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第47話


 ポロの街に来て3年と少しが過ぎた。俺も気がついたら22歳になっていた。この世界では成人は17歳だ。当然成人式もない。着物姿の綺麗なお姉さんも見ることがない。


 いや綺麗なお姉さんは俺の目の前に2人いる。着物姿じゃないが。



「今日も稼ぐわよ」


「おー!」


 カオリの気合いの入った声に応える俺。狩りの場所は師匠の洞窟がある森の奥だ。最近はゴールドランクメインで時々シルバーランクを倒す様になっていた。これは俺が真面目に精霊魔法を撃ち始めてからこうなったんだよな。それまで適当にやっていたけど最近は集中して魔法を撃っている。そのせいか魔法の威力と命中率がまた上がった様な気がしている。


 今もユキの強化魔法を受けたカオリが森の中で見つけてこちらに引っ張ってきたゴールドランクの角がある水牛の魔獣を俺の重力魔法からの精霊魔法でごっそりとその体力を削り、カオリが片手剣を一閃して首と胴を綺麗に2つに分けていた。


 倒すと俺が周囲を警戒している中、カオリが魔石を取り出し、ユキが手際よく必要な部位を収納していく。本来これは男性の仕事だと思うのだが彼女達は任せてと自分たちで処分をする。その手際がいい。間違いなく俺よりも仕事が早い。俺は彼女たちの手を洗うために空中に水の玉を浮かせる。毎回ありがとうと言ってくれる二人。


「いい感じね」


「うん。今日も稼げそう」


 冒険者は魔獣を倒して生計を立てている。沢山倒すこと、これ即ちお金持ちになる近道だ。しっかりと1日森の中で魔獣を倒しまくった俺たちは師匠の洞窟経由でポロの自宅に戻ってきた。転移の魔法を使う時には細心の注意が必要だ。森の中とは言え誰かが見ているかもしれない。そんな中洞窟の中で転移の魔法を使うのが一番安全なんだよな。


 王都から戻ってきて3日働いて1日、時に2日休むと言うローテーションで活動をしているが狩場への移動の時間が大幅に短縮できていることもあり1日あたりの稼ぎは以前よりもずっと多い。ギルドにはバレない様にカオリが上手くギルドに出向く日を調整してくれている。今も2人の収納に入っている魔石と魔獣の部位の数を聞いていたカオリ。


「その数があるのならしばらくは外に出るのは控えた方がいいね。毎日少しずつギルドに出向いて換金していくわ」


「どれくらい休む?」


「3日、確実なら4日かな」


「じゃあ明日から4日休みにしようか。私も召喚魔法の鍛錬に集中したいし。ユイチもそれでいい?」


「異議なし」


「決まりね」


 と言うことで明日から4日休日になった。カオリはギルドに顔を出す予定だしユキは部屋や庭で魔法の鍛錬をするという。俺はどうするかなと考えて魔法の鍛錬以外に図書館に通うことにした。


 召喚魔法という魔法の本を探すのではなく子供の絵本なんかにある精霊の姿をイメージできる本を探そうと思う。良いのがあればユキにも説明がしやすいだろうし。俺自身のイメージ作りにも役立つ。


「ユイチ、今日は夜の魔法の鍛錬はなしよ」


 夕食を終えて食器を洗っている時、俺の隣で洗った食器を布で拭いているユキが言った。


「はい。分かりました!」


 

 翌日ポロの図書館に顔を出すといつもの司書さんが座っていた。ナッシュ先生に会えたことを言おうかなと一瞬思ったが、時空魔法や召喚魔法のことがあるので黙っていることにする。


 相変わらず中は人が少ない。俺は子供の本が集まっている棚にいくとそこで妖精と精霊の絵本を探す。ふと目についた本を手に取ってページをめくってみるとそこには羊と牛の絵が描いてあった。


『羊さんです。メェメェと鳴くんだよ』とか『モーモーと鳴く牛さんだよ、大きいよ』と絵の横の吹き出しの中に書いてある。子供向けの絵本はどの世界でもだいたい同じ感じなんだなと妙な所で感心して思わず他のページも見ちゃったよ。


 いや、こんなことをする為に図書館に来たんじゃない。気持ちを入れ直して妖精、精霊という名前がタイトルに入っている本を探すと1冊見つかった。手にとってみると確かに精霊の絵がいくつか描かれてある。俺はその本を持ってテーブルに座った。


 自分たちが子供の頃に見た妖精や精霊の絵、大きくなってからはゲームに登場する妖精や精霊、俺はそう言うものだとイメージをしていたんだがこっちの世界にある絵本を見ると違っていた。


 こちらの世界での妖精や精霊は擬人化されている。人間と同じ体形をしているが全身が燃え盛っている。日本じゃこういう状態を火だるまと言うんだがこの世界ではこれが火の精霊だったりする。びしょ濡れになって立っているとしか見えない男が水の精霊だとか、半透明になって地面から少し浮いている女性が風の精霊だそうだ。まるで幽霊だよ。どれも大人の人間と同じ体形で描かれている。何というか妙にリアル感があるんだよな。


 これだとこの世界の子供達の想像力が培われないんじゃないかな。まあ、俺がそんなことを心配しても仕方ないか。この絵を描いた人だって俺みたいな素人にあれこれ言われたくないだろうし。それに俺が想像力豊かな人間かと聞かれれば否だ。


 誰も見たことがないと言われている妖精や精霊だからこの絵に描かれているのが正しいとは思えない。むしろ画家さんの思いつき、当人の想像で描いたものだろう。でもこっちの人はそう言う認識で妖精や精霊を想像しているってことだ。


 とりあえずこの世界の人がイメージしている妖精、精霊ってのはどういうものなのかというのは少し理解できたぞ。


 棚を探してみたが精霊、妖精の絵本はあれ一冊だけだった。読み終えた俺はナッシュ先生が描いた魔法の本が並べられている棚に移動する。


 背表紙を見て行くと俺がすでに読んだ本ばかりだが、一冊だけ以前読まなかった本を見つけた。


『無詠唱魔法』


 というタイトルの本だ。今更無詠唱魔法かよと思ってそれまで手に取っていなかったんだが他の本は目を通してこれだけ読んでいなかったのでその本を手に取るとテーブルに座って読み始めた。


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