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第37話


 2人の話を聞いてから俺は何事にも意識して真面目に取り組む様にした。それまで魔法の鍛錬だけは真面目に取り組んでいたがそれ以外についても手を抜かない様にしようと決めた。地味に生きるというポリシーに変わりはないが全力で地味に生きることにする。


 外で魔獣を倒す時にも自分の魔法の威力をきちんと把握して無駄撃ちがない様にし、転移の魔法を使う前に自分でも周囲を警戒する事を心がける。できる事から少しずつやっていこうと決めた俺。そう思って意識し始めると今までいかに自分が適当にやっていたのかが良く分かる。カオリが言っていたが手抜きしまくりだったよ。その分二人に負荷がかかっていたということだよな、本当に申し訳ない。


 そのせいかどうかまでは分からないがこの日以来活動で得られる魔石の数が多くなった。効率的に動けている証左なのだろう。


 カオリもユキもやればできるじゃない。と言ってくれる。二人の心遣いに感謝ですよ。


 しっかりと魔獣を倒した俺たちは夕刻にポロの街に戻ってきた。カオリが倒した魔獣の魔石の一部を換金すると言ってギルドに顔を出し、俺とユキは先に自宅に戻って夕食の準備だ。カオリが夕食当番の時は基本ユキがギルドに顔を出して換金する。どっちにしても俺はギルドに行かなくて済んでいる。だから同業の冒険者と知り合い機会が無いとも言えるが、知り合いを作る為にギルドに顔を出したいとは思ってないのでこれでいい。基本ボッチの性格は世界が変わっても変わらないんだよ。


「王都から来たゴールドランクのパーティがギルドにいたわよ」


 自宅に戻ってくるなりカオリが言った。この日は俺が夕食当番でキッチンで夕食を作っていてユキは自室でシャワーを浴びて着替えてきたところだ。そのまま3人でテーブルに座る。


「それでどうだった?」


 食事が始まってすぐにユキが聞いた。


「男ばかりの5人パーティ。リーダーの男性はイケメンと言えばイケメンなのかな。この街所属の女性冒険者達はきゃーきゃー言ってたけど。私から見たらそんなにイケメンって感じじゃない。それに何より私のタイプじゃない」


 3人でテーブルに座って食事を摂り始めるとカオリがギルドで会ったイケメンの話をする。それを聞いている俺とユキ。カオリによるとそのイケメンは金髪で背が高く、キリッとした顔立ちで鼻筋が通っているらしい。いやいや、聞いている限り思いっきりイケメンじゃないの。


「こっちの女性から見るイケメンってのがどんな顔のことなのか私も明日見てこようっと」


「そうしてみて。ユキの意見も聞きたいわね。それでね、今日見てたけどリーダの彼、裏があるわよ」


 カオリがユキに言った。それを聞いたユキがほんと?と言った後、


「だとしたら嫌だね」


 と短く言った。俺は二人の会話の意味がわからん。思わず聞いたよ。


「裏がある?どういうこと?」


 俺が言うとカオリが説明してくれた。表の顔と裏の顔があるってことらしい。そんなの分かるのかよ。俺がびっくりしている顔を見ている二人。


「ユイチ。何で分かるの?って顔してるね」


 カオリが言った。


「そりゃそうだよ。だって会話をせずに見ただけでしょう?」


「だから分かるのよ」


 へ?どういうこと?


 カオリによると少し離れた場所からそのイケメンを見ていると皆と話をしている時はすごく爽やかな男性なんだけど何度か話し相手から見えない様に顔を横に向けてにニヤリとする表情になったらしい。話をしている相手にはその表情を見せないから分からない。あえて少し離れた場所から見ることで見えてくるんだそうだ。


「そう言う人って本心を隠して爽やかな人を演じていることが多いのよ。日本で仕事をしていた時に何度か会ってるわ」


 CAの時も年齢に関係なくそう言う男性がいたのよと言うカオリ。


「すけべとかじゃないの。むしろ逆で爽やかでよく気が付く男性。一見すごくいい人に見えるんだけどね、相手が自分に好意を持ってくれていることを逆手にとってマウントを取る男性ね。モラハラ気質の男性。そんな男性と付き合ったら大変よ」


 そこまで言い切るってことは過去に付き合ったことがあるのかな?と喉元まで言いかけたがグッと堪える。黙って俺とカオリのやりとりを聞いていたユキもいたよねとカオリに同調する。


「こっちのそのイケメン君がどう言う性格かは知らないけど、日本だったらそう言う男って女を堕とす事が楽しいみたいでさ、付き合ったら相手の女性を自分の小間使いの様な態度で接するか、或いは貢がせるとかね。ホストに近いかな」


 ホストみたいなもんだと聞いてようやくイメージができた。


「それとあとの4人も顔は並以上かな。普段からモテているせいか女性の扱いが皆慣れているのよ」


「ああ、私はそれ無理」


 王都の連中から見たら田舎町のこのポロの女共はちょろいもんだとでも思っているのかな。


「私たちはそんなに頻繁にギルドにも行かないから関係ないけどしばらくこの街にいるって話だから毒牙にかかる女性は出るかもね」


 そう言ったカオリが持っているフォークを肉に突き刺した。今日は鹿肉のシチューだ。俺の得意料理の一つ。ちゃんと昨日から準備をしておいたんだよ。


「きつい言い方だけど自業自得だね」


 同じ様にフォークに肉を突き刺しているユキがそう言うとそのままフォークを口に運ぶ。


「ユイチも一度は会うんじゃない?しばらくポロにいるみたいだし」


「一度くらい顔を見るかも知れないけどそれだけだよ。話もしないだろうし」


「でも気を付けていた方がいいわよ。ああ言う人って相手の性別関係なく自分が頂点に立って支配したいと考えている性格の人が多いから」


 怖い話だよ。今の2人の話を聞いて俺は最初から近づかないことに決めた。それにしてもこの2人はいつも冷静なんだよな。


「カオリもユキもいつも冷静だよね。周りに流されたりせずにしっかりしているしさ」


 俺がそう言うと2人は顔を合わせて小声で話をすると含み笑いをしている。あれ?俺何か変なこと言った?そう思っているとカオリが俺を見て言った。


「ありがと。私たちはいろんな人を見て来たからでしょうね」


 でもね、と続けてカオリが言った。


「ユイチと一緒に過ごす夜だけは別。あの時はユイチに狂わされっぱなし。毎回我を忘れちゃうのよ」


「そうそう。私も毎回ユイチには狂わされてるわよ。何言ったか全自分じゃ全然覚えてないし」


「そりゃどうも」


 これは俺は2人から褒められていると言うことでいいんだよな。と同時にこの二人を裏切ったりしたら今日のシチューの鹿肉の様に二人からフォーク、いやもっとえげつない凶器で刺されるかもしれない。自分が裏切るなんて事はないがその時を想像するだけで身体が震えてきた。


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