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第6話


 翌日、久しぶりにぐっすりと寝た俺は今部屋のベッドに座って考えていた。この世界で自分はどうやって生きていけばよいのか。とりあえず冒険者登録はした。つまり冒険者として生きていく訳だが冒険者とは街の外にいる魔獣を倒して魔石を取り出して生計を立てる職業らしい。


 自慢じゃないが俺はチキンだ。高校の時に弱小ラグビー部の補欠だった俺は喧嘩とか武道とは無縁の世界で育ってきている。ラグビーをやったのも親がちょっとは体を使えと言ったからで本当はボディコンタクトがあるスポーツなんてやりたくなかった。


 そんな俺が魔獣を倒してその身体から魔石を取り出すなんて事が簡単にできるとは思えない。ラニア先生は魔力が多いと言ってくれたが魔力の多さと戦闘力とは別だろう。それに師匠も言っていた。日本人がこの世界に来たからと言ってスーパーマンだった訳じゃないって。


 ギルドではシルバーランクが一人前の冒険者だと言っていたが俺は一人前になりたいとは思わない。最初飛ばされた先で無能だなとバッサリと言われたのがいまだに頭の中に残っている。トラウマだ。


 考えた末、俺はこの世界では冒険者として目立たない様にひっそりと暮らしていくことに決めた。冒険者のランクについては生活できる最低限の収入があるクラスで十分だ。上を目指して命を賭けるリスクは避けたい。このポロの街の片隅でひっそりと生きる。それならば命の危険はないだろう。魔法が多少使えるとは言ってもきっと大した事はないだろう。この世界には魔法が使える人が多そうだし。


 自分より弱い魔獣をちまちまと倒していても生きていけるだろう……と信じたい。


 地味に目立たない様に生きようと決めた俺だが今のこの格好はしっかりと目立っている。現に街の中に入ったときもチラチラと見られていたからな。方針が決まるとまずは外見をこの世界に合わせないと。と言うことで宿を出た俺は街の中をウロウロすることにした。


 街の中を歩いておおよそのこの世界の相場感を掴んだ。この世界では銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1,000円、そして金貨1枚は10万円のイメージだ。そう考えると師匠は結構な金額を俺に残してくれたみたいだ。感謝しかない。宿は1泊2,000円となる。初心者御用達なのでこれくらいなのかな。


 相場感を掴んだ俺は市内にある防具屋と武器屋に顔を出して装備を揃えた。防具屋ではズボン2本とシャツ2枚、それにローブを買った。俺が魔法使いだというとローブを持った方が良いと親父が勧めてくれた。シャツは動きやすいから買った。武器屋では杖と短剣を買う。短剣は薬草取りで使えるらしい。杖はこれまた魔法使いだと言ったら持てと勧めてきた物だ。装備や武器には一才特殊な効果が付与されていないらしい。ただ安いだけのものだが街の片隅で地味に生きようとしている俺にとってはそれで十分だ。


 ようやく周囲からチラチラと見られることがなくなった。


 街で防具や杖を買った翌日、ギルドに顔を出した俺は掲示板を見てどんなクエストがあるのかをチェックする。アイアンランクが受けられるクエストは多くない。見ると公園の清掃とか薬草取りだ。


 クエストの報酬は薬草取りだと中身にもよるが1日で銀貨6枚以上。公園の清掃は1日で銀貨3枚だ。当然だが街の外に出ない分報酬が安い。冒険者初心者の俺はまずは公園清掃からやるのがいいだろう。報酬が銀貨3枚なら1日の食費分には十分だし。クエスト用紙をちぎって受付に出すと行くべき公園の場所を教えてくれた。


 公園では詰所にいる職員さんから大きな袋を貰ってここに落ち葉を入れてくれと言われる。ゴミじゃないのかと思っていると、


「ゴミはないんだが落ち葉が多くてね。それを集めてこの箱の中に入れてくれるかい」


「わかりました」


 袋を貰って公園の落ち葉を集め始めたがこれがきつい。まず落ち葉が多い。日本と違って緑の落ち葉なんだがそこらじゅうに落ちている。最初は屈んで手で掬っては袋に入れていたが腰が痛くなるし効率が悪い。何か良い方法がないかと考えて魔法を使うことにする。以前日本にいた時に風で落ち葉を飛ばして1箇所に集めていたのを見た記憶があった。それを魔法でやってみようと。


 最初は魔法の加減が分からずに落ち葉が派手に吹き飛んで集めるどころじゃなかった。

俺は一体何をやってるんだ?


