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第67話


「よその世界云々の話は今は置いておいて、あとは先生がおっしゃる様に折角魔法が存在するのに勿体無いと考えているのはその通りです」


 先生の誘いに乗らずに切り返すカオリ。俺にはできない。


「先生は以前時空魔法や召喚魔法の存在を知ったら2つの選択肢しかないと仰ってました。今でもそうお考えですか?」


 ユキが聞いた。やっぱりこの場は2人に任せよう。

 しばらく目を閉じて考えていた先生。目を開けると俺たちに顔を向けた。


「私は最近ずっと悩んでいる。時空魔法、召喚魔法、そして今日見た魔法剣もそうだが、お伽話の世界の魔法と言われていたものが実際に存在し、それを身につけた者たちがいる」


 そこで一旦言葉を切った先生。


「最初はお前さん達が身につけた時空魔法、召喚魔法について詳しく書いて大勢の人に知ってもらおうと考えていた。今お前さんたちが言った理由と同じだ。新しくて便利な魔法が存在しているのにそれを知らない、使えないのは勿体無いとな」


 先生の話を黙って聞いている俺たち。先生も頭の中を整理しながら話ている様でところどころで言葉が途切れる。


「この前私が言っただろう?お前さんたちがこの新しい魔法を使えると知れば王家のお抱えになるか殺されるかだと。後でもう一度考えたら王家のお抱えになることはないだろうと気がついた。つまり投獄されて死刑になるだろう」


「どうしてですか?」


 カオリが聞いた。ユキもなぜ?という表情だ。もちろん俺もそうだ。便利な魔法を覚えて殺されるってどういうこと?と思っている。


「お前さん達は3人とも良い人だ。ただ人間は良い人ばかりではない、中にはそうではない人たちも多くいる。そして悪人の中には魔法が使える者もいる」


 ん?どう言う事?普通の人は生活魔法だけじゃないの?普通の人も冒険者の様な魔法が使えるの?頭がこんがらがってきたよ。


「どこの街にも暗部があり、犯罪者の集まり、マフィアと呼ばれる暗部に巣食っている者たちがいる。彼らは酒場やレストランからみかじめ料を徴収すると同時に敵対している相手とは絶えず闘争を繰り返している。そしてそのマフィアと呼ばれている連中の中には元冒険者というの者がそれなりにいる」


 先生がそこまで話をしたところで俺たちは先生が言いたい事に気がついた。俺たちの表情を見た先生が気がついた様だなと言った。


「はい。悪人がこの魔法、特に移動魔法と浮遊魔法を覚えると犯罪の質が根本から変わりますね」


「カオリの言う通りだ。相手を殺した後に転移魔法で逃げると捕まえることができない。塀を作ってもそこを浮遊して飛び越えてこられたらどうしようもない。同じ事は王家にも言える。王城の厳しい警備も空を飛んで移動すれば関係ないし、万が一囲まれても転移の魔法で逃げられる。王家としたら安心して夜も寝られないだろう。

 転移、浮遊魔法について私は今、塀を飛び越えるとか人を傷つけから逃げると言ったがが実際それができるのはかなり魔力量が多い者に限られる。そこまでやれる程魔力の多い魔法使いはそうはいないだろう。ただ国としては魔力量の大小に関わらずその魔法を使える者は危険分子として排除するだろう」


 つまり「俺、転移したり浮いたりできるんだぜ」って自慢したら捕まるってことか。これは益々魔法の使い所を注意しないといけない。


 黙り込む俺たちを見ながら先生が話を続けた。


「この国では生業に就く時には推薦状というものが必要だ。唯一冒険者だけが推薦状の不要な職業だ。身元が怪しくでも犯罪歴がなければあとは何も聞かれない。もちろん今は冒険者ギルドとして管理しているしそれは上手くいっているんだと思う。ただ転移できる。空を飛べるとなった時、ギルドが今までの様にしっかりと冒険者達を管理ができるのかな?」


