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第62話


 俺たちは先生のアドバイスを守って自宅や自室以外では時空魔法、召喚魔法を一切使わずに生活を送っている。これが当たり前というか普通なんだけどな。


 自宅にいる時、ユキは部屋ではサクラを呼び出しているし、カオリは部屋で魔法剣の取得の鍛錬を続けている。俺は部屋で浮き上がったり、後は庭と部屋を何度も転移したりしていた。


「魔力を剣に乗せるというイメージがうまくできないのよね」


 夕食の時にカオリが言った。彼女に言わせると今まで体内の魔力を魔法として表現することをしてこなかった事もあって簡単じゃないという。そりゃそうだろう。戦士のジョブの人で魔法と真面目に取り組んでいる人なんていないからな。そんな暇があったら素振りしようってなるよ。


 イメージが合ってないのかなぁとか言っている。


「いきなり剣に魔法を乗せようと思うから難しいんじゃないかな。まずは魔法を使ってみたら?」


「どういうこと?」


 俺が言うとカオリが俺の顔を見てきた。目が真剣だよ。隣でユキもじっと俺を見ている。美人二人に見つめられると緊張するんだよ。


「うん、魔法の威力は別にしてさ、魔力があるってことは魔法が使えるって事でしょ?まずは剣無しで精霊魔法の練習をしてみるのもありかなと思ったんだよ。魔法に慣れるって言うの?そんな感じ」


 俺が言うと二人がなるほどと言った表情になる。確かに普段魔法を使わないしねとカオリ。


「ユイチ、ここ最近冴えまくりじゃん」


「どうしたの?何かあったの?」


「まさか私たち以外に彼女ができたとか。じゃないわよね?」


「えっ!」


 そう言われてびっくりしたよ。考えたこともないし、すぐに全身を使って否定する。その俺を見て笑い転げている二人。


「冗談に決まってるじゃない。ユイチのそんな素直なところも好きなのよね」


「そうそう。本当に純真だよね」


 そう言ってから二人とも夜は違うけどねとぼそっと言った。どう言う事だ?聞きたいけど聞けない。


「今ユイチが言ったのはいいアイデアだよ」


 ユキは今自分たち言った言葉を忘れたかの様に普通にカオリと話をする。


「確かにね。段階を踏んだ方がいいかも」


「でもカオリは魔力量が多くないから気をつけてね」



 この日いつもの森での活動を終えると師匠の洞窟で夜を過ごす。明日は山に沿って森の奥を探検する予定だ。この洞窟から奥に半日ほどの距離まではゴールドランクの敵を倒すために何度も行っているがその先は行っていない。未知のエリアだよ。


 高い場所にある洞窟から森の奥を見てもずっと奥まで森が続いている。この森の先はどうなっているのか、あるいはこの洞窟以外に自分たちが探している広い洞窟があるのか。


 以前の俺ならそんな物騒な場所に行くとなったら全力で拒否していただろう。ただ今回は自分から提案している。この世界に長くいて最初の頃より考え方が変わって来ているのを感じている。少しは成長しているのかもしれない。


「この洞窟を起点にして奥の方を探検するけど、最悪は転移魔法でここに戻ってくるってことでいいのかな?」


 洞窟で休んでいる時に二人に聞いた。


「本当に最悪の場合だけにしましょうよ。リンクしてにっちもさっちもいかなくなった時だけにした方がよくない?」


 カオリが言うとユキもそれでいいと言う。師匠が亡くなってから俺がこの洞窟を見つけるまでの何十年間、ここには誰も来ていない。この洞窟も偶然見つけたもので普通なら目につかない場所にある。地上から20メートル程の高さにある洞窟だが、その入り口は森の奥側からでないと見られない位置にある。俺は飛ばされた時の場所が洞窟よりも森の奥よりだったので偶然見つけることができたが、森の入り口から来ると山裾を回らないと洞窟が見えない場所にある。