 何度か失敗をしてようやく力加減がわかると周囲から集める様に風魔法で落ち葉を1箇所に集め、小さな山を作ると今度は竜巻を起こしてその山を浮き上がらせる。浮いたところを上から袋を被せるとあっという間に落ち葉を袋に詰めることができた。これは楽だ。


 要領を覚えた俺はそれから夕方まで何度も袋をいっぱいにして公園の隅にあるゴミを集めている箱の中を落ち葉で一杯にする。職員の人がそれを見て驚いて言った。


「1日でこれだけ集めたのかい。一体どうやったんだい?」


 俺が魔法を使って集めたんだよというとまた驚かれる。


「あんた、魔法使いさんだったのかい。それにしても助かるよ。今まではこの半分も埋まらなかったんだよな。おかげで助かったよ」


 クエスト修了証をもらった俺はギルドに戻って銀貨3枚の報酬をもらった。この世界にきて初めての収入だ。聞くとこのクエストは継続扱いになっているらしくほぼ毎日あるのだという。


 その後も3日間連続で公園の清掃をした俺。流石に4日目は活動自体を休止して休みにしたよ。毎日働くなんて無理無理。大学ですら毎日行くのが億劫だったのに。


 休みの日は部屋でゴロゴロする。スマホもなければネットも無い。何も無いこの世界だが無ければ無いで何とかなるものだというのを俺は知った。午前中部屋にいた俺は昼前に街に出ると屋台で串焼きを買う。これが美味いのだ。1本銅貨3枚。300円だがタレが乗っていて美味い。聞くと外にいるオークという魔獣の太ももの肉らしい。魔獣と聞いて最初は抵抗があったんだが親父さんが言った。


「まぁ騙されたと思って食ってみな。病みつきになるぜ」


 屋台の親父が1本サービスでくれたものを食べると親父の言う通りだった。それ以来親父さんの屋台で2本、3本と串焼きを買うことにしている。3本も食べるとお腹がいっぱいになって十分に夕食代わりになる。栄養のバランス?そんなのは気にしない。俺にとっては安くて腹一杯になることの方が大事なんだよ。

 

 腹が膨らむと市内の図書館に顔を出した。この世界について最低限の知識を得ないと。


 ガラガラの図書館の中でいくつか資料を見たことでおおよそのこの世界の状況が分かった。ここポロの街は大陸の南部にあって南部を収めているレアリコという王国の中の1つの都市だ。北部にはまた別の国があるらしい。王様がいる王都はポロから北にずっと行ったところにある。ポロは大陸南部では最大の都市だと書いてある。そりゃそうだろう、すごく広い街だもの。


 このポロの街は季節的には常春で一年を通して大きな気温の変化がない。なので日本であった夏服や冬服といった衣替えも必要なくて年中同じ服を着ていることができる。そして常春で暑くもなく、寒くもなくてしのぎやすい街だ。


 南北の両国は条約を結んでいるので紛争状態にはなくお互いが自由に行き来できているらしい。人を殺す戦争が無いのが分かって安心する。ただこの大陸には魔獣と呼ばれている人を襲う獣たちが生息しており、彼らは人間を見つけると襲ってくる習性がある。それに対抗して各街は高い城壁で街を囲んで市内の安全を確保すると同時に魔獣退治を専業とする冒険者という職業を作って魔獣を倒している。師匠が言っていて俺が登録したのがこれだな。


 街周辺に生息している魔獣についても挿絵付きで説明があった。角ウサギは正確には一角ウサギというらしい。あとはスライムやゴブリン、オークなど多種多様の魔獣がいてそれぞれにランクがあるらしい。森の奥や山の中になるとランクが上がる。また平地では見なかった強い魔獣が現れる。


 資料を見ているとどうやら俺の様に身元が怪しい人は冒険者以外には生業につく手段がなさそうだ。仕事に就くのに誰かの推薦が必要とか言われても知り合いが誰もいない。


 資料によると国内の移動に制限はないと書いてあるが、この大陸南部のポロの街で目立たない様に地味に生きていくことに決めた俺にはここから移動するという選択肢はない。


 やっぱり冒険者として生きていくしかない。となると目立たない様にひっそりとソロで生きていこう。ランクはブロンズまで上がればいいだろう。最低限の生活ができればそれ以上望むことはないぞ。命と引き換えの報酬やレアアイテムなんてとんでもない話だ。


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