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第61話


 翌日イグナスの村を出て東を目指す。昔は道があったんだろうが人がいなくなって30年近く経つと道だった場所にも草が生えていて道の名残りがほとんど残っていない。たまに轍の跡が残っているが、それだって注意しないと気が付かないほどだ。


 1日目はほとんど草原を歩いて日が暮れた。草原で野営をした俺たちは翌日東に進んでいくと森の中に入る。森に入るとブロンズランクの魔獣が現れ出した。


「この辺りから魔獣の生息地域なのかな」


「もう少し様子を見ないと分からないわね」


 倒した魔獣から魔石を取り出しながら話をしている二人。その間俺は周囲の警戒だ。森の中に入るとかろうじて道の跡が残っている。森の木々の間を縫う様にして道が奥に伸びていた。


「この先に村があったのならランクの高い魔獣が生息しているとは思えないわね」


「でも人がいなくなったから魔獣がここまで侵入してきた可能性もあるよ」


 この二人のやりとりは俺が気が付かない視点からの会話が多いので聞いているだけで勉強になるよ。


 ブロンズランクの魔獣が出ると言っても頻度は低い、たまに遭遇する魔獣を倒して森を抜けるとまた草原になった。2日目も草原で野営をする。


「魔獣のレベル、接敵する頻度が低いわね」


「事前情報通りね。でもポロからだと1回の転移では厳しそう」


 問題はそれなんだよな。完璧に見られない中で移動しようとすると1度の転移で移動できる場所が理想的だ。俺は1箇所思いつく場所があるが、その前に今から行く場所の様子を調べることが先だ。


 3日目の昼前に歩いていると北側の草原の先に柵の跡らしきものが見えてきた。そちらに足を向けると予想通りそこは廃村だった。村を囲っていたはずの木の柵は殆どが腐って崩れている。それを乗り越えて廃村の中に入っていった。中を一回りして村の中心部にある噴水跡にやってきた俺たち。


「小さな村ね。2〜300人くらいの人が住んでいたというからこの村ね」


「それくらいの規模ね。でもこの村は候補にはならないわ。街道跡を歩いていて目に入ってきたもの」


 ユキの言う通りだ。俺たちの様に道の跡を歩いて山に向かっていくとこの廃村は間違いなく目に入る。カオリもそうだよね、ここは広さはいいんだけど道から近すぎると言っている。


 廃村に入ったが結局すぐにそこを出ると今度は歩いてきた街道跡を越えて南のエリアを探すことにする。草原を歩いていると左前方に森が見えてきた。そこに生息しているのはブロンズランクの魔獣で森の奥に行くとシルバーランクもいた。ただ接敵する回数は少ない。


 森を抜けたら山が近くなっていて、その山から伸びている長い裾の先に廃村があった。この廃村もさっき見た廃村と同じ規模だ。この廃村がランザ村で先に見たのがコパ村だ。


「こっちの方がさっきの廃村よりはいいわね」


 村の周囲は背後が山で北側は歩いてきた森、南側はずっと先に山が見えているがあれは高ランクの冒険者たちが経験値を稼ぐために出向いているエリアだろう。


「とりあえずここから西方面に歩いてみない?廃村が2つしか決まった訳じゃないし、ポロから1日で転移できる距離の場所を探してみましょうよ」


 カオリの言葉で方針が決まった。とりあえず今日はここで野営をする。柵が壊れているとはいえ草原の中での野営よりは安全だ。


「正直この場所も100点じゃない。となるとレムに修理をさせたあの山の中の廃村が一番安全になるのかな」


「ユイチはどう?」


 二人が食事している間、近くで周囲を警戒している俺にカオリが聞いてきた。ここは言うべきか言わないべきか迷ったが、頭の悪い自分が悩むよりはお姉さんに聞いた方がいいだろう。


「ユキが言った様にここと北の廃村を比べると北の方がずっと安全だよね。ただそれとは別に1つ思いついたというか調査した方がいいんじゃないかって考えていたことがあるんだ」


 そう言うと二人から何処?と聞かれた。


「うん、師匠の洞窟の奥、あの森のもっと奥を探索するんだよ。と言っても森の中はゴールドランクの敵がいるから森を探索するんじゃなくて山を探索するんだ。ひょっとしたら広い洞窟があるかもしれない。もしあったらそこにはまず誰もやってこないだろう?森は高ランクがいるし山には魔獣はいない」


 俺が言うとカオリが続ける様に言う。


「師匠の洞窟なら転移しても見られない。そこから更に奥に転移するってことね」


「そう。拠点になる様な良い場所があるという前提だけどね。それに洞窟があったとしても鍛錬ができるくらいの広さと高さが必要だけど」


「探してみる価値はあるかもね」


 カオリが言うとユキもいいアイデアじゃんと褒めてくれた。お姉さん二人から高評価を頂きました。ただ話はこれで終わりじゃないんだよな。今回はしっかり考えてたんだよ。


「実はもう1つあるんだ」


「ユイチが2つも提案してくるって冴えてるじゃん」


「なになに?教えて」


「うん。もし良い拠点がないのなら拠点を作っちゃうんだ。ポロから近くて人が来なくて魔獣が少ない場所、そこに拠点を作ったらどうかな」


「それもありね。自分たちで作るのなら場所を選べるし」


「精霊に手伝わさせるって手もあるわね」


 カオリとユキがそう言ってから俺を褒めてくれた。ちょっとはお役に立ったみたいでよかったよ。


「明日はここからポロに戻りながら廃村か拠点を作るのに良い場所があるかどうか探しながらいきましょう」


 カオリが締めてくれた。


 廃村で夜を過ごした翌朝、俺たちはその廃村から西方向に歩いていく。まっすぐ行けばポロの街の南側に出るはずだ。途中で森があってそこにはシルバーランクの魔獣が生息しているが相変わらず固定数は少ない。滅多に戦闘にならない。


「魔獣が少ない、魔獣が弱いっていうのは条件としてはいいんだけどね」


「ただ見晴らしが良すぎるのがね。山の近くだと起伏があって見えにくくなるんだけど草原とか森だったら誰かに見つかる確率が高くなるわ」


 確かにこの辺りは基本起伏が小さくて遠くまでよく見える。魔獣が少ないのは冒険者が来ないという点と拠点を作っても安全度が高いと言うメリットはあるがそれ以上のデメリット、見つかりやすいというのが致命的だよ。


 結局帰路の途中に廃村はなく、また自分たちで拠点を作るに適した場所も見つからないまま今回の東方面の探索は終わった。


 ポロに戻ってきた俺たちは自宅で打ち合わせをする。1週間ほど家を空けていたけどやっぱりポロの街、自宅に戻ってくるとホッとするよ。夕食を市内のレストランで済ませた俺たちは自宅に戻ってきて各自がシャワーを浴びたところでリビングに集まった。


「変な言い方だけど最悪は先生の近くの廃村、あそこを第二拠点、魔法の鍛錬場にできるよね。それ以外はユイチのアイデアを採用して一度師匠の洞窟から奥を探検しない?」


「それがいいよね。要はさ、時空魔法や召喚魔法を使わなければずっとポロにいていいんだし。自宅の部屋や庭で鍛錬するだけでもある程度の水準はキープできると思うの。だから良い場所が見つかるまで妥協をせずに納得いくまでしっかり探した方がいいわ」


 カオリとユキの言う通りです。俺から何も言うことはありません。俺たちの生活、活動のベースはこのポロの自宅だ。魔法の鍛練の場所を探してはみるけど、無ければ無いでなんとかなるだろう。


「ユイチもそれでいい?」


「もちろんです」


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