第81話
話し合いが終わったら昼食時だった。サーラさんは街の中のレストランで食べて構わないと言う。俺たちのことは昨日から今朝にかけて住民には通達済みだそうだ。
「我々の仲間だということで説明しておる。何も問題はないな」
「ありがとうございます。食事が済んだら外に出てもいいですか?魔獣のレベルを調べてみたいので」
「それは是非頼む。我々は目の前の魔獣を倒しておるだけでそのレベルがどうだとか言う知識がないからの」
「分かりました。その辺も調べてみます」
長老の気配りに感謝し、大きな建物を出ると3人で市内をぶらぶら歩く。昨日と違う石畳の道を歩くがどこも綺麗でゴミが落ちていない。小さな公園もある。
「本当に綺麗な街ね」
「それにすれ違う人の表情も昨日よりもずっと柔和よ」
カオリが言ったが俺も歩きながらそう思っていた。昨日の視線とは全然違うよ。通りを歩いていてレストランの看板を見つけたので中に入る。
注文をとりに来た給仕の女性も俺たちを見ても普通の客として対応してくれる。おすすめが鹿肉の料理だというのでそれと野菜サラダを頼んだ。
「街の奥が畑になっているのを見たんだけどここの野菜はあの畑で作っているの?」
「ほとんどの野菜はこの街で作られたものです。一部は外から買っていますけど」
給仕さんが厨房に消えるとどういうこと?とカオリが聞いてきた。ユキも浮遊はしたが遠くまでは見えなかったそうだ。俺はグランドで浮遊したときに見た景色を2人に話する。
「なるほど。城壁の中に畑や放牧地を設けているのね。それなら安心ね」
「変な言い方だけど攻めこまれて籠城することも考えていたんだろうね」
それがあるか。今はそのリスクはまず無いだろうけど街を作った当初は本当にここまで追っ手、軍隊がやってこないとは確証が持てないから最悪の事態を想定したのかもしれない。
注文した料理はどれも美味しかった。しっかりと調味料も使っている。西のマミナの街から仕入れているんだろう。ポロの料理に近い濃いめの味付けで旨い。
ジュースは街の中にある果樹園のフルーツを絞ったジュースだそうだ。果汁100%だよ。美味しいに決まってる。この世界ではジュースといえば果汁100%。ポロでもそうだ。混じりっけ無しだよ。
この後は街の外に出て魔獣を倒しながら街周辺の魔獣の生息地とレベルを調べるついでに魔石も稼いじゃおうって作戦だ。この街の人たちがどうやって魔獣を倒しているのかは知らないが俺たちはいつも通りやるだけ。ゴールドランクならなんとかなるだろう。それより上のランクだったらどうするか。まぁ最後は逃げりゃいいか。
食事を終えるとそのまま城門に足を向けた。門にいた住民の魔法使いに街の外で魔獣を倒してくるというと気をつけてという言葉と共に門を開けてくれた。
「街に来たときは数百メートル歩いたけど魔獣の姿は見なかった、山の中にいるのかしら」
「そうじゃない?ここは広い盆地だから魔素が薄いのかもね」
周囲を警戒しながら山の方に歩いていく。ここは山の奥だ。普通に考えたら最低でもゴールドランクだろう。周りを見ると山裾が緩やかな山もあれば登れない様な岩山もある。俺たちは当然緩やかな山裾を目指す。緩やかな山裾には木が生えていた。
数分歩くと山裾に近づいてきた。ユキがサクラを呼び出して強化魔法をかけるとカオリを先頭にして山に入っていく。入っていくと木々の向こうに魔獣の姿が見えた。師匠の森の奥にもいる熊タイプの魔獣だ。
「ゴールドランクみたいよ」
前にいるカオリが言った。つまり倒せるってことだ。俺が遠距離から精霊魔法を撃って戦闘が始まった。顔に魔法をぶつけられた熊がグラッとしたときにはカオリが熊に近づいて片手剣で首を刎ねた。すぐにユキが身体を裂いて中から魔石を取り出す。死体は俺が収納にしまった。
「間違いないわね。これはゴールドランクの魔石」
「山裾でゴールドランクか。狩場としちゃあ悪くないわね」
街を出て10分も歩けばゴールドランクがいる。こんな狩場は普通はないよ。流石に山奥だ。山裾を歩いて遭遇する魔獣は全てゴールドランクだ。山の中に入ると魔獣のレベルが上がるんだろうな。俺たちはまだゴールドランクの上、プラチナランクの魔獣を相手にしたことがない。
「もう少し奥に行ってみようか」
カオリがに山の中に行こう言った。魔獣の強さがどれくらいなのかが分からないから個人的には山裾で十分じゃないかと思うけど言えない。
「いいわね」
ユキも賛成して山の中に入ることになった。ゴールドランクより上の魔獣に出会ったらどうしようか、なんてビビりながら山の中に入っていく。入ってすぐの所は相変わらずゴールドランクだ。いきなり強くなっていなくて安心したよ。
山に入ってしばらくはゴールドランクの魔獣だ。ポロ郊外の狩場で見かける魔獣と同じなので討伐は問題ない。ゴールドランクを倒しながらさらに奥に進んで行くと先頭を歩いていたカオリが足を止めて手招きしてくる。彼女の左右に俺とユキが並ぶ。山裾から山の中に入って小一時間程経った場所だ。俺たち3人が見ている前には山の斜面を流れている川がある。川幅は3メートル程で狭いが流れが速い。これは転移か浮遊の魔法じゃないと向こう側に行けないよ。
「ここまでにしておきましょうか」
川を見ていたカオリが言った。行くわよ!って言うかも知れないとちょっとビビってたけどカオリの言葉を聞いて安心したよ。
「そうだね。そしてここまではゴールドランクしかいないって報告しましょう」
戻る時もゴールドランクを倒しながら山から盆地に出てきた。
「もっと魔獣と遭遇するかもって思ってたけどそうでもなかったわね」
盆地の草原を街の門に向かって歩きながらユキが言った。確かにここは山奥だ。もっと魔獣がうじゃうじゃといるかと思ったけどそうでもなかった。
「第二拠点の近くの森と同じくらい?」
俺が言うと2人がそれくらいだよね。と言っている。魔獣のレベルは上がっているけど数が増えるってことじゃないんだな。
門に近づくと通用門が開いた。
「長老がお待ちです」
2人いる門番の中の1人が言った。こっちの素性はもう市民に行き渡っている様だ。昨日のきつい視線とは違って今日の俺たちを見ている視線は穏やかだよ。
「わかりました」
街の中に入るとサーラ長老がいる建物に足を向けた。