第41話
レンネルの街までは一度行っている。事前の3人での打ち合わせで王都に続いている街道は人の往来が多いので、安易に転移魔法は使わない方が良いだろうと言うことになっている。
なのでレンネルまでショートカットできるところは最大限に利用して時間を短縮する。街道を外れて森の中に入ると転移。転移先からまた転移という事を繰り返しながら街道を北に進んでポロを出て2日目の夕刻にレンネルに着く事ができた。ここまでは順調だ。
このレンネルの街は泊まるだけだ。カオリとユキはこの街の雰囲気が自分たちに合わないと言っているし俺も正直好きになれない。刺激が好きな人にとってはそれなりに楽しめる街なんだろうけど、地味に生きていたいと思っている俺には関係がない話だ。
南門から街に入った俺たちはそのまま市内を真っ直ぐに歩いて、東西南北の通りが交わっている中央広場を越えて北門に近い場所にある宿に部屋を取った。冒険者ギルドから離れているのと宿代が少々高めだということで柄の悪そうな連中や冒険者は泊まってない。
ロビーやレストランにいる人のほとんどが商人風の男女だった。2階の続きの部屋を3つ取り、夕食も宿のレストランだ。徹底しているよ。
「前回は観光。今回は目的があるからね。無用なリスクは極力避ける。これが大事なの」
「そうそう、ここは目的地じゃないし、王都には1日も早く着いた方がいい。今日はしっかりと休んで明日は早朝に街を出て北を目指しましょう」
もう何度も目の当たりにしてるけど、2人は気持ちの切り替えというか優先順位の付け方が俺とは全然違うんだよ。こっちは社会にも出たことがない学生で言ってみりゃ世間知らずだ、その上にチキンでもある。のんびりやりゃいいかと思って優先順位とかあまり考えたことがない。むしろどっちかと言うと行き当たりばったりのところがある。学生ならそれで何とかなっちゃうんだよな、そう思っているのは俺だけかもしれないが。
一方カオリとユキは社会人として今やるべき事は何か、後に回してもよいのは何か、そしてやってはいけない事は何か。というのを常に考えて行動している。2人を見ているだけで勉強になることが多い。
「王都に着いたらその足で魔法学院に行ってみましょう」
食事をしながらカオリが顔を上げて言った。
「そうだね。王都のギルドなんて別に顔を出さなくってもいいし」
ユキがそう言ってからいいよね?と俺に聞いてくる。もちろんOKだよ。食事が終わると俺の部屋で打ち合わせをする。
「それで王都で先生に会えたとしてどういう風に話をしようか」
「いきなり精霊を使役していたという村の話を聞きにきましたと言ってもまともに聞いてくれるかしら」
冷やかしと思われたらおしまいだ。最初のコンタクトが非常に大事になってくると話をしている二人。
「ユイチ、何かアイデアある?」
俺も実際会ったらどうするか。自分で考えていたんだよ。
「時空魔法を覚えた時に参考にした本。その本の製作者として王都魔法学院編纂と書いてあったんだよ。おそらく同じ先生が関与していると思うんだ」
俺の話を黙って聞いてくれている2人。
「もし時空魔法の本も同じ先生が書いてあるとして、こちらの誠意というか、本気度を見せるためにユキと俺が会得した収納魔法を披露したら先生も納得してくれるんじゃないかな」
「なるほど。でもそれはこっちの手の内を晒しちゃうことになるよね。時空魔法はできるだけ人には見られたくない。なのでまずは低姿勢でお話を伺いに来ましたという形で入る。話が進まないとかこちらを疑っているとなった時に最後の手段として時空魔法を見せましょう」
「カオリのアイデアで俺は構わない。こっちが魔法を披露するのはそれ以外に先生を納得させることが出来ないという場面でいいと思う。話しただけで教えてくれたらそれが一番いいからね」
当たり前の話といえばそうなんだけどこうやって自分たちの方針を確認しておくのが大事だというのをこの2人と付き合い始めてからよくわかったよ。事前に意見をすり合わせておかずにその場で各自が勝手な思いつきをいうことで混乱したり相手が気分を害したりしたら元も子もない。
先生に会えたとして話の切り出しは俺だろうが、そこからの交渉は2人に任せることになった。
翌朝、日の出前のまだ薄暗い時間にレンネルの街を出た俺たちは街道を北上していく。歩き始めて皆気がついた。王都とレンネルとを繋いでいる街道の道幅が広い。
「レンネルで港町サンロケ、山の町のベールビル、そして南のポロ。3つの街から伸びている街道が合流して王都に向かう1本の道になっているせいか道幅が広くなってるわね」
「本当、しかも行き交う人や馬車の数も多いよ」
王都に行く、北上する人や南下してくる人でこんな朝早い時間でも自分たちの視界から人が消えることがない。しかもレンネルから北のエリアは草原に街道が伸びている。見えるずっと先に森があるが今のところ森の中や近くを通る様な感じではない。
「これはなかなか厳しいわね」
歩きながら左右の見ているユキが言った。何のことかを言わなくてもカオリも俺も分かっている。転移をする場所が見当たらない。街道の付近はずっと草原だ。普通に歩く分には気持ちがいいし安全なんだろうけど今の俺たちにとってはそうではない。
「このまま10日程歩いて行くことになるかもね」
「仕方ないね」
俺が言うとそう言うことと納得している2人。道は人通りが多いがそのおかげでちょうど1日歩いた夕刻になると宿のある村や小さな街がある。そこで部屋をとってベッドで休めるし時にはシャワーも使えたりするので1日歩いた疲れを取る事ができたよ。
王都に近づけば近づくほど人の往来が多くなってきた。そしてレンネルを出てから俺たちは魔獣の姿を全く見ていない。
「メインの街道だということ、草原に伸びている道だということで魔獣が出ないんだろうね」
王都まであと3日という時に止まった宿のレストランで食事をしている時にカオリが言った。
「王都にも冒険者はいるんでしょうけど、彼らが間引きしているってこともあるわね。そして鍛錬は王都の南以外のエリアでやっているんでしょう」
こうしてみるとやっぱりポロの街は特別なんだろう。イケメン達がわざわざ王都からやって来るというのも分からなくもない。鍛錬する場所が限られるんだろうな。冒険者達にとってはこのあたりは美味しい場所じゃない。
その後も人通りの多い広い街道を歩き、村に泊まって休んではまた北上していた俺たち。3日後の昼過ぎ、俺たちの前にとてつもなく高くて長い王都の城壁が見えていた。
王都に着いた。さぁ、アンドレアス・ナッシュ先生はいるかな。