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第56話


 手入れをして安全度が上がった廃村で夜を過ごした翌朝、朝食を食べ終えると、俺はカオリとユキに行って来ますと声をかけてから転移の魔法で廃村からドランの村を目指した。


 2度転移してドランの街の近くの森に飛ぶとそこからは徒歩で村に入っていく。何度も訪ねている先生の家の扉をノックするとしばらくして中から扉が開かれてナッシュ先生が顔を出した。


「ユイチ君か。一人でどうしたんだ?まぁ入りなさい」


 先生の家の中に入った俺はユキが精霊を召喚することに成功して今は2体の精霊を使役できる様になったというと驚いた表情になった。ここからそう遠くない廃村に2人がいるので先生が良ければそこまで飛ばして実際に見られますか?と聞くと是非見たいという。


「この家の庭から飛べば良いだろう。垣根があるので周囲からは見えない。もっともこの家自体が村の外れにあって滅多に人がやって来ないのだがな」


 先生は転移の魔法で飛ぶのも楽しみだと言っている。こっちはもう慣れたけど確かに初めて転移した時はワクワクしたもの。その気持ちはよく分かる。


 早速行こうとナッシュ先生が立ち上がると庭に出ていく。慌てて後をついて庭に出た俺。先生が言う通り庭は高い垣根に囲まれて外からは見えない。これなら安心だ。


「先生、俺の肩に手を置いてください」


「こうかな?」


 肩に手を置いて聞いてきた。今までカオリとユキしかいなかったのでちょっと違和感があるがそれは先生の責任ではない。だからそれでOKですとだけ言った。


「では飛びます」


 最初に飛んだのは森の中だ。


「おおっ、これは凄い」


 先生は感激しているがここで時間は食いたくない。森の中だし魔獣が襲って来ないとも限らない。キョロキョロしている先生の手を自分の肩に置いて2度目の転送が終わると俺たちは廃村の村の広場に着いた。


「転移魔法は凄いな。ユイチは相当の魔力があるな」


 先生、まだ興奮状態だよ。


「ありがとうございます。それより先生」


 俺がそう言うとやっと自分の前にいるカオリとユキに気がついたナッシュ先生。2人がこんにちはと言うとやあと返事をする。


「ここはどの辺りになるんじゃ?」


 ナッシュ先生に聞かれてカオリが土の地面の上に大まかな地図を書いた。


「ここが王都、ここが先生のいるドランの村、ここがレンネル。今いるのはだいたいこの辺りになります」


 地面に描かれた地図を見ていた先生。


「なるほど。この辺りは以前はいくつか村があったんじゃが全て廃村になっておる。ちなみに私が精霊を召喚して畑仕事をさせていたと聞いた村はこの辺りじゃ」


 先生が指差した場所はベールヒルよりもずっと南東の山の方に行ったところだ。当然今は誰も住んでいない廃村になっている。


「じゃあ早速見せてもらおうか。スケッチするが構わんだろう?」


「どうぞどうぞ」


 少なくとも俺たち3人よりは間違いなく絵が上手いはずだ。


 ユキがまずサクラを呼び出した。召喚した精霊の属性とその魔法を披露する。サクラは光属性で強化、回復魔法を唱えることができるんですよ。と話をする。


 ナッシュ先生は彼女の説明を聞きながらふむふむと頷きつつその姿をスケッチしていた。俺が横からちらっと絵を見ると桁違いに上手い。誰が見ても猫だよ。


「先生、めちゃくちゃ絵が上手いですね」


「ありがとう。学者としてあちこち歩き回って話を聞いたその場所の風景を書いている間に多少は上手くなったみたいだよ」


 多少どころじゃない、ささっと書いているその絵が桁違いに上手いんだよ。次に土の精霊のレムを呼び出した。2メートル近いゴーレムが出てきた時は先生もびっくりしてたよ。


「ゴーレムは土魔法と盾をしてくれます。この廃村の柵の修理もゴーレムのレムがやってくれたんです」


「なるほど。となるとやはり召喚した精霊は戦闘以外でも人間の命令を聞いて使役できるということになるな」


 ユキの説明に大きく頷きながら納得している表情になる先生。


「でも呼べるのはこの2体だけなんですよ。他の精霊達の召喚はできていません」


「おそらく他の精霊もいるんだろうがユキの話を聞いているとこちらが本当に困った時に現れて手伝ってくれる様な感じじゃな。それにしても2体も精霊を生で見ることができるとは思わなんだ。私の研究が間違っていなかったことがこれで完全に証明された」


 嬉しそうな顔をしている先生。俺たちも先生の著書からここまで辿り着いている。先生の本がなければ時空魔法も召喚魔法も何も知らず、何も身につけることができなかっただろう。そう言う意味では先生に感謝だ。


