第60話
翌朝ポロの街を朝早くに出た俺たちは東に向かって歩いていく。北に伸びている街道と違ってこちらの街道は道幅も狭く人の往来も少ない。
「やっぱりメインはレンネルに伸びている街道なのね」
「そうね。こっちは道幅も広くない。でもだからこそ可能性はあるよね」
二人が話をしながら歩いているのを聞いている俺。自分たちの目的から考えると人の往来は少ない方がいいよな。
途中の道で魔獣に出会うこともなく俺たちは昼を少し過ぎた頃に目的地であるイグナスの村に着いた。中に入ると想像以上に広い。結構村人が住んでいそうだ。
村の中に入って分かったが、ここは近くに川が流れていることもあって広い村の中には畑があり農作物がたくさん育てられている。作った農産物はポロ向けに売っているのだろう。見た限り裕福な村に見える。村の中には宿が3軒もあった。そのうちの1軒に部屋をとった俺たち。カオリが宿のフロントにいた女性と話をして村の状況を聞いている。ロビーで待っているとしばらくしてカオリがやってきた。
「やっぱりここより東には人が住んでいる村はないらしいの。それでこのイグナスの村ではここで採れたの農産物をポロに持ち込んで販売する商人が多くやって来るのと冒険者が村の周辺で魔獣を倒すこともあるので宿が3軒あるそうよ」
「村って言ってたよね。村にしてはかなり大きいよね。それに周囲の柵もしっかりしてる」
「そうね。村って言ってるのは畑があるからでしょう。農業で儲かって裕福な人が多いみたい。ユキが言った通り村の周囲の柵も頑丈な造りね」
女性二人が話をしているのを聞いている俺。この二人のやりとりを聞くだけでおおよその状況が分かる。確かに村の中を歩いている村人達の服装を見ても小綺麗な服装をきている人が多く、そして何より村人の表情が皆明るい。貧しい村の人たちってやっぱり表情も暗い人が多いんだよな。人の往来も多そうだし賑やかな村だよ。
宿のレストランで遅めの昼食を摂った俺たちは午後はバラバラになって各自で村の中の様子を探ることにした。もちろん聞くべきことはここから東方面の廃村のことだ。
バラバラになったが俺は正直人に物を聞いたりするのが得意じゃない。得意じゃないがだからと言ってあの二人を前にして、
「僕は宿でお留守番してまーす♪」
なんて言える雰囲気でもない。宿を出るととりあえず畑に向かってみた。いや、畑に何があるとかじゃなくて二人が宿を出て左右に別れて行ったから俺は前の道を歩いて行ったらその先に広い畑が見えてきただけなんだけど。
畑に近づくとおっちゃんが一人畑のそばに座っていた。50歳くらいかな?農業やっている人って健康なので年齢よりも若く見えるんだよ。
「こんにちは」
「こんにちは、冒険者さんか。魔獣の退治でやってきたのかい?」
俺の声に振り返ったおっちゃんが言った。
「まぁ、そんなところです。ところでここでは何を育てているんですか?」
「白菜やキャベツだよ。村にやってくる商人が買い取ってくれてポロの街のレストランに卸してるんだ」
「ここはポロから近いからいいですね」
「そうだよ。大きな街に近い。村には川もあるし土の質も悪くない。農業には適している場所だ」
「ポロから東ってこのイグナスの村が一番東になるんです?もう東側には村とか無いんです?」
俺は座っているおっちゃんの隣に腰を下ろして聞いた。おっちゃんは目の前の畑に顔を向けたまま話始めた。
「昔はあったんだよ。ここから山の方に行ったところに小さい村が2つあった。ただどちらの村もここから3日ほど歩くんだよ。そこでも野菜を作っていたがイグナスの方がポロに近いから商人はそこまで行かずにここで買い付けてポロに戻っていく。だから奥の村はずっと貧しい村だったんだ。それを見かねたこの村の村長が奥の村に出向いてイグナスに住まないかと移住を勧めたんだよ。奥の村にいても貧しいだけだってことで村人がこの村に移住してきたのさ。今から30年くらい前の話だよ。それ以来ここから東には村人が住んでいる村はないんだ」
イグナスの村が大きくて人が多いのは他の村の人たちを受け入れて大きくなったからだと教えてくれた。それと同時にこのイグナスの東には人が住んでいた2つの廃村があるということだ。
俺に話をしてくれたおっちゃんはイグナスの生まれだと言っていた。他の村の人たちがやってきて村が賑やかになるのはいいことだと喜んでいる。大らかだよな。
俺はお礼を言って宿に引き返すとしばらくしてカオリ、そして少し経ってユキが戻ってきた。宿のレストランで聞いてきた話しを擦り合わせる。最初に俺が畑のおっちゃんから聞いてきた話を二人にする。なるほどとかそうなんだとか言いながら話を聞いているカオリとユキ。
俺の話が終わるとカオリ、そしてユキの順でそれぞれ報告をする。俺が話を聞いた相手はこの村にずっと住んでいるおっちゃんだったが、カオリとユキが聞いた相手はよその村からの移住者だった。彼女達は廃村の場所や当時の村の規模まで聞いてきていた。俺が聞いてきた話よりもずっと内容が濃い。
俺は今日は結構頑張って調査したんじゃないかという自負があって二人に説明をしたんだけど、俺の後に話をした二人の方がずっと内容が濃いんだよ。ちょっと落ち込んだ。
「ユイチもちゃんと仕事したじゃない。私たちが街の中に先に行っちゃったから畑の方に行ったんでしょ?それでもしっかり情報を取ってくるなんてすごいわよ」
「ユキの言う通りよ。ユイチはしっかり仕事してくれたよ。3人が集まって皆同じ情報だったと言うのが大事なんだから何も気にしなくてもいいわよ」
お姉さん二人は優しいのでこう言ってくれる。落ち込んでいたのが少し元気が出てきた。その辺は気持ちの切り替えが早くなったと自分でも思う。要は単純なんだよな、俺って。
集めた情報を合わせるとここから3日ほど東に進むとコパと呼ばれていた村とランザと呼ばれていた村があるらしい。どちらの村も200名ちょっとの人が住んでいた小さな村だったそうだ。もちろん今は誰も住んでいない、廃村だ。この村から東に伸びていた道の先その南と北に村があったらしい。
「明日はここから東に進んでみましょう」
「場所の確認と魔獣のランクの確認」
「ここから3日の距離だとポロの自宅から1度の転移で直接廃村に飛ぶのは厳しいかも。俺は途中で転移できそうなポイントがあるかどうか探してみるよ」
「そっちはユイチ、お願いね。あと2つの廃村を回ってみて安全かどうかのチェック。周辺の魔獣の状況についてもしっかりと調べましょう」
思いついたことをこうやってお互いに口に出して確認する。これが大事なんだよね。
3日ほど東に歩くということは明日からは野営前提になるが事前に野営も想定して準備してきているので問題はない。打ち合わせが終わるとそのままレストランで夕食を摂った俺たちは明日の早めの出発に備えて各自で部屋でしっかりと休むことにした。