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第94話

 念願のというか、ようやく山の東に向かうことになった。途中下車したけど本来の目的はポロから山を越えて東に行ってみようぜ!だ。やっとその時がやってきたよ。


 この街から東の山の端までの距離は、推定になるが200Km程。これはこの街の人から聞いた転移の日数から予想した距離で、200Kmだとすると、ポロからこの街への距離よりも少し遠くなる。


 実際に自分たちで移動すれば正確な距離が分かるが、とりあえず今は200Kmという事にして野営の準備を進める事にした。とは言ってもほとんど収納に入っているので装備の確認だ。


「確認よ。東の山の先、街か海が見える場所まで来たらそこから先には進まない。あちらの人には絶対に見つからない様にしましょう」

 

 リビングのソファに座っている俺達。カオリが今言った通り影からコソコソと山の端から東方面を見て帰ってくる。目立つ事はしないし、余計な事はもちろんしない。じゃあ行くなよって言われるかもしれないけどさ、やっぱ東がどうなっているのかは見てみたいんだよ。それともう一つ、東に行く事でこの大陸の東西の広さが分かる。つまりこの山奥の街がある場所、大陸のどのあたりなのかが分かるということだ。俺は大陸の地図を作ってこの街にも渡すつもりだよ。



 3人で東に行くと言った時、サーラ長老は許可をしてくれると同時に俺たちに話をしてくれた。


 自分達の先祖達が命からがらこの山奥に逃げてから時が過ぎていることもあって、今東の国に住んでいる住民達は時空魔法の存在を知らないものがほとんどだと言う。


「我々が存在していたという過去を抹消したんだ。我々の先祖が逃げてからしばらくすると、訳がわからない魔法を使う連中なんて最初から存在していなかったことにしようとした」


 自分たちが逃げ出した直後は邪道の魔法使いの集団が逃げた事は国に住んでいる住民はもちろん知っていたが、その後国王の名前で通達が出た。邪道の魔法の集団は王国軍が全滅させた。彼らは1人も生き残っていない。今後は彼らについて話題にする事や記録を残す事はやってはいけない。違反したものは厳罰に処すというものだ。そして時が流れて世代が変わるにつれて邪道の魔法は彼らの中から忘れ去れられていった。


「時空魔法や召喚魔法などは国とって脅威以外なにものでもない。彼らにとっては2度と復活させてはならぬ魔法なんだよ」


 この話はここ山奥の街では逆に代々伝えられていて全ての住民が知っている。ここの人たちは国から逃げ出してから1年後にはマミナの近くの街に密かに潜り込んで活動を開始したというから凄いよ。そうして時間をかけて仲良くなった商人達から内緒だぞ、実はな、とこの話を聞いたそうだ。そりゃそうだろう、人は噂話が大好きだ。話すなと言われてはいわかりましたと素直にそれを受け止める人ばかりじゃないよな。


「1年後に逃げ出した国に再び戻った目的は物資の調達だよ。最低限の物は持ち出したとはいえこの山の中には何もなかった。数千人が生きていくにはどうしても物資の補充が必要だったんだよ。何もないところから村を作っていった。建築資材や道具はもちろん、食料や衣料、薬なんかも手当したんだよ」


 逃げ出した国にまた戻るのは相当の覚悟があったんだろう。文字通り命を賭けて戻っていった。流石にすぐにマミナに戻る訳には行かないから最初は自分たちの顔を知られていないマミナから離れた街で買い出しをしていたそうだ。そうして時が過ぎて私たちの事を知っている人がいなくなった頃にマミナに家を持ったんだと言う。


 この山奥の街からだとマミナが距離的に一番近く、街も大きいので一度で大抵の品物は揃えられるそうだが、最初の頃は毎回違う小さな街に出向いては少しずつ手当てをしていたらしい。サーラさんのご先祖達は俺みたいな甘ちゃんには想像もできない程厳しい条件の中で生き延びてきたんだ。


「記録によると最初は本当に厳しい生活を続けていたそうだ。ただ住民は皆不平も言わずに皆でこの土地を開拓した。そうして少しずつだが村が発展して大きくなっていった。今のこの街は先人達が言葉に言い表せない程大変な努力をされて作られた街だよ」



 長老達には明日の朝早くに街を出ると言ってある。3人で最後の荷物の確認を終えた俺たちはリビングでリラックスしていた。明日から遠出になるのでお酒は飲んでいなくて皆ジュースだ。もちろんお姉さん2人のグラスにジュースを継ぎ足すのは俺だ。


「ユイチならこの街から東の山の端までの距離は分かるよね」


「それは問題ないね。それが分かると大陸の東西の長さやこの街がどのあたりにあるのかが詳しく分かると思う」


 聞いてきたカオリにそう答える。転移した後の魔力量から実際に飛んだ距離は分かる。もう何度も転移をしてきているから感覚的に分かる様になっているんだよ。


 明日は早いからお開きにしましょうと食器を片付けた俺たちはそれぞれの部屋に戻っていった。自分の部屋に戻った俺はベッドに横になって天井を見ながら考えてみる。


 東に飛んで山の端まで到達してそこから山の麓をぐるっと見る。その景色を見たら俺たちの目的は達せられる。その後はまたコソコソと転移をしながらこの街に戻ってきて鍛錬を指導し、ポロに帰る。


 この世界の理を変えてはいけないとナッシュ先生は言っていた。そしてこの山奥の街の人たちは今までも、そしてこれからも人知れずにひっそりとこの場で生きていく。俺たち3人はいわば異端児だ。ただ異端児だけどこの世界で無茶をする気は全くない。ポロの街で静かに暮らしながら周囲に迷惑をかけない範囲でちょっとした冒険をしようと思っている。それくらいは許してもらえるだろう。


 この山奥の街の人たちとの交流は始まったばかりだ。これから先どうなるのかなんて頭の悪い俺には全く予想ができない。ただ、たまたま覚えた俺たちの新しい魔法や魔法剣というものを身に付けたいと思っている人たちがここにいる。彼らがその新しい魔法等を身につけることでここでの暮らしが良くなるのであればそのお手伝いは喜んでやろう。


 この世界は狭い様で結構広い。最初に想像していたよりもずっと広い。まだまだ俺たち日本人の感覚では理解できないことが沢山あるんだろう。でもやっぱり俺はこの広い世界で地味に生きていこうと自分の気持ちを再確認した。


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