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第57話


「先生、今のお話ではこの国で生まれ、この国で育った人達は時空魔法や召喚魔法の会得は無理だという話になりませんか?でも先生は実際に収納魔法を会得されている」


 カオリが聞いた。相変わらず鋭い。彼女の言葉にその通りだと頷く先生。


「カオリの言っていることに間違いはない。だから私は学院でも変わり者と言われていたんだよ。それに収納魔法を会得できたのも学院を定年になって辞めてからずっと時間が経ってからだ。前にも言ったが私が収納魔法を覚えたというのは誰も知らない。学院に勤めていたときは周りから変人扱いだった。唯一の理解者というか協力者が今の副校長のアンだ。それ以外の人は私に近づいても来なかった。私が魔法学院にいた時、周囲の教師連中はまるで頭のおかしい人間に接する様な態度だったよ」


 そこで一旦言葉を切った先生。俺たちが黙っていると再び口を開いた。


「魔法の発動とはイメージの具現化である。それは時空魔法も召喚魔法も同じだ。ただあれはお伽話の世界の話でそんな魔法が実際にはあるわけない。頭の中でそう思っている人たちにイメージが持てる訳がない。しかも時空魔法と召喚魔法は精霊魔法や回復魔法と違ってイメージを作ることが難しい上に、それを会得する鍛錬は他の魔法よりももっと難しい。それは魔法を身につけているユイチやユキには分かるだろう。柔軟な発想をする者が新しい魔法を会得することができる。私はそう思っている。この国にもそう言う人間はいるとは思うんだが彼らが新しい魔法を会得したと聞いたことがない。子供の頃からの刷り込みがかなり強いんだろうな」


 先生の言葉に頷いている俺達。


「私はあんた達3人がよその世界から来ていようがいまいが全く気にしないし、誰にも口外する気もない。その前提でもう1つ教えてあげよう」


 そう言って先生はカオリに顔を向けた。


「カオリは魔力はあるのかい?」


「ええ。普通の前衛のジョブの人よりは多いと言われました」


 ラニア治療院の先生がそ言っていたな。

 話を振られたカオリが答える。その言葉を聞いて頷いている先生。


「そうであればこれも言い伝えとしてある話だが、魔法剣というのを覚える努力をしたらどうかな?」


「魔法剣?」


 初めて聞く言葉だ。魔法と剣、一体どんな剣だ?


「魔法剣とは体内にある魔力を武器に伝えさせて武器に精霊魔法を付与することだ」


 と言う先生だが聞いている俺には全く何のことだが分からない。ただカオリやユキはなんとなく想像がついたみたいでなるほど、なんて言っている。何も分からない俺は黙っていることにした。それまでも殆ど黙ってたんだけど。


「たとえば火の魔法を剣に付与すれば片手剣に火の魔法が付与されて火属性の剣となる。氷を付与すれば氷属性の剣となる。魔法剣とは剣に魔法の属性が付与されたものという話だ」


 先生によるとこれもお伽話の話だが、その中では魔法剣を駆使して魔物退治をしていたたそうだ。ここまで聞いてやっと俺もなんとなく理解できたよ。


「やってみたらどうかな?残念ながら私は剣が使えないから無理だが。剣に魔法を付与するのでダメージを与える精霊魔法ほどの魔力はいらないと考えている。そしてその剣の威力は持っている剣に魔法の効果が付与されるので更に強くなるらしい。まあ、実際のところは分からないが。本当に御伽話なのかもしれんがの」


「ありがとうございます。出来るかどうかは別にして挑戦してみます」


 カオリがお礼を言った。


「カオリも分かると思うが魔法剣の発動もイメージが大切だと思う。お伽話の中の魔法剣だが、この3人にはそんな固定概念はないだろうからな」


 先生の言葉に頷くカオリ。最後にもう一度召喚した精霊を見せてくれというので順に呼び出すユキ。全ての召喚精霊を見た先生はスケッチ帳を閉じると立ち上がった。


「廃村を探すのなら山側。ここよりもずっと東側の廃村を探すと良いだろう。このエリアは忘れ去られたエリアと言われてめったに人が来ることがない。土壌もよくない上に街道も走っていない。魔獣もそこそこいる。だからこそひっそり暮らすには適したエリアではある。ただそうは言ってもまだここは街に近い方だ。山側に行けばもっと人と会う可能性が減って安心できるだろう。それに少々の魔獣ならこの3人の敵ではないだろうしな」


 そう言った先生。


「この国の東側、つまり山側には廃村が多いということですか?」


「大雑把に言うとそうなるの。ベールヒルの街は例外となるが、山側には廃村が多い。もちろんまだ人が住んでいる村もいくつもある。自分たちで調べて安全な場所を探すのがよいだろう」


 先生との長い話が終わった。


 そろそろ村に帰るので飛ばしてくれないかと俺に言ってきた。カオリとユキももうこれ以上聞くことはなさそうだ。


「本当なら時空魔法や召喚魔法が実際に存在したというのはこの国にとっては大発見だ。ただ今の世界、この時代、悲しいかなそれが無条件に受け入れられる雰囲気ではない。人は無意識のうちに保守的になり、新しいものを素直に受け入れられなり、拒否する様になるんだ」


 それは俺たちがいた日本でも同じだ。そんなのは聞いたことがない。とか、あるわけないだろうと頭ごなしに否定から入る人の何と多いことか。どこの世界でも同じなんだな。


「色々とありがとうございました」

 

 カオリが挨拶をするとユキと俺も同じ様に挨拶をする。


「今日は実際に召喚精霊を見ることができた。お礼を言うのは私の方だ。またいつでも来てくれて構わないからな」


 挨拶を終えた先生をドランの村の近くまで飛ばした俺。


「ここまで飛ばしてくれたら、ここからは歩いて帰れる。ありがとう。ユイチ、気をつけてな」


「はい。いろいろとありがとうございます」


 別れ際にナッシュ先生が言った。


「ユイチよ。さっきも言ったがお前達3人ががどこの世界から来たのか、それともこの世界での突然変異の様に能力を持ったのか。私にとってはどちらでもいいんだ。それよりも自分が信じていたことがお前達によって実証された。私にとってはそれが一番大事なんだよ。今日は私にとって良い日だった」


 先生が俺たちに十分気を使ってくれていることは俺でも分かった。俺はお礼を言って彼と別れてから転移の魔法で廃村に戻ってきた。カオリとユキが待っていた。


「色々と話合わなきゃいけないね。まずは自宅に帰りましょうか」


「そうね。ちょっと頭の中も整理したいし。ユイチもそれでいい?」


「うん。僕もちょっと考えてみるよ」


 正直今は頭の中が何も整理できていない。自宅に戻ったら整理できるのか?と聞かれたら自信はないけど少なくともここにいるよりは落ち着く分何か浮かんでくるかもしれない。


 それに廃村とは言えここで話をするよりは100%安全な自宅が良いだろう。帰りましょうかというカオリの声で俺とユキが交互に転移の魔法をしてポロの自宅に戻ってきたのは翌日の朝だった。


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