第51話
レンネルの街の近くには2日目の夕刻に到着した。そのまま街に入って宿に部屋を取るとそこで食事をしてそのまま部屋で休む。翌朝の速い時間にチェックアウトすると市内で食事をした俺たちは今度は北の王都に続く街道ではなく東のベールヒルに向かう街道に向かって歩き出した。
ここも王都程ではないがそれなりに往来が多い。歩いていると左手、北の方角には高い山がいくつか聳えたってていた。地図に書いてある通りだ。流石にあれは越えられそうにない。
レンネルを出て1日目、2日目と街道沿いの村の宿に泊まることができた。3日目、図書館で見た地図だとこのあたりから北東に行けるはずだ。
「山が切れてるというか低くなってるわ」
街道を歩いているとカオリが言った。確かにそれまでの山と比べるとかなり低くなっている。
「前に森がある。森の中に入ったら道から外れましょう」
前を歩くカオリに付いて俺たちは森の中で街道から北に外れた。もし誰か見ているとしても冒険者が森の中に魔獣退治に出かけたという風に見られるだろう。
道から外れて1時間程歩くと森を抜けた。途中で2度ほどシルバーランクの魔獣と遭遇したが俺たちの敵じゃなかった。こっちも成長しているんだよ。森を抜けると目の前には見草原が広がっていた、その先にまた別の森が見える。
「周囲は安全よ。ユイチ、飛べる?」
「あの森の入り口までなら問題ないね」
「じゃあ飛びましょう」
向こうに見える森の景色をしっかりと覚えてから転移した俺たち。問題なく次の森の入り口に着くことができた。
「いい感じ。この調子で行きましょう」
街道から離れれば離れるほど人と会う確率が減る。心配するのは地図に乗っていない村があってそこの住民に見られるかもしれないと言うことだ。なので俺たちは視界が悪い場所では転移せずに歩いて前方と周囲の安全が確保されているところで転移して移動していく。ユキは精霊のサクラを呼び出した。俺たちと一緒に小走りになってついてくるサクラ。見ていると可愛いんだよな。短い転移をした時にサクラもしっかりと転移できていたので安心したよ。
この日は結構な距離を稼ぐことができた。高い山を目印にしてその右側、東側を移動するイメージで転移を続けていた俺とユキ。この日は草原で野営をする。見知らぬ土地なので3人が交代で見張りをしながら休んだ。
次の日、暫く進んでいくと前方の視界が良くなった。これは前方の方が高い場所にあるからだろう。前方がよく見えると転移の魔法先のイメージがしやすい。カオリとユキがあの辺りと場所の指示をしてくれるので俺は転移の魔法を使ってその場所まで飛ぶだけだ。だいたい俺が3回してユキが1回するというパターンで転移を繰り返しながら山の方に進んでいく。
「あれって村?」
飛んだ先でカオリが言った。隣に立ったユキとサクラの横に俺も立って彼女たちが見ている方に顔を向けると山の谷間に集落が見える。
「廃村っぽいわよ」
「行ってみましょう。ユキ、サクラを戻しておいて」
「分かった」
サクラが消えて俺たち3人はそこから集落に向かって歩き出した。周囲を警戒しながら30分ほど歩くと目指す廃村に着いた。近づいてみると村の周囲を囲んでいた柵はあちこちが朽ちている。
「やっぱり廃村ね」
ユキがつぶやいたがその通りだ。村を囲っている柵は木が腐ってところどころ倒れていて隙間だらけだ。同じ様に倒れていた門から中に入ると家屋もほとんどが朽ちている。
「廃村になってから結構経ってるわよ」
ユキが言うとカオリが続ける。
「10年じゃきかないかもね。30年くらいかしら」
俺には全然わからないが2人は分かるらしい。カオリが俺に顔を向けて教えてくれる。
「日本でニュースというか特番をやっていたのを見たことがあるの。日本で木造家屋の空き家は強化などの手を何も加えていないと5、60年だそうよ。徐々に朽ち果てていくのよ。気候条件が異なるから一概に比較はできないけどこっちの家って日本の家よりも造りが雑でしょ?なので空き家になってから30年位かなって言ったのよ」
物知りカオリ。いや、お見それしました。スマホは見てるくせにニュースやTVの特番なんてほとんど見ていなかった俺とは大違いだよ。
「いずれにしてもこの状態だと誰も住んでないわね」
「これってナッシュ先生が言っていた村じゃないわね」
ナッシュ先生は精霊の話を聞いた村はベールヒルから南の方に5日ほど歩いたところにあった村だと言っていた。ここはベールヒルから見たら北側になる。
「この辺りというか国の北東部のエリアって廃村が多いのかしらね」
「そうかも」
小さな廃村の中をぐるっと見て回ったが気になるものは見つからなかった。サクラはユキの周りを走り回って遊んでいる。最初は俺やカオリを警戒していた素振りだったが自宅や庭で一緒にいるうちに打ち解けてきていた。たまにだけど俺の足元に来てくれたりする。
「サクラは変わらないわね」
走り回っている精霊を見ているユキ。
「ちょっと早いけどここで夜を過ごしましょうか。草原で野営するよりは安全な気がする」
「どうして?」
柵は壊れてる。外から好きに入ってこられるじゃないのと思った俺はカオリに聞いた。
「柵や家を見ても自然に朽ちているでしょ?魔獣に襲われたと形跡が見つからないのよ。つまりこの周辺には魔獣は生息していない。あるいは生息していたとしても私達が気にするレベルじゃないってことにならない?」
そう言われてみると倒れている柵を見ても外部からの力で倒されたという感じじゃない。木の内部が腐食して倒れている。それくらいは俺でも分かる。だったら少しでも遮蔽物がる廃村の中の方が安全だ。
やっぱりリーダーはカオリだ。
廃村に野営すると言っても何があるかわからないので3交代で見張りをして夜を過ごした翌日。俺たちは山間を短い転移を繰り返しながら北東に進んだ。
そうやって進んでいった俺たちの目の前にドランの村が見えてきた。レンネルを出て6日目の昼過ぎだった。