第76話
おっちゃんに続いて階段を登る俺たちの後ろから2人が付いてきていた。前を歩いているおっちゃんが2階の廊下の先の部屋の扉をノックしてから開けた。中はちょっとした会議室風の部屋だった。ドアと反対側の壁の前の椅子におばあちゃんが1人、その左右にはおねえちゃんとおじさんが座っている。俺たちが入るとその3人が立ち上がった。
「山奥の街にようこそ。私はこの街を見ているサーラという。長老と呼ばれておるが要は一番歳をとっているってことさ」
そう言ったサーラさんがここにいる人を紹介してくれた。隣に座っている女性がハミー、男性はカシュと言って長老の補佐をしているそうだ。サーラさんも魔法使いなのだろう。落ち着いた紫のローブを着ている。補佐をしている2人はおっちゃんと同じ濃い茶系のローブだ。
最初に山の上で出会った3人はおっちゃんがホートン、他の2人がウルムとジャムスという名前だと教えてくれた。全員がローブ姿でカオリの様な戦士風の人はいない。
「私はカオリ。ここからずっと西にあるレアリコという国のポロの街で冒険者をしています。ジョブは戦士、それでこっちの女性がユキ。ジョブは僧侶、男性はユイチ。ジョブは精霊士です」
お互いの自己紹介が終わると座ってくれというサーラさんの言葉で全員が椅子に座った。扉が開いて秘書っぽい女性が入ってきて全員の前に飲み物を置くと部屋から出ていった。
「何から話そうかの」
「ではまず私たちのことから話ましょう。どうして西からやってきたのかも含めて」
カオリが言うとそうしてくれると有難いとサーラさんが言った。どうやら俺たちを敵視していない雰囲気だ、しかも俺たちの転移の魔法と同じ魔法が使える人がいる。となるとある程度こちらの事情を説明した方がいいだろうという判断なんだな。いずれにしてもこう言う場ではカオリとユキに任せれば安心だ。俺は黙っていて聞かれた事にだけ答える様にしよう。
カオリが話始めた。自分たち3人で西のレアリコという国で冒険者をしながら生活をしている。俺が図書館で古い御伽話や地方の言い伝えの本を読んでいたら時空魔法いうのが書かれていた。御伽話だけどひょっとしたら昔の人は使っていたんじゃないかと自分たち3人は考え、鍛錬を続けた結果ユイチとユキがその魔法を身につけることができた。
「精霊士と僧侶の2人が時空魔法を覚えたということじゃな」
「その通りです。時空魔法には収納魔法、転移魔法、そして浮遊魔法、重力魔法の4つがあるそうです。私は重力魔法以外は覚え、ユイチは4つの魔法全てを会得しました」
ユキが言うと向かいに座っている6人が俺に顔を向けた。そうですよと言う代わりに黙って頷く俺。何か言ったほうがよかったかな。こんなやりとりの経験がないから分からないんだよ。分からない時は頷いているのが無難だろう。
それよりも収納、転移、浮遊、重力と4つの魔法の話をしても誰も驚かないな。つまり彼らもこの魔法の存在を知っていて使うことができると言うことになるんだろうか。俺がそう考えていると同じ質問をユキがした。
「この街の人は私たちと同じ様に魔法が使えるのでしょうか?」
「使える者もおるし使えない者もおる。ハミーとカシュは収納と転移、それとわずかだが浮く事ができる。ジャムスとウルムは収納と転移の魔法が使える。ちなみに私は全部使える」
なるほど。だから長老に任命されているんだろう。恐らくこのおばあちゃんがこの街で最年長であると同時に最大の魔法使いなんだ。
「今私たちがいる国ではこれらの魔法が人前では使えない。魔法を覚えた私たちは知り合いの魔法学院の先生だった人の家を訪ねて相談しました。その先生が仰るにはこれらの魔法はあまりに影響量が強く、身柄を拘束されて最悪死刑になることすらあると。国から見て危険な魔法という位置付けだと言われました」
そう言ってから身柄を拘束される理由を話するカオリ。彼女が話をしている間ずっと黙って効いているサーラさん以下6人。
「そう言うことでこの魔法は今私たちがいるエリアでは使うことができません。ただせっかく魔法を覚えたのだから今まで誰も調査をしていない東の山の向こうはどうなっているのか転移の魔法を使って調査してみようと言うことになって東へ東へと転移を繰り返している途中でこの街を見つけたということです。人が誰もいないエリアであれば転移の魔法や浮遊の魔法を使っても見られませんから。東への探索は私たち3人のちょっとした冒険。そんな軽い気持ちで始めたんです」
カオリが長い話を上手くまとめて説明していた。俺ならここまで纏められないダラダラと長い話をして飽きられるのがオチだ。
