第63話
偶然だけど理想的な第二の拠点、鍛錬場が見つかった。洞窟の中が暗いのでポロの街のアイテムショップで魔道具の灯りを買った。これでバッチリだよ。
新しい拠点には2週間に1度ほど訪ねてそこで鍛錬をしている。洞窟の中でユキは精霊を召喚して親密度を高め、カオリは精霊魔法、そして俺はというと洞窟の中で浮き上がったり降りたり。各自がそれぞれ目的を持って鍛錬していた。
朝ポロの街を出ると歩いて師匠の洞窟を目指す。そこから魔獣を狩りながら奥に進んで第二の拠点で夜を過ごし、翌日は拠点で鍛錬。昼過ぎに拠点を出るとまた森の中で魔獣を倒しながら師匠の洞窟で2日目の野営をして3日目の夕方にポロに戻ってくる。2週間に1度は2泊してというのがルーティーンになった。
第二の拠点に向かう途中で魔獣を倒していくが、必然的にゴールドランクの魔獣を倒すことが多くなってきたが、最初の頃ほど討伐に時間が掛からなくなっていた。こっちも成長してるんだよ。ゴールドランクをターゲットにしていることもあって冒険者としての報酬がよくなっている。大金持ちじゃないけど小金持ちにはなっていて武器や防具を買い替えるのにいちいち残高を気にしなくてもよくなっていた。
命と引き換えに魔獣を討伐している冒険者達は皆高級取りだ。俺たちもかろうじてその仲間入りをしているって所だろうか。幸いにして命と引き換えになるほどやばい場面には遭遇していない。楽とは言えないけどそこそこでお金を得られるこの生活は自分にとっては快適だよ。
このパターンを繰り返していた俺たちは自分たちが気が付かない間にポイントが貯まっていた様で。この日活動を終えたカオリがギルドに出向いたと思ったらすぐに俺たちを呼びにきた。
「ポイントが貯まってたみたいでゴールドランクに昇格だって」
「そんなに貯まってたの?」
ユキが言っているが俺もびっくりだよ。まさかのまさかだよな。ゴールドランクだよ。一流だよ。俺みたいなチキンの男が一流になっていいのか?
3人でギルドに出向くとギルマスの部屋に案内された。一度会っているこのポロのギルマスのスミス。大柄な男が俺たちを出迎えた。相変わらず威圧感があるんだよ。俺はビビちゃうけどお姉さん2人は平然としている。
「お前さんたち3人はほぼ毎日魔獣を倒している。その中にはゴールドランクの魔獣の魔石も入っている。討伐ポイントはゴールドランクを倒した方がずっと多い」
そりゃそうだろう。ゴールドランクの方が強いんだもの。と思ったが黙って話を聞いている俺。
「少しずつポイントが貯まっていて今日のポイントでゴールドランク昇格の基準をクリアした。今からお前さん達はゴールドランクの冒険者になる」
カオリとユキがありがとうございますと言ったので少し遅れて俺もありがとうございますと頭を下げた。こういう時は人生経験が豊富な2人のお姉様の通りにすると問題ない。
「ゴールドランクは一流冒険者という位置付けだ。ランクに恥じない様にこれからも頑張ってくれ」
新しい冒険者カードにはしっかりとGOLD RANKと印字されている。ポロに来た時はブロンズでOKだと思っていた俺がゴールドになっちゃったよ。
新しいカードを受け取った俺たちはギルドを出ると市内のレストランで祝杯をあげた。
「目標のゴールドランクになったわね」
「長かった様な短かった様だ」
ビールを飲んで料理を食べながらそんな話をする。気がつけばあっという間だった気がするよ。自分でもよく頑張ったもんだ。一つのことがここまで長続きしたのは初めてじゃないか。これをしないと生きていけない。そう思うと頑張れるものなんだ。
「ゴールドになっても私たちの生活のリズムは変えない。これでいい?」
カオリが言うがもちろん俺に異存はない。元々地味に生きたいと思っているし変にパターンを変えられる方が困る。ユキも問題ないと言っている。
「じゃあこれからも今まで通りで。とりあえず明日師匠に報告に行きましょうか」
「そうだね。師匠と同じランクになったし報告しよう」
翌日俺たちは自宅を出ると師匠の洞窟に出向いてゴールドランクに昇格をした報告をした。師匠は何も言ってはくれないがきっと喜んでくれているだろう。
俺は師匠の亡骸を前にして心の中で師匠に報告をした。
ポロの街で冒険者登録をした時は死ぬまでブロンズでいいと考えていましたが、なんと師匠と同じランクになっちゃいました。おまけにいくつか新しい魔法まで会得できました。この洞窟で師匠に会ったから自分もここまで成長できたのだと思います。これからも引き続きよろしくお願いします。
「ずいぶん長くお祈りしてたわね」
祈りを終えて頭を下げた俺が顔を上にあげるとカオリが言った。
「色々と報告をしていたんだよ。なんと言ってもこの世界で生きていく術を教えてくれた恩人だから」
「ユイチがこの師匠の洞窟を見つけたから私たちもすんなりとこの世界に入れたのよね」
ユキが言った。そう考えると色々と感慨深いものがあるよ。運というのか縁というのか。俺は運がないのには昔から自信があったが、そんな俺が最初で最後に幸運に恵まれたのがこの洞窟を見つけたことだと思っている。
俺たちは洞窟を出ると山裾を歩いて魔獣を倒しながら第二の拠点、洞窟に出向いた。そこで野営をする準備をして洞窟の中で夕食を食べている時にカオリが言った。洞窟の中はいくつか置いてある魔道具で明るい。
「ドラン村のナッシュ先生への報告はどうする?」
「先生って冒険者のランクに興味あるのかしら」
「そうだよね。学者さんだものね」
カオリとユキが話をしているのを食事をしながら聞いている俺。そのうちユイチはどう思うと聞かれるのはわかっているから食事をしながら自分の考えをまとめている。
「ユイチはどう思う?」
ほら来た。しっかり意見を準備していたぞ。
「ゴールドランクよりもカオリが魔法剣を覚えたあとでドランに出向いたらどうかな」
「ユイチにプレッシャーかけられちゃったわよ」
俺の言葉を聞いたカオリが言った。そんなつもりじゃないと言おうとしたらその前に冗談よとすぐに言ってくれたので安心したよ。
「先生から見たらランクよりも新しい魔法の方に興味があるだろうし、ユイチの言う通りにしようか」
「いいんじゃないかな」
ユキも賛成してくれた。行くタイミングは決まったがどうやって移動するんだ?
「行くときは道中は転移の魔法を使って移動する前提?」
俺が聞くとカオリがどうしようかと言う。ユキが俺に顔を向けた。
「今のユイチなら廃村までは森の中を連続で転移しても大丈夫よね?」
「問題ないと思う。夜飛べば見られないな。ユキもいるし、夜が明ける前に廃村に着くよ」
「じゃあ先生の村に行く時は転移の魔法で行きましょう。歩いて行くとなったら往復で1ヶ月以上かかっちゃうしね」
カオリが魔法剣を会得しないとねと言っている。彼女もここではもちろんだけど自宅の部屋でも鍛錬を続けているそうだ。皆根は真面目なんだよ。
「あと少しかなって感覚はあるんだけどね」
「その感覚があるのなら会得は近いわよ。私の魔法もそうだったし、ユイチもでしょう?」
「そう。今までとは違う感覚があるのならゴールは近いと思う」
「ありがとう。引き続き頑張ってみる」