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第58話


 ポロの自宅に戻り、各自で休息をとってしっかりと休んだ次の日の午後、俺たちは自宅のリビングに集まった。もちろんこの日も休養日だ。


「さてと、どうしようか」


 カオリが最初に言って打ち合わせが始まった。


「先生は気づいていたみたいね」


 ユキが言った。


「それは間違いないね。そして先生が誰にも言わないというのは信用できると思うの」


 カオリの言葉に俺も頷く。収納魔法、転移魔法に続いて精霊まで召喚したとなると先生の様にずっとそれを研究し続けてきた人なら推測できるんだろう。そしてあの先生はペラペラと人に話す様な人じゃないって事は俺でも分かる。


「先生の様な人が特別で普通のこの世界の人達は私たちが他の世界から来たと気が付かないかも」


「でもそれはユイチの時空魔法やユキの召喚魔法を絶対に第三者に見られないという前提条件だよね。絶対にとなると今までの師匠の森への移動や森の中での召喚魔法も止めた方が良いかもよ」


「そうだよね。万が一を考えるとね」


 先生が言っていた万が一周囲が知った時の彼らに与える影響は、自分たちの想像以上だった。どう考えても王家のお抱えにはならないだろう。投獄か死刑になる確率が高い。自分達の常識外の魔法だ。昔読んだ本にあった悪魔狩りとかになるのかもしれない。かと言って転移の魔法で逃げるとしても一生お尋ね者になってしまう。


 私の意見を言ってもいい?とカオリが俺とユキを見た。二人が頷くと彼女が話始めた。


「とりあえず新しく覚えている魔法は使わずに歩いて狩場にいって敵を倒して帰ってくる。普通の冒険者を続けながら廃村についての情報を集める」


「情報を集めるのはいいけど、いずれはそこに住むってこと?」


 ユキが聞くとずっと住むという事じゃない。とカオリが言った。


「廃村とこの自宅の二重生活ね。ポロでは魔法を使わない。それは廃村でだけ使う様にするの。廃村というか2つ目の生活拠点、魔法の鍛錬場を持つという感じ」


 カオリはポロのこの自宅を手放して廃村でずっと暮らす気はないと言う。魔法を使わなければ周囲にバレないのだから二重生活をしないかという提案だ。


「一度でも見つかったら終わりと思った方が良いよね」


 ユキが言った。俺もそう思う。今まで見られなかったのはたまたまで、運が良かったと考えるべきなのだろう。


「ユイチはどう思う?」


 カオリが俺に顔を向けて聞いてきた。


「基本はカオリの考え方に賛成。拠点を2つ持つのはいいと思うんだ。それで2つ目の拠点だけどポロを起点にして人が来ないエリアを探した方がよくないかな?というのは距離が短ければこの自宅からの移動時間が短縮できるでしょ?ポロ周辺でも廃村になっている場所があると思うんだ。本当に安全な廃村が見つかったらここから転移でその廃村に飛べるかもしれないし。探していいのが見つからなければ先生が言っていたエリアを探したらどうかな」


「なるほど」


「確かに。あのエリア以外を探索するのはいいかも」


 俺の言葉にカオリもユキも賛成してくれた。


 話し合った結果、当面ポロとその近郊では時空魔法と召喚魔法は使わない。召喚魔法のレベル維持はユキが自分の部屋、あるいは庭でサクラを呼び出して技術の維持をする。俺も庭と部屋と中でのみ使って技術を維持する。自宅の庭が完全にプライバシーが守られているのは確認済みだ。自宅の庭だと呼び出せるのは小さなサクラだけになる。召喚魔法の鍛錬にはやっぱり廃村というか鍛錬場があると便利だ。


 ただ収納魔法だけは使おうと言うことになった。魔法袋が一般的なのでそこは大丈夫だろうという判断だ。もちろん人がいる前で暖かい食事や飲み物は取り出さない。それ位の判断は俺でも出来るぞ。


 日頃の活動の間に俺は図書館でポロ近郊の廃村の状況を調べ、カオリとユキは知り合いや街で情報収集をする。ある程度集まったところで情報のすり合わせをして良さそうな場所がみつかれば現地の調査に行く。ということになった。


