第39話
結局休養日の2日間の午後をどちらも図書館に籠った俺。そこで分かったことは御伽話の中では精霊を召喚する魔法があるらしいという事だけだ。成果はほとんどなかったが俺的には全然問題がない。こっちはスーパーマンじゃないしすぐに探し物が見つかる方が稀だってことはよく知っている。
2日間の休養明け、俺たちは自宅の庭からいつもの場所に飛んだ。森の中から奥にかけて歩き回りながらシルバークラス、時々ゴールドクラスの魔獣を倒しては魔石を集めていく。疲れたら師匠の洞窟で休憩だ。
「今日はこの場所で日が暮れるまで狩りをしてから直接庭に戻ろうか」
「いいんじゃない?ユイチの魔法があればひとっ飛びだしね」
「うん、問題ないね」
洞窟の奥、師匠の亡骸の前でユキが収納魔法で持参した温かい串焼きを食べ、冷たいジュースを飲みながら話をしている。
「精霊を召喚するってどういうイメージがいいんだろうね」
ジュースを飲んでいるカオリが言った。
「あるかどうかが分からない魔法だよ。本当に御伽話の世界の話かも知れないし」
俺はそう言うが2人はそう思っていた重力魔法や収納魔法が実際に存在したじゃないと言っている。
「本当に何もないのなら御伽話にすらならない気がするのよね」
そう言ったユキ。彼女によると話の元となる実話があるんじゃないか。それを誇張して伝承されて来たんじゃないかと。
「日本の御伽話の感覚とは同じじゃない気がしているのよ。実際ユイチが魔法を見つけきてるしさ」
言っていることは分かるんだよ。でもあるとしてどうやって目に見えない精霊を召喚するのか。そこの糸口すら見つかっていない。
「ユイチならやってくれるでしょ」
「そうそう、期待してるわよ」
何だよ、その根拠のない応援は。でも俺自身も100%絵空事、御伽話だとはまだ思っていなんだよな。そんなもんあるわけ無いだろう。とは決めつけずに引き続き調べてみよう。
休憩の後も日が暮れるまで森の中で魔獣を倒した俺たちはすっかり日が暮れた頃に転移の魔法で自宅の庭に戻ってきた。夕食の時の話で明日は3人でギルドに換金しに行く事になった。俺がギルドの資料室に行くからついでに換金をしてくると言うと2人がじゃあ3人で一緒に行こうよと言い出したんだよな。
「ユイチ1人じゃ心配だしね」
「そうそう。お姉さんがしっかりと守ってあげるわよ」
「子供じゃないんだけど」
俺がそう言ったら、2人から私たちと一緒に行くのが嫌なの?と詰め寄られてしまった。
「まさか」
「なら問題ないわね」
となった経緯がある。本当は2人にはゆっくり休んで貰いたかったんだけどな。でも一緒に行くのは正直嬉しい。そう思っているとカオリが言った。
「ユイチが明日寝坊しない様に今夜は私が一緒に居てあげるわね」
「はい!わかりました」
翌朝、自宅で朝食を済ませた俺たちは3人とも冒険者の格好でギルドに顔を出した。時間帯的に冒険者はいないだろうと思って扉を開けるとホールに併設している酒場のテーブルに王都から来ているイケメンゴールドランクパーティの5人が座っていた。
「彼らよ」
ギルドに入るなり隣にいたユキが小声で教えてくれた。確かに全員男前だ。それに背も高そうだよ。俺は175センチ程だけど5人は座っていても180以上の身長がありそうだ。よく知らない俺が見ても全員が高級そうな装備を見につけている。金かけてるよ。
彼らの横を通り抜けてカウンターに行こうとした時にイケメンのリーダーに声をかけられた。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶をしてきたら挨拶を返さないとな。同じ冒険者仲間だし。
「3人はここポロ所属の冒険者なの?俺たちは王都からやってきたんだよ。俺は戦士をやっているジョージ。よろしく。ゴールドランクだ」
