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第87話

 遅めの昼食を終えた俺達は借りている家、この山奥の街での自宅の裏庭に出るとそこで鍛錬をする。庭と言っても結構広い。3人がそれぞれ離れた場所で鍛錬をする十分な広さがある。


 カオリはそこで魔力を増やす鍛錬と剣の素振り、ユキはサクラを呼び出しては精霊の身体を撫で回している。そして俺は数メートル浮き上がってはその場で横に移動したりしていた。


 サクラを戻すとレムを呼び出したユキ。ちょうど俺が浮いているとその横に2メートル程の高さのレムが召喚された。こうして見るとでかい、そして本当に岩の塊だよ。


「こうして見るとでかいな」


「でも魔力の消費量はサクラもレムも変わらないのよ。召喚獣の大きさと魔力の消費量は関係がないみたい」


 地上に降りた俺は光の玉や水玉を作り出しては消すという鍛錬をする。カオリは剣の素振りを終えると今は俺と同じ様に光の玉を作っていた。戦士だから魔力量は多くはないが、それでも最初の頃に比べると光の玉が大きくなっている。


「最初の頃に比べたら浮かんでいる光の玉が大きくなってるよね」


 カオリの魔法の鍛錬を見ながら言った。


「そうなのよ。少しだけど大きくなってるのは自分でも分かるの。やっぱり毎日鍛錬を続けるのが大事よね」


 元々前衛でそれほど魔力量が多い訳じゃないけど、鍛錬するとそれでも目で見て分かるほどに魔力量が増えている。日々の鍛錬は本当に大事だよ。


 2時間ほど鍛錬をすると家の中に戻った。女性2人はシャワーを浴びるというので俺は1人で街の中を散歩することにした。自宅を出て数分で街の中心部だ。俺たちのことはすっかり有名になっているのですれ違う人が軽く会釈をしてくる。こんなことをされた経験はないのでどう対応したらいいか分からない。なので会釈をし返していた。これでいいんだろうか。

 

 会釈をしている人もそうだが魔法の鍛錬をしている住民も結構いる。光の玉を作っては決してという鍛錬をしていた。


「先生、こんな感じでいいですか?」


 歩いていると若い男性が声をかけてきた。先生?


「先生って俺の事?」


 思わず言っちゃったよ。


「サーラ長老が仰っていました。遠くから来てくれている3人は自分たちに魔法を教えてくれる先生だと。それで先生、ライトの魔法はこんな感じでいいでしょうか?」


 そう言う事になっているのかと思いながら目の前の男性が作る光の玉を見てみるとそれなりの大きさになっているし、しっかりと輝いている。


「いい感じですよ。両手で上手くできる様になったらその玉を大きくする事をイメージしましょう。何度もやることで魔力量は間違いなく増えますから。でも魔力が欠乏するまではしない様に、適当に休憩しながらお願いします」


 先生と言われても威張ったりする訳じゃない。生まれてこの方、相手から威張られたことは数え切れないほどあるが、自分から威張ったことなんてのは一度もない。しかもどう見ても相手の方が年上だ、敬語で話をしてしまうんだよな。


 その後も数人から声をかけられた。散歩するつもりが半分出張指導みたいになってしまった。でもそれだけ皆熱心、なんとか魔法を覚えたい、魔力を増やしたいと思っているということだよな。その気持ちがひしひしと伝わってきた。


 自宅に戻るとお姉さん2人はシャワーを浴びて私服に着替えてリビングでリラックスしていた。俺は外での話を2人にする。


「多分だけど、今までしっかりとした魔法の指導を受けた事がなかったのよ。サーラさんも言っていたけど見よう見まね、いわば我流で覚えた魔法を使ってたのよね。だから私たちが基礎から教えるとなって皆やる気が出ているんだと思うの」


 そう言ったユキ。確かに見よう見まねで魔法だけを発動していたから、魔力量を増やすなんて事はやった事がなかったんだろうな。長い距離を転移できる人は、たまたま最初から当人が持っている魔力量が多かったのだろう。


「皆の魔力量が増えたらもっと暮らしやすくなるかもね」


 そうカオリが言っている。せっかく覚えた新しい魔法を将来へ伝承していく為には俺たちもしっかりと教えないといけない。


 この山奥の村に住んでいる人たちはこれからもずっとこの場所で暮らし続けていくのだろう。時空魔法や魔法剣を身につけることができればここでの生活が便利になり、街の周囲の脅威にも対抗できる。


 自分たちが安心して生きていくという目的があるから真剣に鍛錬するんだな。



 1週間が過ぎると指導を受けている住民達の作る光の玉が大きくなっているのが分かるほどになった。魔力のロスが減っているからだろうとユキが言った。彼女はサーラ長老にその話をする。


「あんた達の指導がいいからだろう。私自身も以前よりも楽に大きな光の玉を作れる様になった。魔力の鍛錬をすることで魔力の流れがよくなってロスが減っているんだろうね」


 そう言ってからカオリを見て剣はどんな感じだい?と聞いてきた。


「まだまだです。基礎が大切なので素振りの繰り返しですね。つまらないと思っているでしょうけどここでしっかり基礎を身につけることが結局強くなれるんです」


「言いたいことは分かる。私からも言っておこう。地味な鍛錬だけどこれが大事だから手を抜くんじゃないよってね」


 長老が言えば説得力があるだろう。カオリもよろしくお願いしますと言っていた。


 それにしても住民の魔法を身につける速度というか吸収力が凄い。俺たちが想像していた以上のスピードで身につけていってるよ。やる気があるとこうなるんだな。俺は小さい頃から何事にもやる気になったことがなかった。小学校から大学までなんとなく勉強らしきものをしていただけの気がする。趣味もなかったし、熱中できるものがないまま生きてきていた。


 この世界に来ても最初はそうだった。なんとなく目立たない様に地味に生きていこうと決めて、辛いことや努力することを最初から放棄していた。薬草取りでブロンズランクで十分。街の片隅で静かに生きて静かに歳をとって、そして誰にも悲しまれる事もなく死んでいく。自分の人生なんてそんなもんだと思っていた。


 そんな考え方、生き方だった俺だけど、ここにいるお姉さん2人と出会ったことでそれまでの自分の考え方が1人よがりの甘い考え方だということを思い知らされた。自分は今まで面倒な事を避け、そこから逃げてばかりだった。でもそれじゃダメだということをお姉さん2人から教えられた。自分の生きる意味、仕事をする意味を考えてごらんと言われて目が覚めたよ。


 この街に来て、住んでいる人たちが自分たちが安寧な生活を送る為に一生懸命魔力を増やす努力をしているのを見て自分自身も気持ちを入れ直した。また明日から頑張ろう。


「ユイチ、何難しい顔してるの?」


「そうそうひょっとしてホームシック?そんな事ないわよね。お姉さん2人がここにいるんだしさ」


「大丈夫です。もちろんホームシックでもありません」


 カオリとユキはいつも俺の事を気にしてくれている。ありがたいことだよ。感謝しかない。


「ベッドが変わったら寝られないんでしょう?分かった、今夜は私が添い寝してあげる」


「はい、分かりました!お願いします」


 カオリの言葉に即答しました。


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