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第42話


 王都に入る長い列に並んで王都に入ったのは夕方近い時間だった。ギルドには顔を出さずに通りに並んでいるお店や屋台に顔を出しておすすめの宿をいくつか聞いた。もちろん宿を決めるのは女性2人だ。こだわりがない俺はどこでも全く問題ない。


 カオリとユキがここにしようと決めた王都の宿は商業区の外れ、居住区の近くにある大通りから少し入った場所にある2階建てのこじんまりとした宿だった。


『悠久亭』という看板が掲げられている宿に入ると正面がフロント、その右手が食堂で左手は部屋になっている。1階と2階に部屋があり2階の部屋を3つ並びで取る事ができた。ひょっとして2部屋?いやいや今回は大事なミッションがあるからそれはないだろう。そこは俺も自覚しているんだよ。


 カオリがフロントで魔法学院の場所を聞いてくれた。ここから居住区に入って15分程歩いたところにあるらしい。部屋でシャワーを浴びて1階の食堂で夕食をとることにする。今回は遊びじゃない。まず目的を達して、それから時間があれば王都観光しようという事にしている。


「今日はしっかり休んで明日の朝学院に行きましょう」


「「おっけー」」


「それにしてもこの宿に来る道すがらに見ただけだけどさ、やっぱり王都って広くて人が多いわよね」


「それに大通りに面しているお店の服見た?どれもこれも高いわね。ポロの倍近い値段がついていたわよ」


「そうそう。びっくりよね」


 方針が決まるとカオリとユキがそんな話を始めた。短い時間でよく見ているよ。俺は王都に入ったあとは2人の後をついて歩きながらキョロキョロしているだけ、完全にお上りさん状態だったよ。そしてキョロキョロしていた割りには何も頭に残ってない。でかい街だ。それだけだ。


「物価は高そうだけど食事は美味しいわね」


「ポロじゃ見ない野菜ね、これ。しかも美味しいじゃん」


 王都は大陸の中央部よりやや北に位置している。一方でポロは南だ。収穫できる野菜も違っているんだろう。ユキが言っている通りこの野菜は美味い。仕事が終わったら市場で買って帰ろうと決めた。



 しっかり休んだ翌日、俺たちは宿を出ると教えてもらった魔法学院を目指して朝の居住区を歩いている。王都は商業区もそうだったがここ居住区も道幅が広くて綺麗で歩きやすい。当然だが俺たち3人は皆冒険者の格好だ。


 目指す魔法学院の門が見えてきた。敷地を囲んでいる塀は横にも奥にも長く伸びていて広大な敷地であることがわかる。


 正門の隣に小さな通用門があり、その門が開いていた。カオリ、ユキ、俺の順で通用門から中に入ると詰所から衛兵が2人出てきた。


「王都魔法学院に何か用か?」


「こんにちは。ここに勤務されていたアンドレアス・ナッシュ先生の話を伺たくてやってきました」


 こう言う場面では美人は特だ。カオリがニコッとするだけで気難しそうな衛兵の顔がニヤけてきたよ。


「それならここを真っ直ぐ行った正面の建物があるだろう。あの1階が事務所になっているのでそこで聞くといい。それ以外の建物には行かないでくれよ、学生さん達が勉強しているからな」


「分かりました。どうもありがとう」


 お礼を言って魔法学院の敷地内の道を進んでいき、正面の建物の門を開けた。中に入ると正面には受付があり、その後ろに2階にあがる階段がある。左右を見るとそこもカウンターがありその奥はどちらも執務室になっていた。


 扉を開けてそのまま受付に歩いていく。受付に座っている2人の女性が立ち上がった。


「こんにちは。私たち南のポロからやってきました。冒険者をやってる私はカオリ、こちらがユキ、それで彼がユイチです」


 カオリが代表してギルドカードを受付に置いた。


「はい。それで今日はどう言ったご用件でしょうか?」


 身分を言ってカードを見たからか受付嬢の緊張が解けた様に俺には見えた。実際はしらんけど。そう思ってるとカオリが言った。


「ユイチ、説明して」


「分かりました」


 俺は前に出ると2人の受付嬢に今回の目的を言う。


「こちらの魔法学院に勤めておられたアンドレアス・ナッシュ先生にお会いしたいんです。先生が書かれた本をポロの図書館で読んだんです。自分は精霊士をしているんで先生の話が面白くて直接先生から話を伺う事ができないかと思ってポロからやってきました。もし先生が住んでおられる場所がわかるのであれば教えていただけませんか?」


 前日にカオリとユキからしっかりと教えられた通りに言えたよ。1人だけじゃもっとまとまりの悪い説明になっただろう。


 俺が説明を終えると1人の女性が分かりました。少々お待ちくださいと言ってと立ち上がると入り口から入って右側のオフィスの中に歩いていった。受付の前で手持ち無沙汰で立って待っているとオフィスにから1人の年配の女性を連れて受付嬢が戻ってきた。


「初めまして。この王都魔法学院の副校長をしておりますアンと言います」


 副校長先生とな。偉い人が出てきた。俺たちは改めて自己紹介をした後でアン副校長にもう一度話をする。時空魔法という本が王都魔法学院編纂となっていたこと、ナッシュ先生が書かれた『各地に伝わる精霊伝説』と言う本を読んで同じ精霊士として興味があるので話を聞きたいと思って尋ねてきたといったことを説明した。


 黙って俺の話を聞いていたアン副校長。


「分かりました。こちらにどうぞ」

 

 俺たちは受付の奥にある階段を上がって2階にある応接室に案内された。

 ソファに座るとアン副校長が俺たち3人を見て話をする。


「ナッシュ先生が書かれた本の名前やここ魔法学院が編纂した時空魔法の本の名前が出てきましたのであなた達が本当に先生に会いたくて王都までやってきたということが分かりました」


 そう言われてホッとしたよ。時空魔法の本も魔法学院編纂と書いてあるが実際にはナッシュ先生が中心になって書いた本らしい。


「ナッシュ先生はもう10年以上も前にこの魔法学院を退官されて今はお一人で暮らしていらっしゃいます」


 おっ、まだ元気なんだ。


「ただ王都には住んでおられないんです」


「えっ!?」


 思わず声が出ちゃったよ。隣からユキが黙っててという仕草をする。すみません。


「先生はこの魔法学院の在職中から時間を見つけては神話関係、特に魔法に関する神話やお伽話、各地の言い伝えを聞くために国中を歩かれていたんです。定年になってこの学院を辞められる時に、これからは自分のやりたいことをすると仰って王都からご出身の田舎の村に戻っていかれたんですよ」


 そう言ってアン先生は今先生が住んでいる街を教えてくれた。そこは王都から東、山に伸びている街道を5日ほど歩いたところにあるドランという街らしい。


「奥様は随分前に亡くなられて今はお一人で住んでおられるはずです。貴方達はドランの村に行くつもりですか?」


「もちろんです」


 ここまで来て行かない訳はない。


「先生にお会いしたら時間があればまた魔法学院に顔を出してくださいと言伝をお願いできますか」


「分かりました。必ず伝えます」


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