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第64話


 ゴールドランクになっても普段の生活は変わらない。ここポロは他の街に比べて所属している冒険者のランクが高い。石を投げたらゴールドランクに当たるくらいだ。なので俺たちも目立たない。これはありがたい。ゴールドランクにはなったが地味に生きていきたいという思いは変わってないんだよ。カオリもユキも注目を浴びないってのはいいわねと言っている。


 収納魔法以外の時空魔法と召喚魔法は普段は使わずに生活している。もちろん自宅では各自が部屋や庭で鍛錬を続けていた。


 日々の地道な鍛錬を続けたこともありユキが浮遊魔法を覚えた。と言っても魔力量の違いなのか高さはせいぜい5、6メートル程だがそれでもすごいよ。俺と同じで浮くよりも浮いたまま移動する方が魔力を食うらしい。


「私も頑張らないとね」


 とカオリが気合いを入れている。


 俺は相変わらず日々の出来事を日記というかメモにつけている。個人的には時空魔法や召喚魔法が世間に広まった方が皆ハッピーだろうと思うが監獄に入れられると思うとそこまでやる勇気、根性がない。正義感からやってやろうじゃないか。なんてのは無理。


 ただこう言う魔法があってその取得のイメージは自分はこういうのをイメージしたとか、鍛錬はこうしたら良いと言うのは記録しておいた方がいいだろうと思っている。師匠じゃないけど自分がこの世界で生きた証を残しておこうと思っているだけ。誰も気が付かず、誰も見ないかも知れないけどそれでも構わない。書いた記録をどういう形で保存するかは決めてない。それは先でいいだろう。今は忘れる前に記録を書く方が大事だ。


 この日、夕食を終えて各自が部屋に戻り、俺は部屋で机に向かって日記を書いているとノックの音がした。ドアを開けるとカオリが立っていた。あれ?先週俺の部屋に来たばかりだけどまた?早くない?


「ユイチ、悪いけど庭で鍛錬に付き合ってくれない?。魔法剣が出来そうで出来ないのよ。もどかしくて」


「わかりました」


 不純でいかがわしいことを考えていた俺、反省。

 俺が部屋から庭に出ると片手剣を持ったカオリがリビングから出てきた。


「見ててね」


 そう言って右手に持った剣に魔法を流そうと集中するが剣には何の変化も起こらない。

しばらくそうやっていた彼女が全身から力を抜いた。


「全然でしょう?何がダメなのかしら」


「あと少しっていう感覚はあるんでしょ?」


「なんとなくだけど剣を持っている腕がいつもと違うという感覚はあるのよ」


「魔力が流れているからかな」


「そうだと思うんだけど違うのかなぁ」


 2人で話をしているとリビングからユキが出てきた。


「喉が渇いたからジュースを飲もうと思って降りてきたら2人が庭にいるからさ」


「魔法剣の鍛錬してたの。もう少しのところから全然進まないのよ」


 上手くいかないのが悔しいのかカオリがなんでだろうね、と言いながら片手剣の先で軽く地面を突いている。見ると剣の先に庭の土が付いているのを見た俺は手のひらから水を出して剣先を綺麗にする。


「ありがと。ユイチってよく気が付くよね」


「そう?」


 俺はカオリの言葉に返事をしながら剣に水をかけていたがふと気がついた。これって生活魔法と同じだ。カオリも生活魔法が使えるのは知っている。そう、剣に精霊魔法を乗せようと考えるから難しいんだ。精霊魔法は魔法使いというイメージがある。だから生活魔法を乗せるイメージはどうだろうか。


「ユイチ、もう綺麗になってるよ」


 カオリの言葉で我に帰る。地面を見ると水たまりが出来ていた。俺は立ち上がると2人を見る。


「ごめんごめん、それより今気がついたんだけどさ」


 そう言って自分の考え、片手剣に精霊魔法を付与すると考えずに剣を持っている手で生活魔法を使ってみるというイメージはどうかなと話をする。


「水とか火とかさ。それが出来たらあとは雷とか氷もできるんじゃないかな」


 俺の話を黙って聞いてくれていた2人。


「ユイチ、ここ最近冴えまくりじゃん」


「でもその通りかも。ちょっとやってみる。なんかイメージが湧かせやすいよね」


「剣の先から水を出すイメージかな」


「剣と腕とが一体化してるイメージだよ」

 

