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第7話

 休み明けにギルドに顔を出すと俺の冒険者登録をしてくれた受付に座っている女性が俺を見つけると立ち上がった。


「ユイチさんも一度は外に出て薬草取りでもしたらどうですか?公園清掃よりも報酬がいいし薬草取りなら比較的安全ですよ。ずっと公園清掃ばかりって訳にはいかないでしょ?」


 と言われてしまった。自分としてはずっと公園清掃でも良いのだがあのクエストは毎日あるとは限らないので一度くらい経験するかと言われた通りに薬草取りを受けてみることにする。クエスト票を出してギルドから袋をもらうと、城門から街の外にでた。薬草の生えている場所は受付で教えてもらっている。師匠と出会った森から抜けた先にあった草原一帯が薬草の生息地らしい。


 街を出て小一時間程歩くと薬草の生息地についた。数本の薬草が固まってあちこちに生えているのが目に入ってきた。ギルドで言われた様に根から取らずに土の上に出ている部分だけを短剣で切って袋に入れる。無くなると移動してまた別の場所で採取する。そうやって薬草を集めていると昼過ぎには袋にいっぱいになった。薬草の群生地がそう離れていないので楽だ。


 袋がいっぱいになったので街に戻ってギルドに袋ごと渡す。


「結構採ってきましたね。中身を確認しますね」


 そう言って一旦奥に引っ込んだ受付嬢がしばらくして戻ってきた。


「お疲れ様でした。丁寧な仕事ですから報酬は銀貨7枚となります」


 おお、ギルドに褒められたぞ。しかも報酬は公園清掃の2倍以上だ。さらに昼過ぎには終わった。魔獣にも会わなかったし実際にやってみると楽だった。薬草取りは無くなることがないクエストだというので俺は明日もこれをやることにする。半日ちょっとで銀貨7枚は俺にとっては美味しいクエストだ。飯をしっかりと食べても十分におつりがくる。もちろん部屋代の支払いも問題ない。これだけやっているだけで十分に生きていけるじゃないか。



 こうして3、4日に一度休養日を挟みながら薬草取りをしているとポロの街に来てから3ヶ月が過ぎた。宿の部屋はすでに数度延長している。3ヶ月が過ぎてなんとなく今自分がいる世界のことが分かり、この街での生活のリズムが出来上がったと感じた俺は報告をするために師匠が眠っている山の洞窟を訪ねることにする。あそこまで出向くのは正直怖いが報告はしないといけない。何と言ってもこの世界で生きていくノウハウを教えてくれた方なのだ。お金も借りている。礼儀は尽くさないと。

 

 ローブを着て杖を持って宿を出ると、市内の店で花と花瓶を買い、それを師匠からもらった袋に入れて門の外に出た。自分の中ではこれが正装だ。というかこれ以外だと休日に市内を歩く時に着るシャツとズボンしか持っていない。


 師匠からもらったお金が入っていた袋はあとで調べてみると魔法袋と言って沢山の収納ができる魔道具だった。ただその魔法袋の中では時間は止まらない。中に入れた食べ物は腐ってしまうがそれなりの容量があるので冒険者にとっては必須のアイテムらしい。買うとすごく高いと物だいうのもこの街に来て知った。師匠、ありがとうございます。おかげさまで重宝しています。


 3ヶ月経ったと言ってもその間街の外に出たのは薬草取りだけだ。薬草取りのクエストをこなすだけで普通の、いや最低限の生活が送れる。俺はそれ以上の暮らしは望んでいない。ポロの街の片隅で地味に暮らしながら人生を送ろうと決めているのだから。



 外に出ると山の洞窟を目指す。師匠の洞窟の場所は覚えているので道を間違えることはないが途中で魔獣が出てきたら嫌だなとビクビクしながら朝一番に街を出た俺は草原から森に入る。山裾を左手に見ながら歩いていると陽が傾きかけた頃に山の裾に師匠の洞窟が見えてきた。



 師匠は以前と変わらない骸骨姿だった。当たり前だが。



 俺は師匠が座っている周りを掃除すると、持ってきた花を花瓶にさして供えてからその場でしゃがんで手を合わせる。


「師匠、ご無沙汰しております。自分もポロの街で冒険者を始めました。魔力はあるらしいので魔法使いとなりましたが無理はせず、街の片隅でひっそりと生きることにしました。師匠から頂いたお金はいずれ返しますがもう少しの間、貸しておいてください。また伺います」


 顔を上げて骸骨を見ながらこの世界に飛ばされてきた時のことを思い出していた。この洞窟を見つけ、師匠に会わなかったらどうなっていたか。自分は運のない男だという自負は昔からあるがこの洞窟を見つけられたのは俺にとっては人生で唯一で最高の幸運だったのだろう。これからは死ぬまでこれ以上の幸運は来ないだろうという確信がある。


 洞窟の中で壁にもたれて持参した食料を食べる。今日は洞窟で夜を明かすのは最初から分かっていた。食料と言っても乾いたパンと干し肉、そして水だ。これらは1日やそこらじゃ腐らないからな。食事を食べ終えると洞窟の入り口から外を見てみる。日本と違って工場や人家がないからか夜空にある星がくっきりと見えていた。日本にいる時なんて夜空の星を見ることなんて小さい時くらいしかなかった。朝から夜遅くまで毎日スマホ漬けの日々を送っていたがこうして空をみているとこの方がずっと精神衛生上良い事だってのが実感できる。


 日本じゃ飛行機が消えたとか乗客乗員全員死亡か?と話題になっているんだろうと思うが、ところがどっこい俺は違う世界でこうやって生きているぞ。両親はがっぽりと保険金が入るからそれで勘弁してもらおう。友達はほとんどいなかったから心配もされないだろう。それはそれでちょっと悲しいが。


 一晩洞窟で明かし、洞窟に入ってくる陽の光で目が覚めると、水魔法で手の平に水を出してそれで顔を洗った俺は最後にもう一度師匠に頭を下げて亡骸を後にする。


「師匠、またお参りに来ます」


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