「あんた達が東へ移動してきた理由分かった。他にもまだ話すことがありそうな顔をしておるが今度はまず私たちのことを話そう」
そう言って目の前の飲み物を口に運んだサーラさんが話し始めた。
この街は今から200年程前に作られた街で、ここからいくつも山を越えて西に行くと山が終わって広い平地、そしてその先には海があるそうだ。その広い平地には大きな国があるらしい。
「その国の中にある街に私たちのご先祖が住んでいた。ご先祖達は転移や収納、浮遊を使うことができたがその国ではそれらの魔法は認められていなかった」
ん?自分たちと同じじゃないか。カオリもユキもたぶん俺と同じことを考えてそれが表情に出たのだろう。
「その通り、今のあんた達の立場と全く同じだ。違うのは我々は実際に迫害を受けたということだ」
邪道の魔法だということで国をあげて邪道魔法使い狩りが始まったらしい。ひどい話だが俺たちも一つ間違ったらそうなっていたかもしれないと思うと他人事には聞こえない。
「我々のご先祖達は皆で示し合わせて一斉に街から逃げて東に飛んだ。交代で転移の魔法を使って山の奥、奥へと逃げていったのじゃ。皆で助け合いながら東にずっと進んでいった先にこの盆地を見つけたんじゃ。住んでいた街からは何十もの山を越えた所にあるこの盆地。流石にここまでは追手が来ないだろうとご先祖達はこの地を自分たちの終の住処として開拓した。この街にはその当時の記録が残っておる」
「なるほど。つまり時期のズレはあるものの私たちと同じ立場だったんですね」
「その通り。記録によれば大人や子供も入れて数千人がここまで逃げてきた。そしてここなら安心だろうと街づくりを始めたんじゃよ。数千人から始まったこの街が今では8,000人近くにまで人口が増えた。先祖達が逃げたのは時空魔法を覚えているからじゃったが実はそれ以外にも特殊な魔法を覚えていた人が一緒に逃げたと記録にある。それが見つかれば時空魔法と同じ様に邪道魔法と位置付けられて迫害されておっただろう」
特殊な魔法。ひょっとして。
「それって召喚魔法と魔法剣のことですか?」
カオリが言うとサーラさん以外の人は驚いた表情になった。長老だけが表情を変えず言った。
「やっぱり知っておったか。その通り。精霊を召喚する魔法、そして魔法剣じゃよ」
やっぱりこれらはやばい魔法だったのか。それで迫害を受けてこの場所に逃げてきて街を作って暮らし始めた。そこまではいい。でも城門からここまでくる間に見た光景はポロの街の中にあるのと似ていた。屋台があり品物が売っている。全て自分たちで作っている様には見えないんだよな。
「あの‥」
思わず声が出ちゃったよ。全員が俺の方を向いたので仕方なく今疑問に思ったことを口にする。
「変な言い方になりますけど周りに何もない街から遠く離れているこの盆地の中でここまで物資が潤沢に揃うのでしょうか?」
「ユイチとか言ったか。お主は桁違いの魔力持ちじゃな」
サーラさんがいきなり言った。びっくりしたよ。でもびっくりしたのは俺だけじゃなかった。その場にいる全員が驚いた表情になった。
「何故分かったのか?という顔をしておるの。私は人の魔力量を見ることができる。この部屋に入ってきた時にお主の魔力量を見てたまげたわい。そこまで魔力量の多い人間は見たことがない。ユキも多いの。この街の住民に置き換えると、この街で一番魔力量が多いのが私だが2人とも私よりも多い」
それを聞いた向かい側の全員がまたびっくりした表情になる。たぶんサーラさんはこの街最大の魔法使いなんだろう。そして鑑定スキルとかいうのを持っている。その彼女の魔力量よりも俺とユキの魔力量の方が多いと聞いたらそりゃ驚くよな。
「ユキの魔力量はそうじゃな、私の2倍はあるの、そしてユイチの魔力量はそれよりもずっと多い。私の3倍?いやもっとありそうじゃなの」
「なんと」
ホートンさんが唸り声を上げた。
「ホートンよ。嘘ではない。私が逆立ちしてもこの2人には敵わない。桁違いの魔力量の持ち主じゃ。それはまたあとで話すとして本題に戻ろう。ユイチが気がついたのも当然じゃ。周りに山と川しかないこの盆地で何故我々が街に住んでいる人と同じくらいの生活水準が保てるかという話じゃ」
そこで一旦言葉を切ったサーラさん。
「簡単なことよ。この街の選ばれた魔法使いが転移魔法を使って港町まで出向いては大量の物資を買って収納に納めて戻ってきているんじゃ。この周辺にいる魔獣を倒せばいくらでも魔石が手に入る。それを街に持ち込んでは現金にしてそのお金で物資を買って帰っているからじゃよ」