 そんな場所にあるので大丈夫だとは思うがそれでも用心するに越したことはないと言う二人。油断禁物ってことかな。


 しっかりと洞窟で休んだ俺たちは師匠に頭を下げてから奥の探索を始める。洞窟付近はある程度知っているので山裾に沿って森の中を奥に進みながらシルバーランクの魔獣を倒していた。奥に進むと昼前にランクが上がってゴールドランクの魔獣がちらほらとで出した。ここらあたりがいつもの狩場でこれから奥は3人とも行ったことがない。この辺りで師匠の洞窟から半日ほどの距離になる。


「ここからね」


「何か見つけたら声を掛け合いましょう」


「了解です」


 

 奥まで続いている森、俺たちは山裾にそって奥に進んでいた。シルバーランクの敵がいなくなり出会うのはゴールドランクばかりだ。幸いにしてまだ魔獣と会う頻度がそう多くないので助かっている。俺はリンクしたら嫌だなと思いながら歩いていた。


 山裾は自分たちが歩く方向の左手にずっと伸びているが、歩いている先が大きく左にえぐれているというか曲がっているのが見えていた。そこまで行ってみようということになってゴールドランクの敵を倒しながら進んんでいき、山裾に沿って左に曲がって少し進んだ頃、聞き慣れた音がしてきた。


「川がありそう」


「ほんと。これは水の流れる音ね」


 そこから200メートル程歩くと目の前に川が流れているのが目に入ってきた。左手の山から流れて来ている。川幅は10メートルくらいか、そして流れが早い。左を見るときつい崖の様になっていて登れなさそうだ、山裾側からは対岸に渡れそうにない。右を見ると10メートルの川幅で森の中に伸びていた。こちら側も見える範囲で対岸に渡れそうな場所はない。


「使えるね」


「これはいいわね」


 二人が話をしているが俺でもわかる。この川が自然の柵になっている。万が一ここまで冒険者がやってきたとしても向こう側に渡る術がない。森の中を下流に進んでいけばあるんだろうが高ランクの魔獣がいる森の中を移動することになる。普通ならそこまでやらないだろう。少なくとも俺は絶対にやらない。


「ここは飛んじゃおう。ユイチ、お願い」


「了解」


 俺の転移魔法で向こう岸に飛ぶと山裾に沿って再び歩き始めた。森の端を歩いているせいか魔獣と出会わない。向こう岸に渡って歩いていると再び山裾が左に曲がっている。それに沿って川も左に蛇行して流れているのが森の木々の先に見える。川が防波堤になっていてこちら側には魔獣がいないのかな?それなら安心だよ。


 歩いていくと山裾にボロボロになった小屋を見つけた。近づいてみると朽ち果てる寸前のボロ小屋だよ。かろうじてこれは小屋だったのかな。とわかるくらいだ。


「かなり古いわよ」


「村じゃないわね、周囲には他に建物の跡もないし」


「これって山小屋の跡じゃないの?」


「山小屋かぁ。でもこんな場所に?」


「川もあるよね。でも昔は橋がかかっいて向こう側と行き来ができたかも」


「その可能性はあるか。随分と古い小屋だしね」


 ボロ小屋の周りに立って話をしている3人。ふと気がついたが魔獣が全く見えない。俺が気が付く位だからお姉さん二人も当然気がついていた。俺が川が蛇行しているし防波堤みたいになっているかも。そう言うとその可能性もあるねと2人が言った。


「魔獣が来ない場所、あるいは少ない場所だとしたら良いかも」


「ユイチ、ここから師匠の洞窟までは飛べる?」


 カオリが顔を俺に向けて聞いてきた。


「歩いてきた距離からみても問題ないと思う」


 師匠の洞窟を出たのが朝で今は夕刻前だ。つまり師匠の家からポロの自宅までよりも距離は短いということになる。この距離なら問題ないな。


 俺たちは山小屋の周辺を探索する。山小屋の背後は山で前には森が広がっていた。


「この場所なかなか良いわよ」


「そうね。なぜか魔獣もいないし」


 2人がそんな話をしているのを聞きながら俺は周囲を見ていた。確かにここは良い場所だ。何と言っても川で仕切られている。その上魔獣の姿が見えない。一通り森の方を見る。川は山に沿って先に流れているが、魔獣の気配はない。


