第79話
俺たちの実演と話の内容はかなりインパクトがあったみたいでしばらくの間サーラさん以下全員が何も言葉を発しない。気まずい雰囲気じゃないの?そう思っているとサーラさんが咳払いをしてから言った。
「転移はわかった。ユキとユイチは浮遊魔法も使えるんじゃの?」
その言葉に頷くユキと俺。
「ます私が浮遊魔法をお見せしよう」
そういてサーラさんが浮き上がった。高さは10メートル位か。浮いたままの高さで左右に動いてから地上の元いた場所に降りてきた。見事な浮遊魔法だ。素人の俺が見てもわかる。一連の動作がぎこちなくて流れる様に行われているんだよ。
「私で高さが10メートルまで。左右に移動すると魔力を使う。それは2人も同じかな?」
「同じですね。私は15メートルほど、ユイチは30メートル浮遊できます」
ユキが言うとまた驚かれる。見せてくれるかと言われたのでその場で30メートル程の高さまで浮き上がるとそこでぐるっと円を描く様に横に移動してから着地した。浮遊して上からこの街を見てみると俺たちが入ってきた門の反対側は広い農地や牧草地になっていて野菜や果樹の木が見え、牧草地には羊や鹿が放し飼いされているのが見えた。農産物も一部自給自足しているんだろうな。城壁が広い理由がわかったよ。
「見事じゃ。この街で10メートル浮遊できるのは私だけ。他の者は出来てもせいぜい数メートル。そんな中30メートルも浮遊してしかもそこから横に移動するとはの。桁違いの魔力持ちじゃの」
その後ユキも浮遊魔法を披露した。サーラさんよりも少し高い場所まで浮遊して左右に移動してからゆっくりと着地する。
転移魔法、そして浮遊の魔法を見せつけられたのかこの場にいる全員の俺たちを見る視線が変わった様に感じる。なんと言うか敵対心が消えた?こいつら何者なんだ?という視線からこいつらえぐいぞ。上手く言えないけどそんな感じ。
ユイチは後重力の魔法も覚えていますよと言った。ただここには敵がいないので披露できない。
「重力の魔法はまたいずれ見せてもらおう。ところで禁断の魔法、邪道の魔法と呼ばれているのは他にもある。精霊召喚魔法と魔法剣」
御伽話や伝記だと思っていた魔法はこの世界で実在していたんだ。俺たちが頷くとサーラさんが聞いてきた。
「身につけておるのか?」
時空魔法以外に俺たちが使えるのはユキの召喚魔法にカオリの魔法剣だ。つまり俺の出番は終わった。ここからはリラックスできる。人前で魔法を披露するって緊張するんだよ。今までそんな機会なんて無かったし。
「サーラさんは身につけておられるんですか?」
ユキが逆に聞くと首を左右に振った。
「精霊を召喚する魔法は今この街で使える者は誰もおらん。以前一人だけ精霊を召喚できる魔法使いがおったがもう亡くなっておる」
「そうですか。私が召喚できる精霊は今のところ2体です」
そう言って彼女はまずケット・シーのサクラを呼び出した。ユキの足元にサクラが現れると全員が注目する。
「おおっ、彼が呼びだしておった小動物の精霊と同じじゃ」
ユキの足元に現れた可愛らしい猫を見てサーラさんが声を上げた。他の人達は初めてみるのか目を見開いて精霊のサクラを目を見ている。
「この子はサクラという名前をつけています。光の精霊で戦闘前に呼び出すと私たち3人に強化魔法をかけてくれます」
ユキがサクラ、お願い。と名前を呼ぶとサクラが光って俺たち3人に強化魔法をかけた。その光はサーラさんにも見えている。
「サクラ、ありがとうね」
そうしてサクラを戻すと今度は土の精霊、ゴーレムを呼び出した。こっちは身長がでかい。登場した瞬間に皆後退りした。でかい上に迫力あるからな。
「この子は土の精霊。ゴーレムです。レム君って呼んでます。戦闘中は一時的に盾ジョブとなって攻撃を受け止めてくれたり敵を殴ったりしてくれます。戦闘以外では力仕事を手伝ってくれますよ」
「土の精霊か。これは初めて見るぞ」
「身体は大きいですが精霊ですから心優しいですよ。廃村の柵を修理したりしてくれます」
「レム君、ありがとう」
そう言うと目の前からゴーレムの姿が消えた。
「魔力は使うのかい?」
「正直結構使います。私の魔力では2体同時に出したらせいぜい10分位しか魔力がもちません。1体なら30分位でしょうか。これも最初に比べたら時間が延びました」
「呼び出せている時間は魔力量に比例する。つまり魔力量を増やす鍛錬を続ければ呼び出している時間も伸ばせるということじゃな」
流石に長老だ。ユキが言わんとしていることを完全に理解しているよ。
「ユイチは精霊を召喚できるのかい?」
俺が首を左右に振るとユキが代わりに説明してくれる。
「ユイチ出来ないみたいです。私たちが色々調べたり、また魔法学院の先生に聞いたところ、召喚される精霊は召喚する人を助ける目的で現れるそうです。つまり召喚される精霊は敵を攻撃するのではなく、敵から守るために姿を見せる。そうなると攻撃的な魔法を使う精霊士ではなく治癒、回復をメインとする僧侶の方が召喚しやすい。そう理解して訓練をして2体の召喚に成功しました」
ユキの話を聞いていたサーラさんが目を見開いた。
「これはすごい情報じゃ。言われてみればその通りじゃ。精霊とは皆攻撃的な妖精ではない。攻撃魔法を使う者よりも回復魔法をメインにする者が召喚しやすいという話は説得力があるぞ」
長老のサーラさんが興奮しまくってる。彼女の背後にいるハミーさんの表情も明るい。多分彼女は僧侶系の魔法が得意なんだろう。
ユキの説明が終わるとサーラさんはカオリに目を向けた。
「カオリは覚えたのかい?」
「ええ。魔法剣ですよね」
魔法剣という言葉を聞いてまたその場にいる全員が身を乗り出してきた。
「魔法剣はこの街では誰も使えない。住民の全員が魔法使いだから剣を使いこなせる人がいないんじゃ。記録によると100年以上前には使える者が多くはないがいたらしい」
「なるほど。これが魔法剣です」
カオリが片手剣を腕に持つとその剣の刃からメラメラと小さな炎が現れた。
「火の魔法を剣に乗せています。ユイチ、お願い」
俺が収納から薪を取り出すとそれを火の魔法剣で2つに切った。切られた薪の切り口が黒く焦げていて小さな炎で燃えている。
「これが魔法剣か」
「見事に魔法が剣の刃に乗っている」
ホートンとウルムが声を出している。
「他の魔法も剣に乗せられるのかい?」
そう言われてカオリはできますよ。と水や氷、雷などの魔法剣を披露した。全員が彼女の魔法剣を食い入る様に見ている。薪が結構減ったけどまた木を切ればいい。今は薪をケチっている場合じゃないしな。
魔法剣の披露が終わるとありがとうとお礼を言ったサーラさん。
「お前さん達はこれらの魔法や魔法剣を独学で身につけた。そういう理解であっているかい?」
サーラさんの言葉に頷く俺たち3人。
「わかった。続きはさっきの部屋でやろうか」
俺たちの魔法のデモンストレーションは終わった。彼らは何も言わないが俺たちの評価を上げた様だ。こちらを見る目が昨日と全然違うからね。