「ただ、この召喚魔法もユイチが使う時空魔法も存在しない魔法という認識です。これを知った時の世間の反応が予測できません。ひょっとしたら異端児というレッテルを貼られるかもしれない。そこが悩ましいんですよ」


 ユキが言うと、確かにそうじゃなと言う先生。


「お前さん達はよその世界からからこの世界にやってきた人たちかな?」


 しばらくの沈黙の後、突然そう呟いたナッシュ先生。


 何で知ってるんだ?いや、何でわかるんだ?俺たち3人は黙って先生を見る。俺もここで何で知ってるんだよ?とは言わない。以前の俺なら条件反射で言っていたかもしれないけど、そこは成長している。俺たちが黙っているとナッシュ先生が続けた。


「昔からこの世界には他の世界からやってきた人間が自分達の中に紛れて住んでいるというそれこそ精霊の召喚と同じレベル、いやそれよりももっと御伽話に近い話というか言い伝えがあるんだよ」


 先生の言葉を黙って聞いている俺たち。


「よその世界から来た人たちは私たちが持っていない能力を持っていると言われていた。その能力についてはさまざまな言い伝えがある。大きな岩を持ち上げるほどの怪力の持ち主だとか魔法を使って空を飛んだり何もないところから色々なものを取り出したり」


 いや、それって時空魔法の事じゃないの?怪力は別だと思うけど。そう思って横を見るとユキもカオリも同じ様な表情をしている。


「もともと時空魔法と精霊を呼び出す魔法、召喚魔法というのはよその世界からやってきた人たちが使っていた魔法というお伽話だったのが、長い年月や国内に伝わっていく途中でいつの間にか時空魔法と召喚魔法の2つのお伽話に分かれたという可能性があると私は見ている。この仮説に立つと根っこは1つ、同じということになる」


 なるほど。それで?


「先生、仮に私たちが先生お仰っている他の世界からやってきた人間だとして。今のユキやユイチの能力を持っていた場合、どうなると思われますか?」


「どうなると言うのは仮にお前さん達がそうだった場合にどうしたら良いか?ということだな?」


 お互いに仮定の話として進めていく。こういうやりとりというか話の進め方は俺には絶対にできない。ここはカオリ、そしてユキに任せよう。


 先生は少し考えてから顔を上げた。


「もしその能力を他の者達が知ったとなったら大騒ぎになる。国王陛下まで巻き込むほどの大事になるのは間違いない。そしてそうなった後に考えられるのは2つだ」


「「2つ」」


 俺たち3人で合唱したよ。


「そう。1つは国お抱えの人間として貴族の様な生活が保障される。そして王家の為に尽くすことになる」


 貴族の生活か。言われてもピンとこないな。


「もう1つはその能力を国や王家に向けられると困るということで捕まえて一生牢獄か、下手すりゃ死刑になるだろう」


 投獄だ死刑だ?いやいや、勘弁してくれよ。俺は真っ青になったが隣の二人は表情をほとんど変えていない。


「どちらも嫌だと言ったら?」


 またカオリが聞いた。本当に彼女は冷静だよ。


「人里離れた場所で静かに暮らすことだ。この廃村の様に人が来ない場所で暮らす。必要な時だけ街に出る。人々との接点、特に軍や冒険者ギルドとの接点を最小限にすることだな」


「時空魔法や召喚魔法を使わなければ問題ありませんか?」


 それまで黙っていたユキが言った。


「もちろんだ。それが一番だよ。ただ周囲に誰もいないと思っても万が一ということがある。仮にお前さん達3人があちらの世界から来た人達で私のアドバイスが欲しいということであれば、さっき言ったが、廃村に住んでひっそり暮らす。あるいは街の拠点と廃村の拠点を2つもつことだ。そして廃村以外では時空魔法や召喚魔法を使わずに生活する。廃村に住むのは魔法を使わないと術のレベルが落ちることを避ける為だ。これは普通の精霊魔法でも回復魔法でも同じだ。長期間詠唱をしていないと魔法の威力が落ちることは証明されている。時空魔法や召喚魔法もおそらく同じだろう。ずっと使わないとその効果が落ちるかもしれない。なので廃村を見つけ、そこで魔法の維持に努めると良い」


 要は俺やユキが会得した新しい魔法は絶対に他人に知られてはいけないということだ。俺はふと気がついて先生に聞いた。


「この大陸には他の国もあります。どこの国にもそのお伽話は広まっているのでしょうか?


 俺が聞くと先生が首を左右に振った。


「他の国のことは分からない。この国と同じ考えなのか、それとも理解があるのかないのか。申し訳ないがユイチの質問については分からないとしか言えない」


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