 俺は振り返ると背後の山を見た。ここらあたりは傾斜がきつくてしかも岩山だ。山登りは厳しそうだ。どこかに登れそうな場所はあるのかなとそのあたりをウロウロしながら山を見ていると立っている場所から30メートルほどの高さのところに洞窟っぽいのがちらっと見えた。少し出っ張っている岩の背後にあるので角度によっては下からは洞窟が見えない。


「あそこに洞窟っぽいのがある」


 俺が言うとどこ?と2人が駆け寄ってきた。俺が指差す方向に顔を向けた2人。


「本当だ。洞窟の入り口っぽいね」


「あの下の岩が出っ張っているから今立っているこの場所からしか見えないんだ。中はどうなってるのかな」


 カオリが言った。


「飛んで見てこようか」


 30メートルくらいなら浮遊の魔法でいけそうだ。


「そうね。お願いしていい?」


 俺は分かったと答えるとその場で浮遊する。上に上がると洞窟の入り口がはっきり見えてくる。奥は暗くて見えない。洞窟の入り口の岩が出っ張ってるのでそこに着地をすると入り口から恐る恐る中を覗いてみる。何かいたら嫌だなとは思うがその時は転移の魔法で逃げようと腹を括るとライトの魔法をつけて中に入ってみた。


 洞窟の入り口は幅3メートル、高さもそれくらいなんだけど中に入ると入り口よりもずっと高く、広くなっていた。奥行きは30メートルくらいはありそうだ。幅も高さも10メートルくらいはある。入り口だけが狭くて中は広い洞窟になっていた。


 この場所は使えそうだ。奥が行き止まりになっていて奥に続いている通路がないのを確認すると転移の魔法で2人がいる場所に戻ってきた。


「入り口は狭いけど中は広い。あの洞窟なら十分に鍛錬ができそうだよ」


 今度はカオリとユキを連れて転移の魔法で洞窟の入り口まで飛ぶと中に入っていった。


「広いわね。しかも行き止まりで奥に続いてないし安全」


 洞窟の中をぐるっと見ていたカオリが言った。


「ここ、鍛錬するには最適じゃない?万が一雨が降っても大丈夫だしさ、それにこの洞窟を見つけるのは簡単じゃないよ」


 そう言ってからよく見つけたねと2人が俺を褒めてくれた。


「いい場所見つけてくれたわね。でもこれって最初からあったのかしら」


 ユキが言ったがそれについては思いついたことがある。


「昔はここで何かを掘ってたんじゃないかな。中の空洞が自然にできたっぽくないでしょう?」


 そう言うと確かねにと言う2人。洞窟の中の床や壁がやけに綺麗なんだよな。綺麗ってのは壁が人工的に削られた様になっているんだ。


「山小屋が下にあったじゃん、ここで働いていた人たちの休憩所の跡かもしれない。あくまで予想だよ。ずっと以前はここは比較的安全な場所だったかもしれない。だから何かを掘ってたんじゃないかな。それが掘り尽くしたのか、あるいは高ランクの魔獣が現れ出したからこの場所から撤退したとか」


 俺は2人に話をしながらポロに戻ったら図書館で資料があるかどうか調べてみようと考えていた。


「ユイチ。すごいね」


「本当。冴えまくってる。惚れ直しちゃった」


 お姉さん2人から高評価を頂きました。


 この場所なら師匠の洞窟から転移の魔法で移動もできるし、下からは見つかり難い場所にある。しかも夜露もしのげるぞ。


 3人の満場一致でこの洞窟を第二の拠点にすることになりました。



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