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第43話


 王都の魔法学院を後にした俺たちは一旦宿に戻ってきた。次の目的地が決まった以上ここに長居をする必要はない。


 カオリもユキも王都には買い物に来た訳じゃないので早く移動しようと言ってくれた。結局悠久亭には1泊だけして俺たちは宿をチェックアウトすると屋台で飯を食べ、その足で王都を出発した。


「何かバタバタだね」


 王都を出て東に伸びている街道を歩きだしてしばらくして俺が言うと2人とも目的地がわかったのだから急ぐのは当然よと言った。


「王都は来ようと思えばいつでも来られるからね。それに物価の高い王都に長くいると金欠になっちゃうわよ」


「いつもお世話になっているユイチに私たちが協力するのは当然よ」


 いつも世話しているつもりはないんだが。ひょっとして月に1、2度俺の部屋に来ているアレか?確認するためには直接彼女に聞かないといけない。俺は聞くのをやめた。


 レンネルの街から王都へ来た時の道は人の往来が多かったが王都から東へ伸びているこの街道は人が少ない。物流も多くないのだろう、道幅もそれほど広くない。


 となると転移の魔法のマーキングがしやすくなるということだ。しかも道の左右に森が迫っている場所が多い。


 俺たちはいかにも今から魔獣を倒してきまーすと言った体を装って森の中に入っていった。もちろんこの森に魔獣がいるかなんて誰も知らない。ただこう言う時に冒険者の格好は有効だ。森に入ると俺とユキで目立つマークを見つけては記憶する。


 そんな調子で街道や森の中歩いて進んでいった夕刻、村を見つけた。1軒だけ宿があって幸に部屋も3つ押さえることができた。レストランも村に1軒だけある。夕食はそこでとることにする。


 レストランで働いている給仕のお姉ちゃんによると王都からドランという村までにあと2つ宿泊施設がある村があるのだと教えてくれた。


「1日だけ野営になるのかな?」


「そうですね。明日は村や宿がない場所ですね。ただ広い草原になっていて魔獣もほとんど生息していない安全地帯なので皆そこでテントを張っているって聞いてます」


 ドランの街までは比較的安全らしい。そこから山の中に行くと魔獣が出現するエリアになるのだと言う。聞いている限りドランの村までは命の心配を余りしなくても良さそうだ。


 給仕のお姉さんが厨房に引っ込むと3人で話をする。


「ルート上は問題なさそうだけど油断は禁物よ。マーキングできそうな森を見つけたら言ってね。街道から外れるから」


 カオリが大きな方針を出して、それにユキが色付けをして作戦を仕上げていく。これがこのパーティのやり方だ。結成以来これは変わっていない。そして最後はいつもこうなる。


「ユイチはそれでいい?」


「もちろん。問題なし」


 2人から聞かれて俺が答える。これで全て丸く収まる。


 翌日は野営だったが前日の宿のレストランの給仕さんが言っていたとおり、街道沿いの草原の一角に複数のテントが張ってあった。俺たちもその一角に大型テントを張って野営する。食事は暖かい料理を食べてしっかりと栄養を補給する。魔獣はいないと聞いていたがそれを鵜呑みにしている様では生き残れない。交代で見張りをしながらそれでも十分に安むことができた。


 途中で野営を1日だけして後は村の宿に泊まりながら東を目指した俺たちは予定通り5日目の昼過ぎに無事にドランに着いた。


 ドランは自分の想像よりもずっと大きな村だった。これはナッシュ先生を探すのに苦労するかもしれない。


 大きな村なので宿は数軒ある。その中で上から2番目に部屋代が高い宿の3部屋を押さえた俺たちはシャワーを浴びると早速情報収集に動き出す。まずは宿の関係者にアンドレアス・ナッシュ先生の事を聞いてみたが誰も知らなかった。


 ただ、ある従業員から魔法学院の先生をしていたのならこの街の学校に顔を出してみたらどうかというアドバイスをもらったので、翌日宿を出てこの街にある学校に向かって歩いている時、その途中で街の図書館を見つけたので寄ってみる。ポロに比べるとずっと規模が小さい図書館だが図書館がある街はそう多くない。


「寄ってみようか」


 図書館を見つけたら寄るのは当然でしょう。


「そうだね」


 お姉さん2人もOKしたので寄っていくことにする。中に入ると図書館というよりは学校にあった図書室と言った方が良いくらいこじんまりとしていた。


 入り口に座っている司書の女性にアンドレアス・ナッシュ先生について聞いてみた。


「アンドレアス・ナッシュ先生なら村の外れにある一軒家に住んでおられますよ」


「おおっ」


 図書室、もとい図書館に寄って大正解。いきなりピンポイントで場所がわかったぞ。詳しい場所を聞いた俺たちは広い村の中を目的地に向かって歩いていった。


「ユイチ、ナイスだね」


「本当、惚れ直しちゃったわよ」


 ストレートに言われると赤面しちゃうよ。


「ありがとう」


 としか言えない俺。



「あれかな?」


 市内の土の道路が伸びている先、密集していた人家から少し離れた場所、村の中の草原みたいな場所にポツンと一軒だけ立っている木造の2階建の家をユキが見つけた。司書から聞いていた場所にある家、あれが先生の家だろう。


「こんにちは」


 家の前でカオリが声を出した。しばらくして玄関のドアが開くと中からメガネをかけた白髪の老人が出てきた。いかにも学院の先生といった風貌だ。想像していたよりもずっと若く見える。外に出てきた老人は俺たち3人を見てから声を出した。


「冒険者達かい。わしの家に用かな?」


 しっかりとした口調だ。


「アンドレアス・ナッシュ先生ですか?」


「いかにも」


 カオリがやりとりをしていたがここからは俺の役目だ。一歩前に出ると俺は首に垂らせているギルドカードを先生に見せながら言った。


「先生の書いた本を読んで詳しい話をお伺いしたいと思ってポロからやってきました。俺はユイチ、こちらがカオリ、こちらがユキ。3人でパーティを組んでいます。シルバーランクの冒険者です」


 うん、事前に何度も練習した通り言えたぞ。


「私のどの本を読んだのかな?」


「各地に伝わる精霊伝説という本、そして王都魔法学院が編纂した時空魔法の本を読ませていただきました。この場所は魔法学院の副校長先生をされているアンさんから聞きました。」


 俺が言うとそうか、アンから聞いてやってきたのかと呟きながら頷いている先生。


「ポロから王都経由で来たと言ったの。単なる冷やかしじゃなさそうじゃな。中に入りなさい」



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