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第66話


 前回は俺が1人でドラン村まで飛び、先生と一緒に廃村まで来て貰ったが今回は3人でドラン村を訪ねることにした。外が真っ暗になった頃に自宅の庭に出た俺たち。自宅の庭とはいえ一応周囲を警戒する。


「大丈夫みたい」


「ユイチ、飛んで」


 両腕にしがみついているカオリとユキから左右の耳元で囁く様に言われて興奮してきちゃった。いやいや、そんな事をしている場合じゃない。魔法を唱えると事前にマーキングしている森の中に飛んだ。その後も数度転移を繰り返し、夜明け前に廃村に着いた。周囲が明るくなってから俺たち3人は別れて精霊のレムが作ってくれた柵や廃村の中の様子をチェックする。俺も柵や家の様子を見て回ったが誰かが来たり壊したりした形跡はない。


 3人がそれぞれの方向から村の中央に戻ってきた。


「どうだった?私のところは変化なし」


 3人が揃ったところでカオリが言った。


「誰かが来たという形跡はなかったわ」


「俺が見たところも何もなかった」


「じゃあ飛びましょう」


 廃村から再び転移をし、村の近くの森に飛んだ俺たちはそのまま森から草原に出るとドラの村を目指して歩いていく。この辺りは魔獣が徘徊していない。だから先生もここから歩いて帰ることができた。


「この辺りは安全なエリアだから村があるんでしょう」


「魔獣がいないエリアがあるってポロじゃまずないわよね」


 カオリの言う通りだ。ポロ近郊だと森に入るとランクや頻度は別にして大抵の場所に魔獣が徘徊している。やっぱり南部は魔獣が活発に活動をするエリアなんだな。だからこそ俺たちの様な冒険者がそれを生業にして生活ができる。


 最初に出向いた街がポロでよかったと改めて思った。このエリアだと全く稼げないだろう。冒険者も来ないはずだよ。


 歩いていると昼頃に以前見たドランの村を囲っている柵が見えてきた。村に入ってその外れにある先生の一軒家のドアをノックすると少ししてからドアが開いて中から先生が顔を出した。


「あんた達か。入りなさい」


「お邪魔します」


 開けられたドアから家の中に入るといつものリビングに案内された。勧められたソファに座って正面の先生の顔を見るとあまり顔色が良くないみたいに見える。先生を見てそう思っていた俺。カオリとユキも同じ様に感じていたみたいでソファに座るなりカオリが言った。


「先生、顔色がよくありませんが大丈夫ですか?」


「もう年だからな」


「無理はなさらないでくださいね」


 分かっておると言った先生。それで今日ここに来た目的は?と聞いてきたのでカオリが魔法剣を会得しましたというとびっくりする先生。


「本当か。見せてくれ」


 自分が研究していたことが次々と現実になっているんだもの興奮しないはずないよな。俺たちは先生の自宅の庭に出るとカオリが先生の前で魔法剣を披露する。それを食い入る様に見ている先生。


 俺が収納から薪を取り出すとカオリは火の魔法剣でその薪を真っ二つに切った。薪の切り口が燃えて焦げている。


「見事だ。剣先に魔法が乗っている。これこそ魔法剣」


 もう一度見せてくれと言うのでもう一回薪を火の魔法剣で切ると、片手剣の剣先と切られた薪の切り口が火で焼かれて黒ずんでいるのを見てうんうん、やっぱり存在していたかと頷きながら呟いている。


 家に戻ろうかと言うので庭から先生のリビングに戻ってきた。先生の向かいのソファに俺たち3人が並んで座った。毎回そうなんだけど先生、俺たちが来てもお茶も出さないんだよな。学者ってそう言うところには気が回らないんだろうか。それとも元々無頓着な人なのかな。いや、別にお茶が欲しいとかジュースが欲しいとかじゃなくってさ、ほらっ、一応来客には飲み物だしたりするじゃない。そう言うことだよ。


「ユイチのアドバイスがあったんですが、剣に魔力を流そうと思うと上手くいきませんでした。生活魔法を剣先に送り込む。剣と腕を一体化する感覚で腕全体に魔法を流すというイメージが私には合ったみたいです」


 俺がこの家では飲み物が出た事が出ないぞ、とか思っている間にもカオリは魔法剣を会得した経緯を先生に話している。今回の主役は彼女だ。俺はとりあえず飲み物の話は忘れて黙ってやりとりを聞くことにした。カオリの説明に頷きながら聞いていた先生が顔を上げた。


「持っている剣に魔力を流して魔法剣を発動させるという発想ではいつまで経っても魔法剣は会得できない。魔法剣を使うのは剣を持っている戦士だ。元々魔力量が少ない戦士が魔力を流して魔法を発動すること自体に無理があるは話だ。それに対して生活魔法の延長だという考えは目から鱗だな。多くの人は生活魔法を使うことができる。ただいつの間にか生活で使う魔法と戦闘で使う魔法とは全く別物だという思い込みが魔法剣という存在を難しいものにしていた。そういうことか」


 流石にずっと研究をしていただけあってカオリの説明から自分の考察をまとめあげていく。王都の魔法学院の先生をしてたから当たり前なんだけど頭がいいよ。


「時空魔法、召喚魔法に続いて魔法剣まで存在していたことが証明されたか」


 さて、ここからが本日のメインイベントだ。俺は腹にグッと力を入れた。発言はしないんだが自分なりに気合いを入れたんだよ。


「幻とかお伽話とか言われていた魔法。時空魔法、召喚魔法、そして魔法剣。全てがお伽話ではなく実際に存在していることがこれで証明されました。でもこの事を私たちは言うことができません。果たしてそれでいいんでしょうか?この世界にこんな素晴らしい魔法があると言う事をこれからも知らずに過ごしていいんでしょうか?」


 先生を見ながらカオリがそう言った。先生は少し間を空けてから言った。


「よその世界から来たお前さん達は新しい魔法があるのにそれを周りに伝える事ができない。勿体無い話だと思っているんだな」



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