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第44話


 ナッシュ先生の家は1人暮らしにしては小綺麗に片付いていた。1階はキッチン、リビングと書斎、寝室は2階にあるそうだ。俺たちは広めのリビングに案内された。


 最初にカオリがこのドランの街に先生を尋ねて来た経緯を説明する。ポロから王都に出向いてそこの魔法学院の副校長のアン先生からこの村の事を聞いた。ドラン村に来てからは図書館の司書がこの家を知っていたので尋ねてきたというカオリの話を黙って聞いていたナッシュ先生。もちろんアン副校長先生の伝言もしっかりと伝えたよ。


 先生は魔法学院を退官してすぐにこの自分の出身地であるドランの村に戻ってきてもう15年になるという。奥さまは5年前にこの地で亡くなられたそうだ。


「魔法学院のアンは私が魔法学院に勤務しておった時、私のアシスタントをしてくれていたんじゃよ。当時から私が研究していた時空魔法は御伽話の世界の話しで、そんな魔法は存在しないものだと決めつけている者が学院内に多くてな。研究しようにも誰も協力してくれん。当然予算もつかん。そんな中、彼女はこの偏屈な私を助けてくれての。彼女をアシスタントとして2人で研究していたんじゃ」


 2人で作った本だから魔法学院編纂となったのだと言うナッシュ先生。


「理論的には時空魔法は存在してもおかしくない。魔法自体がある意味何もない空間に火や水や雷を起こしておるだろう。回復魔法についてもそうじゃ。同じ様に考えると収納、重力、などの魔法が存在しない理由が考えられなかったのじゃ」


 そこで一息つく先生。


「それで先生は時空魔法を見つけて会得されたのですか?」


 ユキがそう聞くと先生は空間に右手を伸ばして何かを掴む仕草をすると次の瞬間に先生が突き出した右手には本があった。


 収納魔法だ。先生は取り出した本をテーブルの上に置くと言った。


「これが収納魔法。覚えたのは1年ほど前じゃよ。学院を辞めて田舎のこの村に戻ってきてから毎日鍛錬してようやく身に付けることができる様になった。ただ収納できるのはせいぜいこのサイズの本が2冊ほどじゃ。とてもじゃないが実践で使える魔法じゃない」


 そう言ってからじっとこちらを見てくる先生。


「普通なら収納魔法を見せると驚くはずじゃがお前さん達は全く驚かないの。何か細工でもしたと思っておるのかな?」


 その言葉でカオリがユイチ、と名前を呼んだ。見せろということだな。


「いえ。実は俺もユキも収納魔法は覚えているんです」


「なんと!本当か?」


 目を見開いた先生。


 まず俺が収納魔法から暖かいオークの肉の串刺しを取り出してテーブルの上に置いた。続いてユキが同じ様に収納魔法で暖かい湯気の立っているスープを取り出した。


 驚愕した目でテーブルの上に並べられた湯気を立てている料理を見ている先生。


「俺は時空魔法について書かれた先生の本を読みました。それで空間を調整する魔法がはるはずだと毎日イメージしながら鍛錬をして身につけたのです。隣のユキも同じです」


「収納魔法の中では時間が止まる。それも予想通りだ。そ、それでお前さん達の収納量はどれくらいあるんだ?」


「2人ともこの部屋くらいでしょうか」


「この部屋か。ものすごく大きいな。容量については魔力量に関係があるんだろう」


 ナッシュ先生は魔法学院の教師でありながら魔力量は多い方じゃないらしい。授業で魔法を見せる分には全く問題ないが冒険者の精霊士や僧侶になれるほど多くはなかったのだという。


「2人とも時空魔法を身につけたと言ったな。じゃあ転移や浮遊魔法も身につけておるのか?」


「転移魔法は2人とも使えます。浮遊魔法は今のところは俺だけです」


 見せてくれというので俺とユキは立ち上がると部屋の隅から反対側に転移した。その後俺はリビングの中で浮き上がってそのまま移動する。


「存在したんじゃ、時空魔法は全て存在していたんじゃ!」


 大声を出して叫んでいる先生。


「これは先生の前だから披露しました。俺たち3人はこの魔法は誰にも見せていません」


「ユイチが言った通りです。この魔法を他の人に披露するのは初めてです」


 俺に続いてユキが言った。

 はぁはぁと荒い息を立てている先生。そりゃそうだろう。相当興奮してるもんな。ようやく呼吸を整えて落ち着いた先生が言った。


「それが良いだろ。この時空魔法は御伽話だとずっと言われておった。それが実在したとなると魔法界がひっくり返る騒ぎになる。私の収納魔法も誰にも見せておらんし言ってもおらん。もっとも本2冊程度なら魔法として使えんしの」


 自嘲気味にいう先生。いやそんないじけなくてもいいんじゃないの?実際に時空魔法の中の収納魔法が使えるんだし。


「今二人の時空魔法を見て、自分が研究していた魔法が実際に存在していることを再確認することができた。それだけで十分じゃ。もちろん報告書を作ったり誰かに言うつもりもない。そこは安心してくれ。自分が人生を賭けて研究してきた魔法、それが確かに存在したのだからな。研究者冥利に尽きる」


 最初に会った時から先生は信用しているよ。俺はそう思っていたし他の2人もそうだろう。だから先生の前で魔法を披露しろっと俺に言ったんだ。


 先生は収納魔法は使えるが浮いたり転移することはできなかった。彼は俺とユキの魔力量について聞いてきた。ラニア治療院で測定した結果を報告すると納得した表情になる。


「精霊魔法や回復魔法については魔力量とはその魔法が打てる回数に関係してくるが撃つつ魔法の威力は魔力量には関係がない」


 言っていることはわかるぞ。魔力量が多いから数が打てるのは経験から知っている。


「一方で時空魔法、これは完全に魔力量頼りの魔法になるんじゃ。だから私も収納魔法らしきものは使えるが転移や浮遊となると根本的に魔力量が足りない。そう考えていたがそれが正しかったということじゃな」


 その通りだよ。


「それで先生、時空魔法はなんとか会得できました。ただ先生が書かれた精霊を召喚するという魔法。これが全く上手くいきません。今回来た目的は先生が書かれた本でどこかの村は昔精霊を呼び出して畑仕事を手伝わさせていたという記述を読んだからです。その村に行くことで何かがわかる、掴めるのなら村に行こうと思っています」


 俺にしては今日は長く話をしている。今日だけは3人の代表として話をしないといけないからな。変なことを言ったらカオリとユキがフォローしてくれるはずだ。


「精霊を呼び出して使役する。私はそれを召喚魔法と名付けた」


 そう言ってから今度ナッシュ先生は召喚魔法について話始めた。


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