確率は低いけどゼロじゃない。となるとあまりに目立たない場所だと見つけられない。亡骸や木箱についてもそのままにして置いたほうがいいだろうということになったという経緯がある。3人の間ではお墓だけでも作ろうかという話もしたんだけど、結局全てあのままの状態で置いておくことにした。なんとなく師匠の亡骸には触れてはいけない気がしているんだよ。あの人が決めた場所、俺たちにとっては神聖な場所だ。亡骸には手を触れていないがその近くに小さな献花台を作って設置した。その台の下の棚には水晶やお金の入っている魔法袋、そして師匠の遺言を置いている。


 定期的に花を供えてお祈りは欠かさない。もちろん師匠からお借りしたお金や魔法袋はとっくにお返ししているよ。



 第二洞窟の中では個人鍛錬が基本だ。カオリは魔法剣を発動させては消し、また発動させて素振りをしている。俺は浮いたり、浮いたまま移動したりしていた。ユキは精霊を召喚しては戻していた。


 そうやって各自が鍛錬をしていると、ユキが新しい精霊を召喚するのに成功する。ユキの隣に突然薄い緑色の精霊が浮かび上がった。俺もカオリもびっくりして自分の鍛錬を止めてユキを見る。


「出た!風の精霊さんよ」


「風か」


「なんか可愛いわね」


 そう、可愛いんだよ。身長は80センチくらいかな。全身が薄い緑色の衣装に包まれている少女で地面から少しだけ浮いている。土の精霊のレムとは違って思わず頭を撫で撫でしたくなるよ。レムにはそうしたいとは全然思わないけど。


「呼び出して分かったわ。彼女は攻撃的な魔法じゃなくて風の魔法で私たちの素早さをあげてくれるみたい」


「素早さを上げる?」


「お願い」


 ユキが言うと少女はその場でクルッと一回りした。


「ユイチ、ここで走ってみて」


 走る?


「分かった」


 とりあえず洞窟の周囲に沿って走るかと駆け出すとびっくりした。


「うぉっ、速っ、なんだこれ?」


 軽く駆けているつもりだがスピードが速い。カオリが私もやってみると言って駆け出すとそっちも同じだ。


「移動速度アップなんだ。これは使えるわよ」


 確かに。移動が早くなるのはもちろん、戦闘中も今までよりもずっと素早く動けて敵の攻撃を避けることができるとカオリが走りながら言っている。いや、立ち止まって言えばいいじゃないの?と思うが口にはしないのが俺だ。


 軽く駆けている間にユキが時間を測っていてくれた。5分間有効みたいだ。5分って結構長いよな。しかもレムと違って呼び出して魔法を駆けたあとに精霊を戻しても効果が持続する。サクラの強化魔法は15分でこっちは5分だけど問題ないね。


「ユキ、やったじゃない」


「ありがと。攻撃魔法よりも支援魔法の方が自分に合っていて呼び出しやすいかなって思ってさ、色々試していたのよ。ここで早く走りたいからお手伝いしてってイメージしたらこの子が出てきたの」


 火だるまの男やバチバチと雷音をさせる精霊はどう考えても攻撃系の魔法だよな。いや火だるま、バチバチと決まった訳じゃないけどさ。


 ユキが僧侶ということもあるんだろう。回復、強化、支援系の精霊が呼びやすいんだろうな。レムも基本は自分たちを守る精霊だろうし。


 そうなると俺は逆に攻撃系の魔法を使う精霊を呼び出すことができるのかもしれない。ナッシュ先生の話もあって召喚魔法は僧侶がいいと言われ、それを頭から信じて召喚魔法の鍛錬をサボっていたけどこれはもう一度しっかり鍛錬した方が良さそうだ。ナッシュ先生だって自分が召喚魔法を会得している訳じゃない。あくまで彼の予想、推測に過ぎない。今更ながらそれに気がついたよ。


 ユキが3体目の精霊を召喚した。この子の名前をどうするのか決めないといけない。クリエーターのセンスがない俺は困ったなと思っているとユキが言った。


「この子の名前なんだけどさ。リーズってどう?そよ風って英語でブリーズって言うじゃない。そこから取ったの」


「いいわね。可愛い名前じゃない、呼び出した精霊さんにぴったりよ」


 カオリが即同意した。もちろん俺もだよ。英語から取るなんて発想は俺には全くないからな。それになによりリーズはいい名前だよ。


 ユキが風の精霊を召喚させると、その場にしゃがみ込んで少女と同じ目線になる。


「貴女の名前はリーズ。風の精霊さんのリズよ」


 そう言うと嬉しいのかその場でくるくると回ってくれる。回ると肩まである薄緑の髪が広がってそれがまた可愛いんだよ。


「ユキ、よかったじゃない」


「ありがと」


 リズを戻してから俺たちは洞窟の中で腰を下ろして話をする。強化と盾、そして支援系の精霊を召喚できた。精霊の種類は光、土、風だ。


「あと、あるとすればだけど火、水、雷、氷、そして闇くらい? 次は何を呼ぶ鍛錬をしようかしら」


「それだけどさ」


 ユキの言葉に俺はそう言ってから自分が考えていたことを2人に話す。ユキは支援系の精霊の召喚が得意となると俺は攻撃系の精霊を召喚しやすいんじゃないかって。そう言うと2人がなるほどね。と言ってくれた。賛同してもらってよかったよ。


 その後の話で俺は水の精霊を召喚する鍛錬をすることになった。火や雷に比べたら水びたしの方が火だるまや雷直撃よりもマシでしょ?という単純な理由だ。


 ユキは当面この3つの精霊との緊密度を上げる鍛錬をするという。


「ユイチ、今まで召喚魔法の鍛錬をサボってたでしょ?頑張ってね」


「はい!わかりました」


 カオリお姉さんの言葉に条件反射で答えました。いや、全くその通りです。


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