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第86話


 全体の鍛錬は午前中に行い、午後は各自が鍛錬、自主練というのかな、スケジュールはそうなっている。午前中の鍛錬が終わるとグランドに隣接しているサーラさんがいる建物に戻る。ここは街の館とか本館とか呼ばれている建物だそうだ。話を聞くと市庁舎みたいな感じだよ。偉い人がいて街の色々なことを決めたりする所らしいから。


 会議室に入ったのは俺たち3人と街側からはサーラ長老、ハミー、カシュの3人だ。


「午前中の講義というか鍛錬を見てこの街の住民達はどうじゃった?」


 中央に座っているサーラ長老が聞いた。


「魔法剣の取得の前にまず剣に慣れるというか使い方を覚えないといけません。剣をきちんと振れないのに魔法剣を乗せても意味がありませんから、なのでしばらくの間、私は魔法剣を教える前に剣の使い方の指導をするつもりです」


 カオリは最初に飛ばされた世界でその世界の軍人から武器の使い方のレクチャーを受けているのでそれを思い出しながら彼らに武器の使い方を教える予定だ。長老以下3人もそれで構わないと言ってくれた。


「この街に剣を振るう事ができる住民はいない。基礎からしっかりと教えてやってくれるかい?」


「その結果魔法剣の会得に時間がかかりますが構いませんか?」


「構わんよ。基礎からしっかりと教えて貰う方がずっと大事じゃ。剣を覚えると街の外で魔獣を倒す時にも役立つだろうしの」


 いやその通りだよ。聞いていると今までせーのって感じで一斉に魔法を撃っていたそうだけど効率が悪いし倒し方が良くないと魔石が取れないことだってある。ポロの街で最初の頃に俺がやっちまったミスだからな。経験者は語る、だよ。


 カオリとの話が終わる長老は今度顔を俺とユキに向けた。目でどうだ?と聞いてくる。


「魔法を発動することは問題なさそうですね。皆さん無詠唱ですし。あとは鍛錬の時にも言いましたが魔力量を増やすことを徹底すべきです。魔力量は多いに越したことありませんから。そして魔力量は一朝一夕で増えるものでもありません。日々の地味な鍛錬が必要です」


 ユキがそう言ってから俺にあのメモを渡してあげたら?と言ってきたので俺は収納から自分の日記、メモの中から魔法の習得に関する部分だけど纏めたメモを机の上に出すとサーラさんに手渡す。


「これは俺が冒険者を始めた時からつけている日記の中で魔法の習得に関する部分を纏めたものです。どんなイメージで鍛錬をしたか。とか、どういうイメージだと覚えられなかったとかが書いてあります」


「それは参考になりそうじゃな」


 そう言って受け取ったメモに目を通す長老。数ページ読んだところで顔をあげると俺を見た。


「なかなか面白い。これを書写させてもらってかまわんか?」


「もちろんです。写し終わったら返して下されば構いませんので」


 俺がそう言うと隣のハミーにメモを渡し、書写する様に指示を出した。受け取ったハミーも数ページ目を通してこれは参考になりますね、なんて言っている。


 俺は創造力も乏しいし、頭も良くない。時空魔法を覚えるのにかなり回り道をして覚えたという自覚がある。カオリとユキに言わせるとだからこそ参考になるんだそうだ。


 この街に来る前、ポロの自宅で俺が書いたメモを読んだ後でカオリが言った。


「いい?すごく頭の良い人や天才って呼ばれている人たちは、いきなり正解に辿り着いちゃうのよ。だから周りが正解にたどりつかない時に何故辿り着けないのかが分からないのよね。その点ユイチはしっかりと回り道をして覚えて来ているからいいのよ」


 つまり頭が良くないと言われている訳だ。ただ全くその通りなので反論する気も起きない。そう思っているとカオリとユキの2人が言った。


「ユイチはね、頭が良いとか悪いとかの次元じゃないの。貴方はすごく努力をする人ね。それはすごく大事なことよ。私たちも天才じゃないし頭が飛び抜けて良い訳でもない。だからこそ分からないことを理解しようと努力しているの。私たち3人は皆同じよ」


「そうそう。仲間だよ」


 なんてやりとりがあり、これは絶対にいい物だから持って行きましょうとなった経緯がある。



 明日からも午前中はカオリの組と俺、ユキの組に別れて今日と同じ様な鍛錬を行うことにする。2、3週間続けたら間違いなく効果があるだろうとお姉さん2人が言っているが俺もそうだと思う。元々素質のある人たちが集まっている。


