第53話
帰路は4日でポロの街に戻ってきた。俺とユキが交互に森の中を転移で移動してほとんど街道を歩いていない。自宅に戻った俺たちはとりあえず明日と明後日を休養日にする。
「先生にも義理は果たしたし、自分たちのペースに戻りましょう」
カオリの言う通りだ。無理な活動はしないという方針を立てている俺たち。2、3日活動して1日か2日休む。これが自分にとってもちょうどいい感じなんだよな。
ユキはサクラを呼び出すことに成功したが2体目については焦らずやるという。
「何をしてもらうのが一番このパーティにとって良いのかをよく考えないとね。それを決めてから鍛錬するつもりなの」
夕食の時にそう言って、そのあとに具体的に何がいいんだろうという話になった。カオリは盾をしてくれる精霊がいいんじゃないかと言った。ちなみにユキはサクラを召喚していて彼女(?)は今ユキの膝の上に乗っている。
「盾としてどこまで頑張ってくれるのかは知らないけどさ、前衛が2人になったら楽になると思わない?」
確かにそうなると今以上に事故が起こる確率は減りそうだ。盾となると土の精霊になるのかな?なんとなく土壁的なイメージを持っている俺。ただ俺の想像力は相当低いという自負はあるのでお姉さん2人の意見も聞かないと。
「盾となると普通に考えると土の精霊だよね。でもさ、呼び出した精霊の攻撃力が高かったら精霊が結果的にタゲをとってくれてカオリは好きに攻撃できない?」
膝の上のサクラを撫でながらユキが言った。
聞きながら自分から土と言わなくてよかったよ。ユキの方がずっと色々と考えている。それに今の話は俺でも理解できる。精霊が強ければ種類に関係なくヘイトを稼いでタゲを取れるかもしれない。となると強い方がいいんだろうか。何でもいいんじゃね?と言いかけたが止めた。言ったら何を言われるか分かったもんじゃない。
「ユイチはどう思う?」
「俺もパッと思いついたのは土の精霊だったんだけど、今のユキの話を聞いてそういう考えもありだと思った。攻撃力が高いとなると火かな。常時火の玉とか投げそうじゃない」
皆で可能性のある精霊を考えてみる。火、水、氷、土、雷、闇。これくらいかな。次はこれらの中で強そうな、あくまで自分たちが想像している中で強そうな精霊は何かという話になった。
「攻撃系なら火か雷、防御をイメージすると土かな。土は硬そうなイメージ」
「火ってさ、森の中で使ったら木が燃えちゃうのかしら」
ユキが言った後でカオリが素朴な疑問を言った。確かに火の玉をブンブンと投げてそこらじゅうが火の海になるのなら洒落にならない。雷にしても同じだろう。落雷から山火事になったというニュースを見た記憶がある。魔獣が徘徊しているのはたいてい森の中だ。俺も精霊魔法を撃つ時はできるだけ周囲に影響を与えない様にピンポイントで魔獣を狙って撃っている。呼び出した精霊がそこまでコントロールが良いのかわからない。しかも威力が大きかったらどうなる?
3人で相談した結果、一番影響が少なそうなのは風と土じゃないかという話になる。氷は常春のこの地で木や地面に氷が残っていると怪しまれる。まずは風か土の精霊を呼び出してその力を見てみようというという結論になった。あとはユキに頑張ってもらおう。
この日俺たちは師匠の洞窟に飛んだ。普段の活動もこの森の奥でゴールドランクを中心に倒しているんだけど今日は報告がある。ユキが召喚魔法を覚えた報告ですよ。
洞窟の奥で師匠は静かに佇んでおられた。いつも通りだ。俺たちは持参した花を添え、手をあわせる。ただ今日はいつもの3人に加えて妖精のサクラがちょこんと座っていた。
「報告終わった」
顔を上げたユキが言った。これで義理は果たした。師匠がいなかったらこの世界でもっと苦労していたかもしれない、いや苦労ならまだしもすぐに野垂れ死していた可能性もある。俺は師匠からは感謝しても感謝しきれない恩を受けている。この世界の言語理解の水晶、生きていくための方法の指南、そしてお金。最初に師匠に借りたお金はずっと前に借りた金額を師匠の魔法袋に入れて亡骸の横に置いてある。
俺はもう一度師匠の亡骸に頭を下げた。
俺たちはいつも師匠の森の奥を狩場にしている。ここは街から遠いのでまずライバルがいない。それとシルバーランクからゴールドランクまで徘徊していて接敵する回数が多い。それによって時間あたりに倒す数が多くなって稼げる。移動は俺の転移の魔法で庭から出て庭に戻ってくるので問題ない。
同じ場所で飽きないかと思う人もいるかもしれないが、どこに行っても結局森の中を徘徊して魔獣を倒すので同じなんだよな。周囲の景色が変わることはない。森ばかりだ。だからどこで活動しても同じとなればライバルがいない師匠の森になる。
しかも休憩場所が魔獣から見つからない師匠の洞窟だ。周囲を気にせずにしっかりと休憩が取れるのもこの場所で狩りをする1つの理由でもある。
今は休憩中でユキが召喚魔法の鍛錬をしていた。
「土の精霊のイメージが合っていないのかしら」
何度やっても成功しないので少し苛立った口調のユキ。カオリもどうしてだろうねと悩んだ顔をしている。ここは俺の出番だ。
「図書館で見た精霊の絵って擬人化されていたんだよ。もちろんその絵を描いた人は精霊を見て描いていないだろうから空想の世界で思いついたのを描いただけだとは思うんだけどね。俺が何が言いたいかと言うとサクラは光の精霊だったけどそれ以外の土、火、雷、氷、水の精霊は俺たちくらいのサイズの精霊だと思って鍛錬してみたらどうかなってこと」
「なるほど。確かに私はずっとサクラと同じ大きさの精霊をイメージしてた」
「私たちくらいの背丈のサイズをイメージするのか、ユイチ冴えてるじゃない」
カオリに褒められたぞ。ただこれも確定じゃない。あくまで図書館で見た絵の事を言っているだけだからな。
「それでも私達が勝手に抱いていた固定概念を一旦忘れて仕切り直しでやるってのは大事なことよ」
「そうそう。それでダメならまた違う可能性を考えればいいだけだよね」
カオリとユキの2人は決して頭ごなしに否定せずに俺の話を聞いて、自分の中で消化してくれる。最初に会った時からそのスタイルは変わっていない。なので俺も遠慮なく意見が言える様になった。この2人のおかげだな。