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第45話


「まず最初に皆に言わねばならん。私にその話をしてくれた村人、長老はもう生きておらん。そしてその村自体今はもうないんじゃ」


 先生によると国中を歩き回ってあちこちの村を訪ねるとその村の長老に話を聞くそうだ。長老だけに言い伝えられているという村の伝説の話があることが多い。


「もちろん最初から話をしてくれる人ばかりじゃない。いくら魔法学院の教師と言っても田舎の村の人から見たらよそ者だからな。だからあちこちの村を訪ねるとまずは酒を飲んで親しくなる事から始める事が多かった」


 レンネルの街から山側、東のベールヒルの街に伸びている街道を進んでいき、ベールヒルの街の手前を右に、南に降りる道に入る。その道を5日ほど歩くとビセウという人口が500名ちょっとの村があり、精霊の話はその村で聞いたのだと教えてくれた。ただその精霊の話を聞いた長老がいた村は高齢化が進み最終的に全員が村を出て廃村になったのだと教えてくれた。


「あの本には書かなかったことがある。あくまで長老から聞いた話から私が推測しただけなので文字にはできなかったのだ」


「それは何でしょうか?」


 黙っていたカオリが聞いた。


「長老の話では精霊を使役して畑の仕事の手伝いをさせていたということだ。そこからの推測だが召喚された精霊は戦闘をさせるためではなく誰かの手伝いをしたり守ったりするのが目的なんじゃないかと」


 何を言いたいのか俺は分からない。隣を見るとカオリもユキも同じ様な顔つきだ。一呼吸おいて先生が言った。


「つまり召喚魔法に適しているジョブは精霊士ではなく僧侶じゃないかと考えておる」


「なるほど。召喚した精霊を攻撃の手段として考えるんじゃなくて自分たちの身を守ったり手助けをしたりすると考えるのですね。となるとそれに適しているのは先生の仰る通り精霊士じゃなくて僧侶になる。精霊士は攻撃魔法ですからね」


 カオリが言うとその通りだと頷く先生。


「精霊士が無理だと決めつける事はできんが会得しやすいのは僧侶じゃないかな。と言うのが私の推測だ。もちろん魔力量が多いという前提条件はあるが」


 たいていの人たちは自分の魔力量なんて知らない。冒険者にならない限りは測定することもないのがこの世界だ。農家に生まれた子供のほとんどは親の仕事を継いで農家をやる。魔力量が多いからとか少ないからとか考えない。


 言い伝えが本当だとすればその農民は持っている魔力量が多かったのだろう。そしてその人はその多い魔力量で精霊を呼び出して自分の畑仕事の手伝いをさせていたのかもしれない。ただし村人にはジョブという概念がないから自分の予想も100%そうだとは言い切れない。ただ先生は精霊の役割から見ると精霊士よりも僧侶の方に適正があると見ているそうだ。


「それとだ、精霊は1種類とは思っておらん」


 ん?どう言うこと?


「具体的には木の精霊、火の精霊、水の精霊など自然界に存在する様々な事象に精霊が宿っていると考えておる」


「精霊魔法で言うところの水、火、氷、土、風、雷、これらに対応している精霊がいるということですか?」


「対応しているかどうかは知らぬが水にも土にも風にも精霊がおる。というのがあちこちを尋ねて話を聞いてきた私の中での結論だ。精霊は自然界のあちこちにおる」


 俺の質問にそう答える先生。その記述は俺も読んだことがあるぞ。この世の中のあちらこちらに精霊が存在していると書いてある本が多かった。


「その中で呼び出せるのは1体だけなのか、複数体呼び出せるのか。彼らを同時に呼び出せるのか。それは分からないんだ。これはそこの僧侶さんに頑張ってもらうしかないの」


 神妙な顔をして先生の話を聞いていたユキが頑張りますと答えている。


「まずは1体の精霊を呼び出すんだな。精霊を呼び出すのは簡単ではないだろう。ただし1体の呼び出しに成功すれば他の精霊達を呼び出せるのは最初の1体の時ほどの難しさはないだろう。私はそうみている。そして僧侶が精霊を呼び出すことに成功すれば私の予想が正しかったということにもなる」


 これも理解できる話だ。0から1を作り出すのは大変だけど1から増やしていくのは最初に比べると難易度は高くない。そして先生のジョブと精霊との関係も少なくとも俺は先生の仮説というか予想が正解な気がする。証拠はないけど。


「今話をしたのが私が知っている全てだ」


「「色々と教えて頂いてありがとうございます」」

 

 3人で頭を下げた。


「もし召喚魔法を身に付けることができたらここで披露してくれるかの」


「分かりました」


 

 俺たちは最後にもう一度お礼を言ってナッシュ先生の家を後にして宿に戻ってきた。時刻は昼過ぎだった。短い様で結構長居をしていた様だ。


 宿に戻ってきた俺たちはレストランで遅めの昼食を摂りながら話をする。


「これはユキに頑張ってもらうしかないわね」


 方針は決まった。精霊の話をしてくれたという村はもうない。となるとポロに戻って鍛錬をするしかないよな。


「カオリ、ユイチ、色々教えてね」


「もちろん。イメージ作りのお手伝いをするよ」


「私も手伝うわよ。もしユキが召喚魔法を会得したら盾ジョブの代わりになるかもしれないしね」


 その通りだ。自分たちを守ってくれる、自分たちの手伝いをするという召喚された精霊の仕事から考えると敵から身を守る盾になってくれるかもしれない」


 この日は村に泊まって翌朝先生に挨拶をする。


「またいつでも来てくれて構わない」


「ありがとうございました」



 俺たちは今回の旅の目的を達成したのでっポロの街に戻ることにした。村からは転移の魔法で時間を稼いで王都近くまで戻ってきた。

 

 ここからは来た道を逆に南に歩いてポロを目指す。相変わらず人の往来が多い。魔獣を気にしなくても良いのは楽なんだけど転移をするのは無理だ。見つかるリスクが高すぎる。俺はもちろんだがお姉さん二人も目立ちたいとは思っていない。

 

 レンネルの街を過ぎてポロに続く街道になると人の往来がグッと減ってきた。俺たちは転移の魔法を使ってショートカットして距離を稼ぎ、結局ポロの街を出てから1ヶ月と少しが経った頃に再びポロの街に戻ってきた。


 自宅に戻ると帰ってきたよという気になる。この世界での俺の実家はポロのこの家だ。一番リラックスできる場所だよ。


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