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第98話

 東の端から山奥の街に戻って3週間が過ぎた。魔法関連で言うと幹部達を除いて100メートルを20往復転移できる住民はまだいないが、15往復できる人が出てきた。他の人たちも10往復はできる様になっている。転移の魔法の指導を始めた時に2往復くらいしかできなかった人たちも魔力が増え、同時に魔法のロスが減ったのかメキメキと距離を伸ばしてくる。


 収納魔法についても今や全員が木箱を7箱以上収納できるまでになっていた。こうして結果が目に見えるとモチベーションが保たれるのかこれまで以上に熱心に鍛錬をしてくれる。


 カオリは3日ほど前からグランドの隅に藁で作った大きな人形を立てて、そこに槍を突き出す訓練を指導している。槍なので頭にも届くし、胸や腹にも届く。槍を持っている住民が交代で藁人形に槍を突き刺し、そして素早く抜く訓練を続けている。


 とにかく皆真面目で熱心に取り組んでくれるんだよ。予想していた伸び方よりもずっと早い。


 俺たちは相談して一度ポロの街に戻ることにする。当面今の鍛錬を続けて魔力量を増やして魔法に慣れる必要がある。その間特に指導することがない。


 本館の会議室でいつものメンバーを前にして俺たちはこれからのスケジュールについて相談する。


「一旦戻ろうかと思っています。次は2ヶ月か3ヶ月後に来ます。それまでは今の鍛錬を続けてください。3ヶ月後の時点で魔力量を見て次のステップに移動します」


 次のステップとは槍組は実際に街の外で魔獣を倒してもらうということだ。実戦でやりを使って魔獣を倒す経験をしてもらう。槍を使って魔獣を倒すと言うことを経験し、魔力量が増えたところで魔法槍の指導をする予定だとカオリが言っている。


「もちろん、その実戦には私たちも同行しまう。実戦でどこまで通じるか見てみたいのです。魔獣を倒し、魔石を取り出す、ここまでやってもらうつもりです」


「なるほど。魔獣相手に訓練をするということだな。魔法組はどうするつもりかの?」


 カオリの話を聞いていたサーラ長老が言った。


「転移が4Km以上になること、浮遊魔法で5メートル浮いて10メートル移動する。この2つが出来るまでは今のままですね。その後についてはご相談があります」


 ユキが言うと相談?と聞き返してきた長老。


「ユイチ、お願い」


 ユキが俺に振ってきた。


「はい。以前言いましたがこの街の人はジョブという概念がありません。ありませんが自分の中で攻撃魔法が得意というか好きな人と、逆に回復魔法が好きな人がいると思うので住民の皆さんの希望で攻撃魔法組と回復魔法組とに分けて異なった訓練をしようと思っています。具体的には攻撃魔法組は精霊魔法の威力アップ。回復魔法組は回復魔法の威力アップと召喚魔法の習得です。全員が全ての魔法を覚えるよりもある程度専門化した方が良いんじゃないかと思っているんです」


 ジョブというものがない時点で専門特化はできないんだけど、好きな魔法を使う方が魔法に対するストレスがないんじゃないかと話し合っていた。


 魔法と一括りにしているけど、魔法を使う側から見れば精霊魔法が好きな人もいれば回復、強化魔法が好きな人もいるだろう。自分が好きな魔法なら鍛錬にも力が入るんじゃないかなという考え方だ。


 精霊魔法組では精霊魔法の訓練を続けて攻撃力をアップさせることで街の外での魔獣の討伐が楽になる。いずれは槍組と一緒に行動することで効率的に敵を倒し今まで以上の数の魔石を手にいれることができる様になる。


 一方、回復魔法組では精霊魔法を覚えることで精霊を呼び出して使役させるまで指導する。光の精霊はもちろんだが、土の精霊を呼び出すことができれば農作業や家や柵の修理など街の維持強化のために精霊を使役できる。精霊組、回復組、どちらもこの街にメリットがあるだろう。


 召喚魔法については回復魔法組と言っているが、攻撃魔法組の人の中で希望者がいれば一緒に鍛錬をすればいい。ジョブという概念がないからそれが可能だ。


 魔力量が多くなることでマミナの街への移動時間が短縮でき、精霊魔法や槍で多くの魔獣を倒すことで魔石を沢山手に入れ、より多くの物資を調達し、増えた収納に沢山物資を入れて持ち帰ることができる。精霊を召喚すれば生活水準を上げることができる。狩りの時も槍と魔法と回復とそれぞれの役割を決めて動けば効率があがるのは間違いない。


「なるほど。確かにお前さん達の言う通りだの」


「ただ何度も言っていますが全ての基本は魔力量です。ここがしっかり増えていないと全てが中途半端になります。今から2、3ヶ月の間にしっかりと基礎訓練を続けてもらうというのが前提条件になりますね」


 ユキが言うとそこは蔑ろにしてはいけないとサーラ長老も言ってくれた。実際魔力量が増えているのを実感しているから大丈夫だとは思うけど。


「住民の人たちがどう考えているのかを知りたいのです。全般的に満遍なく魔法を覚えたいというのであれば、今まで通りの鍛錬を続けていきます」


 次に山奥の街に来るまでの間に決めてくれればいい。今やっている鍛錬は精霊魔法、回復魔法に関係なくやらなければならない、やった方が良い鍛錬だからな。


 俺たちがしばらく自分たちの街に戻ること、魔法組を2つに分ける件については長老から住民に説明することになった。


「あんた達には世話になりっぱなしじゃの」


「気にされずに。ご縁があったということですよ」


「あんた達がそう言ってくれるとこっちも救われるよ」


 詳しい話をするとこっちの素性を疑われるかもしれない。縁ということでサラッと流すカオリの言葉を聞いている俺。こんな対応は俺は一生できないだろうな。


 俺たちはせっかく覚えた新しい魔法を存在していないことにしなければならないという事について、頭では理解はしているものの、モヤモヤとしたものを感じていた。


 そんな中、偶然にもその魔法について理解がある人たちに出会った。彼らは時空魔法はもちろん、召喚魔法や魔法剣を代々継承していくだろう。山奥の街の中だけの伝承になるかもしれないが、それでも俺たちだけで終わると思っていた魔法が代々伝えられていくと言うことが分かった今、自分たちが知っている知識を全て教えるのは当然だよ。


 街の人たちには2ヶ月か3ヶ月後にまた来ますと挨拶をして山奥の街からポロの街に戻っていった。


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