 基本的に俺たち3人は有名になりたくないし、余計な干渉も受けたくないという点で一致している。幸いに冒険者をやっていることである程度の収入があるのでお金には困っていない。この生活を続けていきたいと考えている。


 目立つなんて滅相もない。元々この世界で地味に生きていこうと決めていた俺だ。今の状況は当初俺が考えていた地味とは意味合いが違ってきているがそれでも周囲から注目を浴びたり目をつけられたりするのは勘弁してほしいという気持ちに変わりはない。


 方針を決めた俺たちは早速それを実行することにする。自宅の庭から師匠がいる洞窟までは一度の転移で移動できる様になっていたがそれも使わずに城門を出て草原を歩き、森に入って洞窟を目指した。考えるとこれが普通なんだよな。


 朝にポロを出て洞窟についたのは夕刻前の時間だった。師匠の亡骸の前に花を置いてお祈りをした俺たちは日が暮れるまでの間、森で魔獣を倒し、洞窟で夜を過ごす。交代で一人が入り口を警戒している間に暖かい食事を摂る。今は俺が入り口にいて外を警戒しながらカオリとユキが中で食事をしていた。彼女達の声が聞こえてくる。


「考えたらさ、これが普通の冒険者の活動なんだよね」


「そうそう、この暖かい食事は別だけどさ、普通に歩いて移動するんだよね。そして日が暮れたら野営する」


「転移魔法が優秀すぎるから、それで移動するのが当たり前って思っちゃってたわ」


「いいんじゃない。早めに気がついて」


「本当だね」


 やりとりを聞いている俺もその通りだと思う。まだ誰も気が付かない間に方針を変更できてよかったよ。俺たちは洞窟の中で交代で食事をとり交代で睡眠を取った。


 移動時間が増えたことで収入が減るかなと思っていたけどそれまでも毎日持ち込まずに調整をしていたこともあり稼ぎはほとんど変わらなかった。3日働いて2日休んでいたのが3日働いて1日の休養になったくらいだ。


 考えたら以前はこのローテーションで回してたんだよな。以前のパターンに戻ったと思えばいいだけの話だ。ゴールドランクを倒しているのでそれなりに稼げているし自分的には問題がない。


 休養日、俺は図書館に顔を出した。相変わらず人が少ないがその方がありがたい。司書のお姉さんとも顔見知りなのでギルドカードを見せた時に挨拶は交わすくらいになった。心の中までは見えないが少なくとも愛想は良い。俺にはそれで十分だ。


 今までは魔法関連の書物を見ていたが今回からは地図と廃村に関する書籍を探す。俺には廃村を見つけるという使命がある。ここはしっかりとやってお姉さん二人から高評価を頂きたいところだ。


 地図は以前も見たが今回はこの国の交通網、街道や道がどうなっているかを見るつもりだ。ある程度の場所のあたりを見つけるとあとはギルドの資料室で魔獣の分布図を見て重ね合わせたらよいだろう。


 国の南部にあるポロの街。そこから南に道が伸びているのは知っている。歩いて2日ほどで村に着くが、道はそこで終わっている。そこから南のエリアは森と山になっていてランクの高い魔獣が生息しているエリアだということは以前から聞いていた。この南側は高ランクの冒険者達の狩場になっているので人が多い。このエリアは無しだな。


 ポロから西の方面は山がありその北側、ポロから見て北西の方角は師匠の洞窟と高ランクが徘徊している森だ。この辺りには村がないのは何度も通っているので知っている。ゴールドランクがいるエリアに村があるとは考え難い。誰も周囲が高ランクの魔獣がいるところに住みたいとは思わないよな。俺なら絶対にそんなところには住みたくない。


 東の山方面はどうだろう。地図を見ると東方面にも道が伸びているが人が住んでいる街を示す印がついているのは街のすぐ近くだけでその先も道は途中まで伸びているが山までは道は伸びていない様だ。別の地図を見ても同じだった。


 東のポロのすぐ近くにある街はイグナスと名前が書かれている。街なのか村なのかは行ってみないとわからないが場合によってはこのイグナスに出向いてそこから周辺を探索することも必要になるかもしれないな。


 ポロからイグナスまでは道が書いてあるがその先を見ると地図には全く道が書かれていない。ここは要チェックだ。


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