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第40話


 ギルドを出てレストランで3人で昼食を食べ終えるとカオリとユキはポロ市内をぶらぶらすると2人で商業区に向かって歩いていった。俺は彼女達とは逆方向、居住区にある図書館に足を向ける。


 図書館に入るといつもの司書の女性が座っていた。この人はきっと俺のことを変なやつがまた来たよ、なんて思ってるんだろうな。


「あの、すみません。精霊関係の書籍ってどこにありますか?」


「精霊関係ならあちらのコーナーの左から2番目の奥の書棚の下の方にありますよ」


「ありがとうございます」


 流石にプロだよ。変な奴に聞かれても表情ひとつ変えないし、本がある場所も覚えている。凄いな。


 お礼を言って司書が言っていた奥の書棚の下を見ると精霊と書かれている本が5冊かたまっていた。とりあえず全部手に持ってテーブルに座る。いつも通り図書館は空いていた。俺以外に3人がそれぞれ離れた場所に座って静かに本を読んでいる。


 精霊の本も御伽話と同じでよくまぁここまで書けるもんだと感心するくらいだ。でもこれはフィクションの小説だと思えば有りなのかな。


 書いてある内容はどれもこれも似たり寄ったりで精霊は森の深いところに住んでいて普段人前に姿は見せないとか影から人間を守ってくれているとか。小さい子供に読んで聞かせる内容だよ。


 ハズレだったかと思って4冊目の本を読んでいると今までと違った記述があった。


ー 妖精を仲間にする者がいるという ー


 そんな書き出しで始まっているページを見つけた。おっ、ひょっとして。と期待して読み始めるとすぐにがっかりする。これはタイトル詐欺だよ。日本ではネットでしょっ中タイトル詐欺を目にしていたがこっちの世界でもあるとは。


 刺激的なタイトルで気を引かせているが内容は今まで読んできた精霊の内容と同じ、いやそれよりも酷かった。自分の思い込みだけの内容で取材をしていないのが丸わかりだよ。それまでの本は一応その地方を訪ねて伝承されている話を聞いた上での推察という形だったがこれは最初から推測だけだ。


 この本にも無かった。俺は最後の1冊を手に取った。5冊の中で一番薄い本なので期待はしていない。読み始めると例によって各地の伝承や御伽話をベースに書いてある。この本も外れだったのかと思って読んでいくと最後の所にこんな記述があった。


『筆者がその村で聞いた話だとその村の先祖の中には精霊を呼び出して農作業の手伝いをさせていた者がいたという言い伝えがある』


 今までとは違う切り口だ。精霊を戦闘に使うことしか考えていなかった俺だが確かに戦闘以外でも精霊を使役できれば役に立つ場面が多いだろう。しかもこの本を書いた人はちゃんと現地に取材に行っている。日本だと何と言うんだっけ。コタツ記事だっけ?取材にも行かず自室コタツで人から聞いた話やネット上の話を確認もせずに適当に記事にして発信している記者と名乗る資格もない連中とは全然違うぞ。


 その本の筆者名を見ると アンドレアス・ナッシュとなっている。俺は椅子から立ち上がると入り口の近くにあるカウンターの中に座っている司書の女性にこの筆者を知っているかどうか。知っているのならどこに住んでいるか分かりますか?と聞いた。普段から変な奴だと思われているだろうからここは低姿勢で接するのが波風が立たないだろう。


 村の場所がわかれば訪ねてみるつもりだ。でも目の前の彼女が知っている可能性は低いだろう。そう思っていた。


 司書さんは本を見てから俺に返しながら言った。


「アンドレアス・ナッシュさんは伝記作家さんですね。もうお年のはずですが王都に住んでいらっしゃると思いますよ。この人は以前は魔法学院の先生だったんです」


 えっ、そこまで分かるの。凄いな。めちゃくちゃ詳しいじゃないの。


「凄いですね。作者の名前を聞いただけでそこまでわかるんだ」


 そう言うと今まで常に無表情だった司書さんの顔が一瞬恥じらう表情になった。


「実は私、この作者さんの本が好きなんですよ。子供頃よく読んでました。司書になった頃にはたまに新作がこの図書館にも入荷していたんです。その本が王都からの荷物に入っていましたから覚えているんです」


 なるほど。それで納得したよ。それにしても無愛想だと思っていた司書さんだがいい人だったんだ。いや、俺が知りたかった情報を教えてくれたから評価を変えた訳じゃない。聞いたことにきちんと丁寧に答えてくれたからいい人だということだよ。


 俺はお礼を言ってその本のタイトル『各地に伝わる精霊伝説』と作者の名前を紙に控えると本を戻してお礼を言って図書館を出た。



「決まりね」


「うん。決まりよ」


 夕食の時に図書館で調べた精霊や召喚の御伽話、そして司書さんから聞いた話を2人にすると、話を聞き終えるなりカオリとユキがそう言った。


「ユイチ、王都に行くわよ」


「えっ!」


「当たり前じゃん、ここまで情報があるんだよ。行って本人に会って村の場所を聞いたら今度はその村を訪ねましょうよ」


「そうそう。それにそのお方はお年なんでしょ?元気なうちにに会わないとね」


 今でも元気かどうか、もっと言うと生きているのかどうかは知らないがこの2人の決断力と行動力には圧倒される。俺は以前の3人の話でゴールドランクになったら旅行に行こうという話をしていたのでその時に王都に行けばいいかな。なんて考えていたんだけど2人は早く行った方が良いという。そりゃ早く行けるのならそれに越したことはないけどいいのかな?ゴールドランクに上がるのがまた遅くなるんだけど。


「これはランクを上げることよりも大事なことでしょ?」


 俺がそう言うとカオリにビシッと言われてしまった。その通りなので頷くしかない。


 そんな訳で俺たちはレベル上げを横に置いて王都に行くことになった。と言ってもじゃあ今から行こうぜと簡単にはいかない。遠出をするには準備が必要だ。


 ギルドの資料室で見た地図によると王都はこの前港町サンロケを訪問した時に立ち寄ったレンネルの街からそのまま北上したところにある。ポロからだとレンネルまで4、5日、そこから王都までは10日から12日程度かかりそうだ。


 レンネルまでは人の目を避けて転移魔法を使いながら移動するからかなり短縮できるだろう。そこから先は未知の場所になるので往路は歩いて行くことになる。



「20日分、余裕を見てもう少し多めに食事を持って行こうか」


 自宅で食事をしながら打ち合わせをしている時に俺が言った。飯は大事だよ。


「それがいいんじゃない?王都は物価が高そうだしさ、こっちでできるだけ準備しておこうよ。収納があれば腐らないし」


「一度遠出を経験しているから準備も楽だね」


 ユキの言う通りだよ。港町サンロケまで行って戻ってきた経験は大きい。


 3日後に準備が整った。翌日の朝、俺たちはギルドに声をかけてから王都を目指すべく街道を北に歩き出した。


 果たしてアンドレアス・ナッシュ先生に会えるだろうか。


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