 そうそう。ユキの説明の方が分かりやすい。しばらくすると剣先が濡れてきたのがわかる。庭の灯りで剣の刃が濡れて光っている。


「いい感じよ。そのまま剣の刃の上を水を走らせてみて」


 次々と的確な指示を出すユキ。すると刃先の上を水が走り出した。


「それそれ。出来たじゃん。カオリ、次は火でやってみて」


「わかった」


 火はもっと分かりやすかった。片手剣の刃が赤く燃え出した。


「出来た!」


「おおおっ」


「カオリ、やったじゃん。完璧だよ」


「うん、ありがとう」


 カオリが魔法剣を取得したぞ。剣の刃の部分が赤くなっていてよく見ると小さな炎なのかメラメラと燃えているのが見える。魔法剣って滅茶苦茶格好いいな。


 俺は収納から薪を取り出した。野営の時のために薪は常時持っている。その薪をカオリが火の魔法剣で切ると、綺麗に2つに切れた切り口が燃えた後の様に黒くなった。


「すごいね。切るという威力に加えて精霊魔法の効果があとから出るんだ」


 一度成功するとカオリは次からは問題なく発動することができる様になった。俺たちが魔法を覚えた時と同じだ。一度覚えると次からは簡単にできるんだよな。


 ただカオリは魔力量が多くない。いつも魔法剣を使うことはできない。ここ一番の時だけだねと言っている。もちろん人前では使わない。


「祝杯よ!」


 ユキが言った。元々は明日は活動日だけど関係ないね。カオリが魔法剣を取得したんだ。明日は休みにして今日は飲もう。パーティメンバーがこの3人で同じ家に住んでるから何とでもなるよな。


「ユイチが生活魔法の応用だと言ってくれたからだよね」


「そうそう。それにしてもさっきも言ったけどさ、最近ユイチ冴えまくってるね。何かあったの?」


「何もないよ。たまたまじゃない?」


 俺が言うとまたぁとか、謙遜しちゃってとか言われるが偶然だと思ってる。思いついたことがそれこそたまたま正解だったんだよ。2人からは召喚した精霊の名前を付ける時から冴えてたと言われているが、あのネーミングは冴えているとは言わないだろう。そう思うけど2人の前でそれを言うと何十倍にもなって返ってくるのを知ってるから黙っているに限る。


「いきなり精霊魔法を付与させると考えずに生活魔法を使うところから入るのが盲点だったわね」


「攻撃のことばかり気にしてたから余計な力が入って魔力の流れが悪かったのかもね」


「俺もそう思う。精霊魔法と考えるとどうしても威力を出そうと力んでしまいがちだよね」


 ユキと俺は魔法が使えるから魔力の使い方に慣れている。カオリは今まで無意識に使っていてそれを意識することで変に力が入ってたんだろう。


「でもこれで3人ともお伽話だと言われていた魔法を会得したわね。先生に報告に行かないとね」


 そうだ。魔法剣をマスターしたらナッシュ先生の村に行くことにしていたんだ。カオリが覚えたってことで浮かれていて先生の件をすっかり忘れていたよ。


 その後の話で森の奥の第二の拠点近くで魔獣相手に魔法剣を実践して問題なければ先生の村に行くことになった。


「明日は休みにするよ。今から飲むよ。ユイチも飲んで」

 

 そう言って空になった俺のグラスに酒を注いでくれるユキ。カオリも飲め飲めと酒を勧めながら自分も飲んでいる。今日はカオリが魔法剣を身につけためでたい日だ。もちろん俺もガンガン飲むぞ。


 翌朝目が覚めるとリビングのソファにカオリとユキがだらしない格好で寝ていて、俺は床の上に寝ていた。このシーンは以前もあった気がする。でも祝杯をあげたんだからいいよな。


 俺はテーブルや床に散乱している空ビンやグラス、お皿を片付けるともう一寝入りと自分の部屋に戻ってった。


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