「そうなるとお前さん達の滞在も伸びることになるが問題ないのかい?」


「最初が肝心ですので1ヶ月超えてもいいですよ。2ヶ月位はしっかりと詰めてやった方がいいでしょう?」


 カオリが言うとその通りだと言うサーラ長老。今のやり取りで俺たちの今回の滞在が1ヶ月から2ヶ月に延びることになったがそれは問題ない。ポロでのランクもゴールドだしのんびり生きようって話をしていたしな。山奥の街に来て魔法を教えるのがのんびり生きる事かどうかは分からないが、要はずっとポロにいなければならないという必要もないってことだよ。


「色々とありがとう。お前さん達3人はすでにこの街の住民として認められている。好きにしてもらって構わないよ。街の中をうろうろしようが、外で魔獣を倒そうが好きに過ごしてくれるかい?もちろんレストランで食事をしてくれても構わない。収納魔法持ちが多くいるので食材は常に多めに保管している。街の中には畑もある。住民が3人増えたくらいだと何も問題ないの」


 街の館を出た俺たちは借りている一軒家に戻ってきた。すでに昼を過ぎていたのでまずは昼食だ。サーラさんは街の中にあるレストランで食事をしてもいいとは言ってくれているがまずは持ち込んだ食材からだよな。家の中の冷蔵庫には収納から取り出した食材の一部が入っている。俺はそれを取り出して調理を始めた。そう、今日は俺が調理当番なんだよ。俺が作っている間、カオリとユキはキッチンのテーブルに座って今日の鍛錬の話をしていた。俺にも聞こえる様にキッチンのテーブルに座ってくれているんだよな。おかげで食事を作りながらも背後から2人の声が聞こえてくる。


「片手剣の会得は時間が掛かるわよ。身体の使い方を一から覚えないといけないから」


「前の世界ではどれくらいかかったっけ?」


「毎日午前と午後やって1ヶ月ちょっと。だから2ヶ月は必要かも。そっちはどう?」


「こっちもまず魔力をもう少し増やさないと。収納は多い方がいいに決まっているし、転移する距離が伸びないと意味がないでしょ?まずは魔力量ね。カオリで2ヶ月かかるのならこっちも基礎訓練にそれくらいかな」


 ユキも最初の世界で向こう側の魔導士から指導を受けている。聞いたところだとやっぱり朝と晩やって1ヶ月ちょっとかかったそうだ。そう考えると俺は何だ?あえて言えばラニア治療院のラニア先生からちょこっと話をしてもらったくらいだよ。


 他には思い浮かばない。まあ、ラニア先生に言われた通りやって今のところは上手くいっている。深く考えるのはよそう。というか深く考える必要もないか。何もないんだから。


「ユイチはどう思う?」


 皿に料理を盛った俺がキッチンテーブルに近づいたタイミングでユキが聞いてきた。


「やっぱり魔力がないとね。しんどいけど基礎訓練をしっかりした方がいいと思います」


「「だよね」」


 魔法使いはやっぱりある程度の魔力は必要だ。しかもこの街の人はジョブという概念がない。よく言えばオールマイティの魔法使いになるんだろうけど、ならばこそ余計に魔力はあった方がいい。精霊魔法と回復魔法を数回撃ったら魔力が無くなったというのでは意味がないと思うんだよな。


 テーブルに皿を並べて遅めの昼食が始まった。持ち込んでいる肉はまだ冷蔵庫に残っているこの昼食の材料の余りと肉とで今日の夕食は決まりだな。


 食事をとりながら午後からどうしようかと話をする。カオリはやる事がないのなら外に出て魔獣を倒そうかと言ったけど、ユキは毎日出るのも疲れるよねと言っている。俺はユキに賛成だ。これから2ヶ月はいるんだからのんびりしたらいいんじゃないのと思っているとユイチはどう?と2人が聞いてきた。


「初日だし、ここでのペースを掴むまでは無理しなくてもいいんじゃないかな。外に出るのは3、4日に1度とかさ」


「そうだね。最初から飛ばす必要ないか」


 カオリが賛成してくれたのでとりあえず今日、明日は午後から休養することになった。



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