椅子から立ち上がって挨拶をしてきたジョージというイケメン男。
「私たちは3人でポロで冒険者をやってるの。シルバーランクなの。私はカオリ、戦士よ。そしてこっちがユキ、僧侶。それと彼がユイチ、精霊士。よろしくね」
俺がどう言う返事をすりゃいいのかと思っているとカオリが皆の紹介をしてくれた。助かった。
「3人で活動してるんだ。珍しいね」
そう言ったのは座っている椅子の横に頑丈な盾を立てかけている男だ。この男もなかなかのイケメンだ。というかカオリとユキが言っていた通り5人全員がイケメン顔している。
「そうね。でも私たちは昔からの知り合いでパーティ組んでるからこれでいいのよ」
相手がイケメンだろうが何だろうがカオリは対応を変えない。すげぇよ。表情も全くかえないんだ。
「そうなんだ。よかったら少し話をしていかないかい?地元の人しか知らない情報とかあった教えて欲しいんだよ」
彼が言うと他の4人もそうそう、いろいろ教えてよ。なんて言っている。どうなるのかなと思っているとカオリが言った。
「ごめんなさいね。私たち今日休養日なの。ギルドに来たのは昨日の換金とちょっと資料を見るためで、その後予定があるのよ。地元の話なら他の人からでも聞けるからそっちから聞いてもらえるかしら」
一気にそう言うとじゃあまた。とテーブルから離れてカウンター足を向けた。俺とユキもその後をついてカウンターに言って魔石や部位の換金を終えると奥にある階段で2階の資料室に入った。誰もいない資料室に入るとカオリとユキが笑い出した。
「カオリ、ナイスよ。最後見た?あの男達のバカみたいな顔」
「そうそう。皆口を開けてポカンとしてさ。自分達が声をかけた女が自分たちから離れていくなんて信じられない。そんな表情してたわよ」
カオリが言うと、ユキがこんな顔してたとその時の男達の顔真似をするとカオリが笑いながらそうそう、そんな顔そんな顔と言っている。俺もユキの顔を見て確かにそんな顔だったなと思わず笑っちゃったよ。それにしてもすごいよ。恐らくあいつらは今まで女達から無碍に扱われたことがなかったんだろう。でも彼らがこの資料室まで上がって来るんじゃないのかな? 俺が心配してそう言うと2人はそれは絶対に無いと言う。
「いい?ああいう人たちってプライドが高いのよ。常に自分の方が上だって思っている人によくありがちね。そんなプライドが高い彼らが自分から2階にやってくる、頭を下げるなんて有り得ない。カオリがガツンと言ってくれたからもう私たちに構う事もないでしょう」
「なるほど。そう言うものなんだ」
鈍い俺だって分かったもの。彼ら5人がカオリとユキに興味があるって。俺は完全に無視されていたがそれはもう慣れてるよ。
ギルドの資料室には御伽話の類の書類はない。ここは過去からポロ所属の冒険者達が倒してきた魔獣の報告がまとめられている。どんな場所にどんな魔獣がいたのか、その強さはどれくらいだったのか。ギルドが冒険者から聞き取りをしてまとめた資料がある。
ひょっとしたら戦闘の合間や移動中に精霊を見かけたとかいう記述がないか、それを調べにきていた。ここで見つかることは正直期待はしていないが、それでも一応チェックする必要はある。
午前中いっぱいを資料室で過ごしたが気になる記述は見つからなかった。でもそれでいいんだよ。無かったという事実が大事なのだから。
「付き合ってもらって悪いね」
資料を棚に戻した時に俺が言うと2人に怒られた。
「何他人行儀な言い方してるのよ。私たちがユイチのために尽くすのは当然でしょ?」
「魔法が見つかったら私たちも楽になるしさ、ユイチが気を使う事無いわよ」
「すみません」
2人にそう言われて謝るしかない俺。
資料室から1階に降りるとホールに王都から来ている5人はいなかった。居たらどうしようかと思っていたから正直ホッとしたよ。何せチキンだからな。