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第34話


 次の日、朝の混雑が終わった頃を見計らって俺は1人で冒険者ギルドに顔を出した。予想通りギルドの中は閑散としている。朝一番でクエスト用紙をちぎってクエストを受けた冒険者達は今頃は街の外で魔獣を相手にしているか護衛クエストで街から離れていっているのだろう。


 受付で倒した魔獣と魔石の買取を依頼し、解体場に死体を出して戻ってくると受付をしてくれた女性が言った。


「査定の間、ギルドマスターがユイチさんと会いたいと仰っています」


 ギルマス? 俺何かしでかしたか?

 いつもならこういう場面ではカオリが全面に出て対応してくれるんだが今日は俺1人だ。仕方がないので受付嬢についてカウンターの奥にある部屋に入る。ポロの街に来て結構な時間が経っているけどここのギルドマスターに会うのは今日が初めてだ。


 案内された部屋に入るとそこはギルマスの執務室だったらしく、机に座っていた大柄の男が立ち上がって近づいてきた。いかついおっさんでその体格で圧倒されそうだよ。


「ここポロの冒険者ギルドのギルドマスターをやっているスミスだ。よろしく」


「はぁ、俺はここで精霊士をやっているシルバークラスのユイチです」


 座ってくれというので勧められるソファに座るとその向かい側にギルマスが座った。案内してくれた受付嬢も飲み物を持ってくるとそのままギルマスの隣に腰掛けた。これから何が始まるんだ?とすでに緊張してびびっている俺。チキンの自分がギルマスとまともに話なんかできるはずだないだろうが。


「リラックしてくれていい。何も取って食おうって話じゃない。雑談だと思ってくれていい」


 そりゃそうだろう。食うのなら俺じゃなくてカオリかユキだよ。男が男を食っても仕方ないぞ。ってそう言う意味じゃないか。それよりも、今思ったことをあの2人に言ったらどえらく怒られそうだ。うん、黙っていよう。


「ユイチはラニア治療院は知っているだろう?」


 ギルマスが話を切り出した。カオリやユキのことを考えていた俺はその声で現実に引き戻される。ラニア治療院?


「もちろん。この街で冒険者登録をした時にここで紹介されましたし、その後も魔力測定で顔を出したことがあります」


 俺の話をうんうんと聞いているギルマス。まだ目の前に座っている偉い人が俺を呼び出した真意が分からない。腹芸は苦手というか全くできないんだよ。もちろん相手が何を考えているのか俺に分かるはずもない。


「ギルドが紹介したということから分かると思うがあの治療院とギルドとは持ちつ持たれつの関係になっている。つまり冒険者の情報交換をしているということだ。こっちからは冒険者を紹介し、先生からは冒険者を治療や検査をした時の情報をもらっている」


 つまりツーカーって事だ。別にギルドと治療院がツーカーでも構わないんじゃないかと思っている俺。黙っているとギルマスが続けて話してくる。


「それでだ、ラニア先生からは定期的にレポートが来るんだがそのレポートでとんでもなく魔力量が多い精霊士がいるという報告が上がってきた。それが君だ」


 なるほど、そう言う話かと納得する俺だが別に魔力量が多いのがどうしたんだ?と思っている。


「確かに先生からは魔力量が多いと言われましたけどそれがどうかしたんですか?」


 思ったことをそのまま聞いた。


「いや、それだけだよ」


「へ?」


 ギルマスの答えに素っ頓狂な声を出してしまう。どういうこと? そう思っているとギルマスが続けて言った。


「ギルドとしてはこの街所属の冒険者の技量や得意技などについて把握する必要がある。情報は様々な形で入ってくる。それをまとめて管理しているのが俺、というか各都市のギルドマスターだ」


「はぁ」


 このおっさんは何を言ってるんだ?ギルドに所属している冒険者の個人情報を握ってると自慢してるのか?


「今はこれだけだ。ただ将来は分からない。ユイチが魔力量が多いという事で何か頼むことがあるかもしれない。もちろん無いかもしれない。これから先、ギルドから依頼が出た時に協力して欲しい」


 結局俺はギルマスが何を言いたいのかよく分からないまま、分かりましたと答えるとギルマスの部屋を出ると、預けていた魔石と魔獣の死体の清算を済ませて自宅に戻ってきた。結局よく分からないままだ。


 夕食の時に二人にその話をすると食事の手を止めて俺が話し終えるまで黙っていて聞いてくれた。


「と言うことなんだけどさ。これってやばいこと?」


 ギルマスとのやりとりを話終えた俺が二人に聞いたところ二人ともそれは全然やばい事じゃないわよ。と口を揃えて言った。それを聞いてとりあえず安心する。


「ユキが明日ギルドに行ったら同じ様に言われるかもね」


「そうね。もし呼ばれたらはいはいと聞き流しておくわ」


 ユキもカオリもギルドが冒険者の情報を管理するのは当然だからねと気にしていない様だ。肝っ玉が太いというか何というか。チキンの俺とは大違いだ。


 2人が俺の方に顔を向けた。


「ここポロのギルドとして所属している冒険者については把握しているよと言うのが今日のユイチとギルマスの話。ある意味ギルドとしては当然の事をしているだけ。それ以上でもそれ以下でもないわね」


「その通りだね。だからあまり過剰に反応せずに今まで通りでいいと思う。私たちはこのポロでゴールドランクを目指して活動する。ゴールドになったらあとは3人でのんびりと過ごすってのが目標でしょ?旅行に行ったり買い物をしたり。最低限の稼ぎがあればいいと思ってるし、今のままでいいと思う。変に意識する方が目をつけられそう」


 カオリとユキが大丈夫よと言った理由を説明してくれる。


 2人の話を聞いて確かにギルドとして所属している冒険者の事はちゃんと見ているよ、と言っているだけの気がしてきた。俺はもともと目立ちたくないと思っていたからギルドに目をつけられたかもと思ってしまったが、普通なら逆にギルドは俺たちのことを知ってくれているのだろうかと思うだろう。そんな人にとっては今日の話を聞くとやっぱりギルドは俺をしっかりと見てくれているんだな。と安心するという訳だ。


 正反対な反応をするのは俺くらいか。元々目立ちたくないというのが活動のベースにあるから自分の存在を知っている人がいるという事が分かると緊張してしまうんだよ。


 それにしても流石に社会人経験のある2人だ。色々と癖はあるが2人ともたいしたものだよ。俺が納得したのが表情に出たんだろう。


「わかったみたいね。ユイチは気にせずに今まで通りでいいわよ」


「そうそう。お姉さん2人がしっかりと守ってあげるからね」


 女性2人に守られるのもどうかとは思うが。俺はお願いしますと頭を下げた。


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