 金で転ぶ奴が出てきそうだし、新しい魔法を覚えたことで性格が変わって犯罪行為に手を染める奴が出ないとも限らない。


 俺たちが黙っていると先生が言った。


「この世界は今この世界に存在している魔法や技術に基づいて暮らしやすい様に作られた世界だ。転移をしたり空を飛ぶということを前提にしている世界ではない。私は変わり者だと言われ続けて来たから書物に書いても何もされなかった。魔法学院勤務時代は時空魔法も召喚魔法も使う事ができないということを周りが知っておったから変わり者という評判で済んだ。これがもし私が転移の魔法を覚えた。そう知れるとすぐに拘束されるだろう」


 怖い話だと思ったけどよく考えたら国家として当然の対応になるんだろう。好き勝手に転移したり空を飛んだりされたらたまったもんじゃない。


「よくよく考えた結果、お伽話で済ませていた方がこの世界にとっては良い事なんじゃないかと思い始めている」


 しばらく誰も何も言わない。


 時間が経ってからカオリが言った。


「分かりました。そうなるとやっぱり私たちは誰にも言わない方がいいですね」


「この世界の理を変えることがこの世界に住んでいる人達にとって幸せとは限らないってことですよね」


「カオリとユキの言う通りだ」

 

 どうやらこの魔法は俺たちだけで終わりそうだな。そう思っていると、


「収納魔法。これについては世間に発表しても良いかとも思った。ただこれも時空魔法というカテゴリーに分類されている。万が一収納魔法を覚えた魔法使いがその流れで転移や浮遊の魔法を覚えてしまうという事も十分に考えられる」


「なるほど」


「なので私は今まで書いてきたメモや原稿を全て破り捨てた。記録は残さない方が良いからな。辛い判断だがこれが一番良いんだと思っているよ」


 悩みに悩んだ上の結論だよ。そう付け加えた先生は今日最初に会ったときよりもスッキリした表情をしている様に見える。俺たちに話をして気持ちの整理がついたんだろう。


「魔法剣はどうでしょうか?」


 カオリが聞くとう〜んと声を上げる先生。


「魔法剣は今日初めて見たところで正直どうなるのかが分からない。時空、召喚魔法以上に御伽話の世界で存在する剣という認識になっている。ただ恐らく時空魔法や召喚魔法と同じだろう。今まで見た事がない剣を使える者は国から見れば脅威となる」


 先生の言葉に分かりましたと言ってからカオリがこっちに顔を向けた。


「ユキ、ユイチ。私たちが会得した新しい魔法の取り扱いについて私はナッシュ先生の意見に同意なんだけどどうかしら?」


「今のお話を聞いていると先生の仰る通りにしておいた方がいいかもね」


「賛成。拘束されたくない」


 3人とも先生の話しに賛成する。


「先生はそれで悩まれていたんですね。ご迷惑をおかけしました」


 カオリが頭を下げるとユキと俺もそれに続く。


「構わんよ。お前さんたちのことは誰にも言わないし書物にも残さない。この世界のことはこの世界の人間に任せるのが良いだろう」


 先生は俺たち3人が異世界から来たって決めつけて話をしているがそれについてはカオリもユキもイエスともノーとも言ってない。言ってはいないがお互いに分かり合えているという状況だ。言葉の駆け引き、やり取りってこうやるんだ。勉強になるよ。


「書物には残さないが私自身は自分が研究を続けてきた魔法が存在することをこの目で確認ができた。私の研究が間違っていなかったことをあんた達が証明してくれた。それだけで研究を続けて来た私は大いに満足している。あんたたちのおかげだよ」


 結局周囲から認められることはなかったナッシュ先生。だが当人は自分が研究してきたことをが正しかった。それが分かっただけで十分だと言っている。出来た先生だ。俺には無理だよ。口が軽いからついつい自慢しちゃいそうだ。そして捕まって死刑になってジ・エンド。


 その後は廃村は見つけたのかなという先生の問いかけにカオリが答える。丁度よい感じの広い洞窟が森の奥の誰もやってこない場所で見つかってそこで魔法の維持をするために鍛錬していると。


「それが一番良いだろう。一番良いというのは波風が立たなくてお前さん達も安心してポロの街で暮らしていけるということだ」


 ナッシュ先生との話が終わった。俺たちはお礼を言ってドランの街を出ると廃村からポロの街に戻ってきた。


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