第48話
読んで行くとこれは無詠唱魔法を習得するための方法を指南する本だった。俺もユキも最初から魔法は無詠唱だ。この本もハズレだったかなと思いながらも読んでいると面白い記述が見つかった。
ー 魔法を無詠唱で発動するにはイメージが大事だがそのイメージの持ち方は個人で異なっている。魔法を発動する際の自分をイメージする場合もあれば、発動した魔法が目標に命中する瞬間をイメージすることもある。個人差があるので自分に合ったイメージを作りだすのが良いだろう。
ここまで読んで俺は視線を本から離すと顔を背もたれに乗せて図書館の天井を見る。
今の記述を召喚魔法に当てはめてみる。今までは精霊を呼び出すイメージばかり考えていたが、それでうまくいかないのなら呼び出した精霊がその仕事をしている時のことをイメージしてみてはどうだろう。
火の精霊なら火だるま状態の精霊が燃え盛る炎の玉を投げているところとかだな。自分の頭の中でその状態をイメージすると身体の中で少し変化が起こった様な気がした。
時空魔法を覚えた時よりはずっと小さな変化だがそれでもそれは今までなかったことだ。ユキならもっとはっきりと変化を感じとることができるかもしれない。これはユキに報告しよう。
本は一応最後まで読んだが気になるのはさっきのイメージのところだけだった。俺は本を棚に戻すと司書のお姉さんにお礼を言って外に出た。図書館にいる時は気が付かなかったが外は日が暮れる寸前だった。今日は俺が夕食を作る番じゃないが待たせる訳にはいかないとその場から自宅に向かって駆け出して言った。急いでいるからといって市内で転移魔法を使うほどバカじゃないんだよ。
自宅に戻って3人で夕食を摂りながら今日の図書館で読んだ本について話をする俺。
「なるほど。呼び出すことばかり考えていたけど呼び出して何をさせるか。逆に言うとこれをしたいから出てきてってお願いするイメージね」
「そうそう。俺がそう思った時に小さな変化が身体の中であったんだよ。収納魔法を覚えた時の様な大きな何かを感じた訳じゃないんだけど、それでも俺でも感じれるってことはユキならもっと強く感じられるんじゃないかな」
「ユキ、頑張って。でも根を詰めたらだめよ」
俺とユキとのやりとりを聞いていたカオリが言った。
「ユキならできるよ」
「そうそう、ユイチの言う通り、ユキならできるわ。焦らないで頑張ってね」
数日で会得できる簡単な魔法じゃないけど頑張って欲しい。もちろん俺も部屋でやってみるつもりだ。
召喚魔法の会得が当面の俺たちの目標だ。この3人は召喚魔法が存在すると信じている。ナッシュ先生も信じている様だし何より身体に何か変化が起こったのを実感している。数日後の話ではユキも同じ様な感じになったということでこれは期待が持てる。
ユキには頑張ってもらうとして俺たちは相変わらず外で魔獣を倒す冒険者の生活を続けている。これが生活の糧になっている以上止める訳にはいかない。
最近では師匠の森の奥でゴールドランクの魔獣を中心に倒して時々シルバーランクの魔獣を倒すというパターンになっていた。この方が金策の効率が良いのと自分たちのスキルも上がりやすいというカオリの提案によるものだ。最初はゴールドランクがメインということでびびっていた俺だが慣れると問題なく倒せる様になっていた。慣れってのは大事だよ。
休憩は師匠の洞窟だ。休憩しながらユキが召喚魔法のイメージ作りをしてカオリや俺が時々アドバイスめいたことを言うがなかなか上手くいかない。でもそれが普通なんだよな。俺は自分がヘタレな人間だからわかる。大事なのは継続ですよ。継続は力なり。誰かが言っていた言葉だけど誰が言っていたかは知らない。でもその言葉は好きだ。
「それって明治から昭和初期にいた住岡夜晃って人が言った言葉みたいよ」
すげぇ、カオリは何でも知ってるんだ。
「諸説あるみたいだけどね」
いやいや凄いよ。頭いいんだな。凄いなと言って感心している俺の頭をトントンと叩くカオリ。
「夜の知識やテクニックだけ知っている訳じゃないのよ。分かった?」
「はい、分かりました!十分に理解しました!」
俺がそう言うとカオリが続けて言う。
「ユイチ、今夜は夜の魔法の鍛錬は無しよ。昼の知識だけじゃなくて貴方がまだまだ知らない夜の知識ももっといっぱいユイチに教えてあげる」
「お願いします!」
思わず頭を下げちゃったよ。
必死で鍛錬を続けているユキの横でこんな話をしてもいいんだろうかと思うがそこらへんはこの2人は割り切っている様だ。まあ2人に問題がないのなら俺は何も言わない。
「上手くいかないなぁ」
まるで俺とカオリの話が聞こえなかった様にユキが言った。いや、絶対聞こえてただろうと思うがユキは上手くいかない、もどかしそうな顔をしている。
「もう少しかなって気はしているの。でも最後の何かが足りないみたい」
そこまで感じられるのって凄いよ。俺も密かに召喚魔法の鍛錬はしているが図書館で感じたほんの少しの感覚から何も成長していない。
「呼び出す精霊もさ、何ていうか呼び出す難易度みたいなのがあるかもしれないね。ひょっとしたらユキは難易度の高い精霊を召喚しようとしているのかも」
今日のカオリは冴えまくっている。言われてみるとそれも十分にあり得る話だ。じゃあ召喚しやすいのって何だろうという話になった。
俺たちは狩りをすることも忘れて師匠の洞窟の中で話を続けている。
「水かな、それとも風かなぁ」
「土なんてどうかな」
俺とユキでそんなことを言い合っていると本日冴えまくりのカオリが言った。
「攻撃魔法じゃなくってさ、強化魔法だって精霊がいるんじゃないかな。ユキは僧侶だからさ、そっち系の魔法の方がいいかもよ」
「そうか!言われて見ればそうだよね」
凄いよ。カオリ冴えまくり。確かにそうだよ。攻撃魔法だけじゃないよ。強化魔法とか回復魔法だって精霊の力を借りられるかもしれない。
これからは強化や回復魔法のお手伝いをしてもらうイメージで鍛錬をするというユキ。いつまでも話し合いばかりって訳にはいかないのでその後も森で魔獣を倒した俺たちはどっぷりと日が暮れてから転移の魔法で自宅に戻ってきた。
この日冴えまくりのカオリは夜も冴えまくりだった。