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第68話

「自分たちはよかれと思っていても実際この世界に住んでいる人から見たらそうじゃないってこともあるのよね」


「私たちがいた地球でも、もしそんな人が現れたらどうなるか。そう考えると先生の言う事も理解できるわ」


 確かに俺たちが住んでいた日本、いや地球である日突然空を飛ぶ人間や転移ができる人間が現れたとなったら大騒ぎになるだろう。大騒ぎどころか身柄を拘束されて徹底的に調べられるのは間違いない。国によったら邪教扱いされて火炙りの刑なんてのもありそうだ。いや、流石にそこまでは無いか。でもそれくらいにインパクトが強いのは間違いない。従ってギルマスに相談してみようという事も当然止めた。彼に相談する前でよかったよ。


「魔法剣についても人前では絶対に見せない様にするわ。あとね、先生は何も仰らなかったけど私たち3人を守ることも考えて書き物に残さない様にしたのかも知れない」


 その言葉に俺は思わずなるほど、と大きく頷いたよ。


 確かにそれはある。俺たちが人前で時空魔法や召喚魔法を使わない限り、俺たちが周囲から目をつけられることもない。書き物に残すと、これは一体誰のことだと詮索される可能性がある。そのリスクも考えたんだろうな。本当にすごい先生だよ。


 俺たちは自宅の部屋と第二拠点以外では新しい魔法は使わない事を徹底する。自宅の庭は周囲から見えないがそれでも魔法や剣を使うのは日が暮れてからということになった。転移の魔法についても本当に必要な時にだけ使う。ユキは自宅では時々精霊のサクラを呼び出している。以前は部屋と庭でも呼び出していたが庭で呼び出すのは控える事にすると言った。俺も庭では浮かない様にしたよ。


 郷にいれば郷に従え。だったか。この国では目立っていい事は何もなさそうだ。


 そう、この国では、だ。



「この大陸って他に幾つ国があるんだろう」


 新しい魔法を使わずに外で狩りをして戻ってきた日の夕食の時にユキが呟いた。


「地図を見ると北は別の国だよね。俺が見た地図だとこの大陸には2つの国があるよ」


 ユキに答える俺。


「東の山の向こうって何があるのかな。いきなり海?それともずっと山?」


「えっと確か地図を見た時は大陸の南部を収めているのがこの国、レアリコ王国だって書いてたかと」


 次々と聞いてくるユキに答える。この世界に来た時に見た地図は幸いにもまだ覚えている。


「だとしたらこの大陸って東西に短くて南北に長いのかな。だってここから西の海までそう遠くないじゃない。東の山の向こうは海なのかしら、それともこの国は国の東半分は山で何も無いのかな」


「何かありそうね。山が険しいから探索が進んでいなくて勝手に南部はこの国だって決めつけてる可能性もあるかもよ」


「山が険しいと交流もできないでしょうしね。実は東側のずっと先にはまた別の国があったりして」


「そうよね。ゴールドランクになったしそこそこお金もある。のんびり暮らすのもいいけど知らない場所を探検してみるのも面白そうね」


 2人のやりとりを聞いていてそう言えば彼女達の言う通りだなと思っていた。俺は大陸には2つの国しかないと思い込んでいたけど東の山の向こうにはまた違う世界があるかもしれない。まずは図書館で調べてみよう。何と言っても図書館とギルドの資料室は俺にとって最大の情報源だ。


「図書館で地図か資料を探してみるよ」


「ユイチお願いね。それで3人で一度東の山の方を探検してみようか?」


「東側の山の向こう側がどうなっているのか見てみたい気もするね」


 以前の俺なら2人のこのやりとりを聞くと、ポロの街で地味に生きてりゃいいんじゃないの?無理して高ランクの魔獣がいるかもしれない山になんか行く必要ないだろう?と思っていたが最近は少し、ほんの少しだが前向きになっている。ベースがポロで変わらないという前提なら探検もありかな。なんて思う様になっていた。これも女性2人の影響だよ。


 実際山に登ると言っても周囲を警戒しながら短い転移を繰り返しながら上を目指していくのでガチの登山にはならないだろう。東の山には誰も住んでいない、周りに人がいないという条件が揃っての転移魔法になるけど。ただ山の上は地上よりはずっと寒いだろうから防寒対策はしっかりしないといけない。


 山の上に登って向こう側に何が見えるか。その見えた景色でそれから先どうするか決めようと言うことになった。


 東を探検すると言っても準備が必要だ。俺たちは日々の活動をしながら少しずつ装備を揃えている。テントも耐寒用の分厚い生地のを買い、寝袋も揃えた。食料や飲みものは収納魔法があるので問題ない。


 普段の活動をしながら少しずつ遠出の準備を進めていく。東方面の探索は今までとは違って街がないという前提になる。しかも山の中を進んでいくので移動も困難だろう。魔獣がいるとしたらゴールドランク以上だと思った方が良い。準備すべきことはたくさんあった。


 活動が休みのこの日、俺は図書館に顔を出した。この大陸のことについて詳しく書かれている本があるのかどうかを調べるのが目的だ。今までは地図しか見ていなかったがひょっとしたら文章でそう言う記述があるかもしれない。


 向こうは鬱陶しいと思っているかもしれないが、自分では顔馴染みだと思っている司書さんに挨拶して中に入ると地図のある本棚からいくつか地図を取り、それ以外にタイトルに大陸と書かれている本を片っ端から手に取るとテーブルの上に積み上げた。


 まず地図を広げてみる。この地図は以前見たものだ。やっぱり南部には今自分たちがいる国、レアリコ王国しか書いていない。地図を見る限りこの国の東側は山ばかり書いている。以前は国内の街を見ているだけで全体像をよく見ていなかったが最初から東側の山間部に注目すると東側がずっと山になっていて海岸線が書かれていない。東西の縮尺も合っていないかもな。


 これは他の地図も同じだった。どの地図も、きっちりと海岸線が書かれてあるのは西側だけだ。北側は国境線とその北にあるチストーナ国の南部が書かれてあるが北の海岸線は書かれていない。これはまぁ他国だからということで分からんでもない。南部はポロの南側に海岸線が書かれてある。ただこれは本当に調査したのだろうか。元々こちらの世界では詳細な地図は国家秘密になっている。日本じゃ信じられないけど過去からそうらしい。


 したがって市販されている、つまり一般人が見る地図というのはかなり適当に書かれているものが多い。国内にある大きな街の位置関係がわかればいいだろう。という感じだよ。


 それでも国民は普通に生活できている。元々ほとんどの人たちは国内を移動することがない。せいぜい自分の街と隣町くらい。長距離を移動するのは商人と冒険者達。言い方は変だけど適当な地図で十分なんだろうな。商人も冒険者も街に続く道が間違っていなければいいんだろうな。


 地図を閉じると今度は大陸と書かれている本に目を通す。どの本を見ても大陸といいながら書かれているのは自分たちの国とその北側にある国のことだけだ。初めて北にある国の名前がチストーナ国というのを知ったよ。


 ただ収穫はそれだけだった。どの本にも他の国の名前が出てこない。俺たちの様なへそ曲りの連中でないと違和感を覚えない程にどの本も自然に2カ国だけの記載になっていた。東?東は山しかないよ! そんな書き方だ。本当に東側には何もないのか、それとも調べようとしていないのか、調べたけど隠しているのか。



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